オススメマンスリー

2019年1月29日更新


新年を挑戦の転機に

 「俺は今、こういうメロディーが書きたい」「私が書きたい詞はこういうものだ」――作家たちの意気込みが"こだわり"に聴こえる何曲かが揃った。歌い手の個性を生かし、あるいは進化を期待する思いが、その芯にあるだろう。
 新しい年を迎え、間もなく新しい年号に変わる。それを転機と捉え、歌社会の人々が創意工夫を凝らして挑戦するなら、頼もしい限りだ。はやり歌の拡散小形化や低迷を嘆くことなど、すっぱりと捨ててしまおう!

石田光輝、元気なんだな!

 『半分のれん』というタイトルが思わせぶりで、逆にキャッチー。歌を聞いてその意味をほほえましく合点した。川中美幸が歌った作曲家協会と作詩家協会が募集したソングコンテストのグランプリ作。特段に目新しさはないが、よくある酒場風景でも、視線を変えたり、掘り下げたりすれば、「なるほど」の新味を作れる一例だろうか。そう言えば、カップリング作『ちゃんちき小町』の作曲者石田光輝は、昔、僕がかかわっていたころからの常連。米子で元気にやっていそうなのが嬉しい。

大きいことは、いいことだ!

 「どうです、最近の歌は?」と人に聞かれれば、その都度「痩せて来てるな」と答えた。カラオケ族狙いのチマチマした演歌が多い。手売りが主の歌手たちの活路など、理由はあれこれあろうが。
 それが決して悪いとは言わない。求める人がいればそれに応じるのもビジネスだろう。だが一方では、冒険作をじっくり聞きたい。スケール大きめのいい歌が聞きたい欲が残る。今回は坂本冬美の『熊野路へ』永井裕子の『ねんごろ酒』が出て来て、胸がス~ッとした。

亜熱帯の演歌なのか?

 「生命が危険」と連呼される夏、酷暑と言うか炎暑と言うか、各地多難でメチャクチャ暑い。9月だって油断がならない...という時期に、世に出る作品群である。
 8つの作品に共通しているのは、表現のさりげなさ。過剰な感情移入や、演歌にままある押しつけがましさを、皆が避けている。もっとも気候だけでなく、政情も世相も閉塞感や末恐ろしさが先に立つ昨今、うんざりした気分がそうさせると思えなくもない。日本はこのまま亜熱帯になるのだろうか?

新春、なかなかの歌揃いです

 新年あけましておめでとう―の気分で、松の内に12曲を聞いた。今こそスケール大きめの歌を!と意気込む五木ひろし、老境枯淡の北島三郎、恩師の節目を寿ぐ川中美幸らに、転機をうかがう藤原浩、市川由紀乃、にっこり愛嬌の石川さゆりと、新年に似合いの歌手たちの気組みと顔つきが見てとれた。
 ベテラン作詞家久仁京介が、恋情ひたひたと男の心意気、慰めムード派と3曲3様で幅広い仕事ぶり、岡千秋はお手のものの人情ソングに、女心もの二つと望郷ソングと4曲も量産、繁盛ぶりご同慶のいたりだ。

大きいことは良いことだ!

 「初荷」の11曲、聴き応え十分だ
 1月発売、いわば〝初荷〟の作品群で、各曲聴き応え十分なことが、ことさらに嬉しい。どんな時代になろうが、歌の流れがどう変わろうが、大切なのは聴き応えだと確認したい。
 仁井谷俊也の詞が3作品。福田こうへい、小桜舞子、島津悦子が歌っているが、ことに島津の『海峡みなと』に彼なりの工夫と仕上がりが生きる。手当たり次第みたいに量産した彼はこれから先が円熟期だったろう。働き盛りの69歳で逝ったことが、今更ながら惜しまれてならない。

大きいことは良いことだ!

 〝ヨーロッパ風味〟と一言でくくってもいいか、北原ミレイと内田あかりが、スケール大きめの歌謡曲を力唱している。作曲は前者がお得意の花岡優平、後者が扱いネタの幅の広さを示す弦哲也だ。
二人の歌手はキャリアや芸風から、そんなタイプの作品がぴったりで、ちまちま演歌を歌わせても、まるで似合わない。そんな二人に幸せなのは、何がヒットの鉱脈か不透明で、逆に言えば何でもアリの昨今の流行歌の流れ。ま、大きいことは良いことだとしておこう。

エドアルドの『竜の海』がいい!

 10月発売分の新作から、編集部が選んだ8曲を聞く。いわば秋冬もの、そのせいか「雪」をからめた歌が目立つ。流行歌と季節感、近ごろは年1作のケースが多いが、狙うのはスタートダッシュか。
 演歌よりは歌謡曲、歌謡曲よりはポップス系...と、歌の流れは緩慢だが確実に変わっていて、作家たちは工夫をこらす。岡千秋が作品の幅、弦哲也が手堅さ、徳久広司が野心をのぞかせ、香西かおりの才気がまぶしい。エドアルドの快唱も「ほほう!」である。

前田編曲作が5曲もあるか!

 相当に驚いた。大病を克服したばかりのアレンジャー前田俊明が、今月10曲のうち5曲も手がけている。たまたま発売時期が揃って...という例は、詞、曲、編の3者によくあるが、前田の場合は病後の一気!一気!だろう。それだけ制作陣の皆に待たれていたのだろうし、だからこそ本人も腕にヨリをかけたかも知れない。ムード派から勇壮もの、ドラマチック仕立てと、作品によって色あいも違う。作曲者たちとのコミュニケーションも、いつものペースに戻れて何よりだ。

こんな時代ゆえの抒情派か?

 演歌よりは歌謡曲へ、流行歌の流れが変わって大分たつが、その歌謡曲が抒情歌へ舵を切り始めているようだ。今回、編集部から届いたのが6曲と数が少なめ、それだけで流行歌全体の変化を推し計るのは少々乱暴だろうが、6曲の共通点がなぜか抒情的に甘美で、昭和テイストの匂いも強い。
 そうなれば、腕比べになるのはアレンジャーたち。大病から復帰した前田俊明と南郷達也が2曲ずつ、宮崎慎二もそれなりの音作りで参戦している。

弦ちゃん・徳さんに期待する

 弦哲也が日本作曲家協会の会長、徳久広司が理事長になった。この「マンスリー・ニュース」でもおなじみのヒットメーカー二人。歌づくりが超多忙に重ねる重職だから、さぞ大変なことと察するが、彼らなりの運営をするだろう。岡千秋、杉本眞人をはじめお仲間も、全面協力の態勢なのが頼もしい。叶弦大前会長とは年齢的にそう開きはないから、世代交代とまでは言えまいが、歌社会での生まれや育ちには大分差異がある。現場感覚が生きる明朗闊達な協会を期待したい。

歌の流れは変わっているヨ

 歌巧者大集合のカラオケ全国大会で、100人余を聞く。明らかに変わっているのは歌の流れで、歌謡曲が中心、演歌は少なめ。ポップス系からシャンソン風まで、語り歌が目立ち、杉本眞人作品の多さが際立った。
 審査員は各メーカー第一線の制作者たち。どちらがどう影響するかはニワトリとタマゴだろうが、今月の10曲にもそんな傾向がある。古風なままの詞でも曲、編曲に今日的な味つけがあって、懐古趣味と多少の野心が寄り添う。歌唱はシンプルだ。

吉幾三の芝居が見たくなった

 吉幾三を2曲聞いた。神野美伽に書いた『石狩哀歌』と自分で歌う『ららばい』だ。この人の世界の芯にあるのは、東北生まれの口の重さで、それを曲と歌で押し返すから、独特の味と説得力を持つ。詞にあるのは、雪に埋もれた暮らしの中で、チロチロ燃える情念だろうか。それが今回の2作には、やや薄めに聞こえた。それよりも...と、彼の芝居がまた見たくなった。自作の筋書きをわざと壊して笑わせたりするが、それをやらないまでも、彼は傑出したコメディアンなのだから。

力作・聴かせ歌復活を喜ぶ

 陽春四月、わが意を得たり!の作品にやっと出会った。悲痛なくらいにドラマチックな「大作狙い」の4作。歌手生活30周年の香西かおりの『わすれ花』と、今や何でもアリの坂本冬美の『百夜行』それに島津悦子の『大菩薩峠』の3曲で、弦哲也が腕を振るう。もう1曲は木下結子の『マリーゴールドの恋』で、こちらは小田純平が〝その気〟になった。 覚え易く歌い易い歌づくりが長く続いて、類似作品多めの停滞ムードを、突破する意気込みが見える作品群。「聴かせ歌」の復活である。

春だ! 歌謡界にもそれなりの風

 4月、歌謡界も春を迎える。CD不況の市況だの、内容の旧態依然に溜息をつくよりは、思いがけない発見に目を向け、喜ぶことにしよう。そこまでハラをくくったか!と感じ入ったのは椎名佐千子の歌のはじけ方と、彼女を追いつめた岡千秋の曲の力技。氷川きよしのおとな路線は、彼の味わいを残したまま着々...だし、大川栄策の曲と歌の踏ん張り方もなかなかのもの。中村美律子の歌が、聞く側に寄り添ってくるのは、関西弁特有のやわらかさが生きて独特...と腑に落ちた。

劇的な奥行きへ、切り替え時だ!

 新聞記者を振り出しに、長いこと活字で表現するなりわいをして来た。歌を聞く軸足がどうしても、歌詞にはじまり歌詞におさまるのは、そのせいか。
 流行歌は昨今、歌謡曲寄りに流れが変わっている。カラオケへの依存や影響から、脱却する意思が見える。自然歌詞は長めになった。しかし、その割に、新しい発想や構成力を示す展開には踏み切れていない。ドラマが見えないのだ。劇的な要素や予感の含蓄を感じたい。作詞家諸兄姉、今が切り替え時ですぞ!

作曲家の意気と力技を買う

 新年、今月の10曲はいわば〝初荷〟だ。それに今年の流行歌の流れが見える。共通点はスケール大きめの歌謡曲。タイトルに「絶唱」の2字が2曲も並んでいる。
 目立つのは、作曲家勢の意気込み。弦哲也の3曲が三色なのをはじめ、水森英夫が天童と真っ向勝負、岡千秋が新境地を狙い、小田純平は唯我独尊、船村徹はさすがの筆致...。
 歌詞のスケール不足をメロディーで超える例もあり、作詞家勢の奮起が待たれる。作曲家を欲求不満にしちゃいけませんヨ。

俊ちゃん、元気で戻って来いよ!

 アレンジャーの前田俊明が、少し長めの休暇中である。その分だけひところ、演歌歌謡界は編曲者おさえに追われた。売れっ子の穴は、それくらい大きかったと言うことか。その留守中にもちゃんと、前田の編曲作は出て来て、今月でいえば『男道』『秋燕』『船折瀬戸』などがそれ。仕事に根を詰めたのも手伝ったのか、思いもかけぬ病を得て、今はリハビリ中である。僕らの仲町会のメンバーで、みんなが心配したが、もう全快も間近とか。好漢の一日も早い復帰を持っている。

快哉! 船村徹に文化勲章!

 作曲家船村徹が文化勲章を受章する。内定は蛇の道はなんとやらで耳にしていたが、10月27日記者会見、28日に一斉発表までが待ち遠しかった。昭和31年に山田耕作が受章したと聞くが、歌謡界では初の欣快事。書きたいし、話したくても、オカミが決めたニュース解禁日では、フライングする訳にはいかない。知ったらすぐ書く新聞記者癖をグッとこらえるのも、嬉しい初体験と言えば言えた。5月に心臓大手術をした船村の身辺は、一転して輝かしい日々になった。

「そこそこ」で納まるなよ!

 9月30日にやった「星野哲郎メモリアル・ゴルフコンペ」の前夜、酔った岡千秋が「バカをやらなきゃ、歌なんか書けやしねぇ」と力説、徳久広司が「当たり前でしょ」とでも言いたげにニコニコ。それはそうだと、僕はあいづちを打った。世間並みの常識に収まり切れない熱いものがあるから、人は歌を書き、歌で芸をやる。今月の歌10曲を聞いて、そんな夜を思い出した。不良がやる仕事なら不良らしく「そこそこ」の出来じゃない歌で、たまには世間を驚かしちゃどうだろう?

作曲家が重厚感を狙い始めた!

 作曲家たちの意欲は、歌手にねっちり歌わせる方向へ傾いているようだ。弦哲也が中村美律子や島津悦子、岡千秋が岡ゆう子に、そんな高めのハードルを用意した。長い年月、覚え易く歌い易いカラオケ族用の発注を受けて、欲求不満が昂じてもいたろう。ポップス系の杉本眞人まで、桜井くみ子に演歌を書いて切ながらせている。
 その対極のあそび心小粋ソングを、岡が神野美伽に書いたりして、彼らの流れを変えたい気持ちが、よく判る作品が並んだ。

女たちは高音で奇襲する!

 女性歌手たちが高音で、ガツンと歌を決める傾向が目立つ。歌い出しから奇襲を仕掛けたり、歌い収めを歌い放ったりして、全体的に表現が率直というか、ラフと言うか。ひところの女心を切々、情緒てんめんを狙う演歌は、影をひそめている。
 徳久広司が4曲、それぞれの色で書き分けながら、訴求力を強めているのが象徴的だ。政治は数をたのんで独走、いやな事件が多発、芸能界は不倫ごっこのこんな時代、しみじみ情緒派はかったるいのかも知れない。

時に相方の変更も悪くないか!

 作家と歌手の関係には、おなじみの組合わせが長く続くケースがある。双方・あうん・の呼吸の歌づくりだが、時にその相方が変わることもある。
 今月の新曲では、成世昌平の詞がもず唱平から久仁京介、秋元順子の曲が花岡優平から杉本眞人、夏木綾子の詞が瀬戸内かおるから柳沼悦子に変わっている。制作サイドの意向や、背後の思惑は判らないが、才能の問題などでは決してなく、センスの交替だろうが、作品の色が変わるから、面白いものだ。

いい歌が出揃った。こう来なくちゃ!

 6月、なかなかの作品が揃って、聴いていて気分がいい。作詞、作曲家の仕事ぶりや歌手の個性の生き方がポイントだ。
 詞は吉田旺の推敲の痕跡が好ましく、たきのえいじのこのところの変化が頼もしい。曲は相変わらず弦哲也の打率が高く、歌では長山洋子がそれなりの境地に到達、作品によって川野夏美の進境が目立つ。チェウニ、清水博正、ジェロが独自性を示し、水沢明美の声味も類を見ない。低迷傾向が長い歌世界だが、突破口はやはり"いい歌"でしかあるまい。

数よりは質なんだな、歌い手は...

 いまさらながら、歌い手最大の武器は声そのものと改めて思う。一声でその人と判るのが強み。それに加えて、あらかじめ情感をにじませる声だったら、鬼に金棒、即スターだ。しかし、そんな例はきわめて稀。仕方がないから詞や曲の特異さ、企画性でそれらしい色を作る。節回しで個性を狙う場合もある。クセ者は情感という奴で、こればかりは生まれつきの資質。身につけさせようと手を尽くしても、歌がシナを作るだけに止まってしまう。歌手って難儀な商売なのだ。

君はM型で行くかW型か?

 演歌のメロディーは大別して、M型とW型がある。M型は歌い出しをなだらかに出てサビの高音で決めるオーソドックス・スタイル。W型は歌い出しを高音で出るから、サビと歌い収めにまた高音部が出て来る。作品のインパクト、訴求力はこちらの方が断然強くなるが、曲の流れに無理が生じる危険がある。今回の13作のうち、W型は坂本冬美の『北の海峡』大川栄策の『みれん舟』上杉香緒里の『手鏡』島津亜矢の『阿吽の花』あたり。他と聞き較べてみるのも一興だろう。