歌は本当に、世に連れていけるのか?
東日本大震災の惨状は、まだまだ改善も収束もしそうにない。ことに放射能の恐怖は先がまるで見えぬまま、国中に憂色が濃い。
そんな中で再認識されたのは、支援に動く大勢の人々の熱意、自立を目指す被災者の気概だろう。「復旧ではなく復興!」の掛け声を形にするのは、間違いなくこの大衆力だ。
ここから先、時代は変わる。新しい人心と新しい社会が生まれる。その兆しを、歌書きたちはどう受け止めていけるのだろう?
2011年5月のマンスリーニュース
2011年6月29日更新歌は本当に、世に連れていけるのか?
東日本大震災の惨状は、まだまだ改善も収束もしそうにない。ことに放射能の恐怖は先がまるで見えぬまま、国中に憂色が濃い。
そんな中で再認識されたのは、支援に動く大勢の人々の熱意、自立を目指す被災者の気概だろう。「復旧ではなく復興!」の掛け声を形にするのは、間違いなくこの大衆力だ。
ここから先、時代は変わる。新しい人心と新しい社会が生まれる。その兆しを、歌書きたちはどう受け止めていけるのだろう?
桜みち
作詞:荒木とよひさ 「涙は心の貯金箱」とか「隣りに呼びましょ、想い出を」とか、荒木とよひさらしいフレーズが顔を出す。美辞麗句というか、殺し文句というか、ぴたっと来る独自の文言を捜し続けるのが彼の仕事の特色。CMソングを量産する体験を積んで作詞に入った彼は、レトリック派の筆頭だろうか。
歌の納めどころが「桜みち」「桜酒」と来る。そこを大事にしながら、弦哲也はお手のものの幸せ演歌に仕立てた。
神野はゆったりめに歌って、歌の向こう側に、彼女の笑顔が見えそうな雰囲気を作った。
おまえにやすらぎを
作詞:石原信一
誰にも干渉されない、自由気ままな生き方がいいと思う。モノには不自由がないし、こぶりだが自分本位の暮らしがなにより。そんな「個」の中で「孤」に突き当たると、若者は臆病になる。失恋も古傷のままだ。
そういう女の子に、やすらぎをあげたい...と石原信一の詞が語りかける。「おまえの道草、なぜだかわかる」と、主人公の男の子もどうやら「個」から「孤」を味わう時代の体験者だ。
なしくずしの孤独感の中でひかれ合う男女の歌。岩出が歌ったこの物淋しさは、東日本大震災のあと、少しは変わるだろうか?
桜の如く
作詞:たかたかしたかたかしの詞は、村田英雄にだって似合いそうな人生ソング、それに徳久広司が速め、明るめのポップスふうな曲をつけた。それをまた馬飼野俊一が、細かくリズムを刻んで、弾むような編曲をした。結果、冬美の歌は軽く弾んで明るく、快活になった。
おんなの酒場
作詞:たきのえいじく惹句が「待望の本格演歌」だと言う。そう言えば...と思い出すのは『おもいで酒』や『止まり木』だから、確かにずいぶん久しぶり。本人も乗ったのだろう、イントロからコーラス参加。5行詞の納め2行の高音部で、声の表裏、押したり抜いたりの艶っぽさだ。
おとこの潮路
作詞:星野哲郎亡くなって早や半年が過ぎたが、星野哲郎作品は次々...である。今度の詞は男の海への渇仰と、それに理解を示した女性への、ありがとうが歌い込まれる。いかにも星野らしい内容で、それがいかにも、北島似合いなところが、何とも言えない。縁なのだろう。
東京25時
作詞:百音(MONE)加門はずっと、ムード歌謡に活路を求める。容姿や歌声の甘さから、狙いを絞り込んでいるのだろう。それがすっかり歌い慣れて、あのころふうの都会調歌謡曲。午前1時を「東京25時」とする懐かしさに、作曲の藤竜之介も一生懸命の仕事ぶりだ。
夢蕾
作詞:麻こよみ「女ごころの真ん中あたり、今も消せない人がいる」は、麻こよみの詞。「いいじゃないか!」のすっきり、きれい...が、なぜか二番の頭にある。一番いいフレーズ、めっけものの文句は、一番の歌い出しに使うのが鉄則と考えるが、いかがなものだろう?
夜風
作詞:さいとう大三〝さすらいソング〟の一編。さいとう大三の詞、叶弦大の曲ともに、特段の絞り込み方はしていない。いろんな歌い手に似合うのが利点、カラオケ族もそれぞれの感情移入が可能だろう。それを独特の声の押し方、つぶし方の艶で、鳥羽が自分の色に染めて見せた。
火縁
作詞:峰崎林二郎灰になるまでの愛、ほたるみたいに身を焦がす愛、燃えてやせていくさくらの炭みたいな愛...と、峰崎林二郎の詞はひたすら言いまくる。その一途さと粘着力がなかなかな代物に、中村典正はかまわず典正流の曲をつけ、長保はしんみりと、彼女流に歌いこなした。
あんたの里
作詞:もづ唱平相思相愛二年と三月...と女が歌うが、作詞はもず唱平。幸せ演歌で終わるはずがない。案の定二番では鴎が相手、男の故郷若狭の地酒とへしこの話になり、三番で手向けの花と供養がわりの恋歌が出て来た。そんな細工をのうのうと成世が歌い放つ。声と節の強さだ。