2011年8月のマンスリーニュース

2011年9月28日更新


亡くなって4年、阿久悠色あせず...

 島津亜矢の『恋慕海峡』は阿久悠の遺作の一つ。アルバム1枚分歌ったものからのシングルカットだ。8月1日は彼の祥月命日。今年でもう4回目になったが、残された詞は色あせることなく、インパクトも強い。
 今月は、池田充男、関口義明が、ベテランらしい手慣れたワザを示し、高田ひろおが彼らしい、情のこもった詞を書いた。少女アイドル群大当たりの秋元康は一転、ちゃんとおとなの憂愁も書いている。みんな、秋へ向けての腕比べだ。

花しのぶ

花しのぶ

作詞:麻こよみ
作曲:叶弦大
唄:竹川美子

 「花しのぶ」は九州・阿蘇の山地に自生、薄紫のかれんな花をつけるという。それを竹川にダブらせようとした詞は麻こよみ。もっとも内容は失恋の娘ごころを描いて、花そのものはイメージに止まる。
 竹川の歌はもともと、詞と曲を大事にていねいに表現、律儀でやや幼なめ。決して歌い回す派手さを目指さず、今回も主人公の姿や素振りを、おずおずと優しげにした。
 そんな特性をよく知っているのが師匠の叶弦大。ゆったりめのメジャー曲を書いて、娘ごころの機微を刻み込ませようとした。

百年坂

百年坂

作詞:坂口照幸
作曲:宮下健治
唄:三門忠司

 部厚で粘着力を持つ声だ。それが宮下健治のメロディーを、のうのうと歌い回す。ざっくりとした手触りの夫婦うた。坂口照幸の詞が、生き方不器用な男を主人公にして、結婚25年の感慨を歌わせた。
 式も挙げないままの負い目からオハナシが始まるから、歌手や歌い方によってはめめしくなる内容。それをサビあたり、高音で作る声の張りと艶で、三門が男っぽくする。仁侠路線寄りのニュアンスもあるメロディーが、手がかりになったろうか。各節の歌い納めに、歌い放つ心地よさも生まれた。

裏町ぐらし

裏町ぐらし

作詞:田村隆
作曲:岡千秋
唄:上杉香緒里

 まねき猫がほこりまみれ、やぶれ障子にすきま風、神棚は少しゆがみ、百合の花は枯れている。よくもまあそこまで...と呆れるくらいの裏町酒屋のさびれ方。書いたのは田村隆の詞、それを岡千秋がほどほどの情の曲にし、上杉が女将の風情を人肌に生かした。

秋桜の宿

秋桜の宿

作詞:池田充男
作曲:伊藤雪彦
唄:真咲よう子

 ひたひたと地道に歌い続けて30周年。かつてのクラウン純情派代表も、いまや熟女...とこちらが感慨を新たにする。それが池田充男・伊藤雪彦コンビから、大きめに心揺れる曲を貰った。サビの感情移入と表現のたかぶり方に、真咲はキャリアを示そうとした。

女の色気はないけれど

女の色気はないけれど

作詞:水木れいじ
作曲:水森英夫
唄:水田竜子

 水森英夫の曲はあんちゃん節。昔なら深夜、酔った若者が声高に歌って歩いたタイプだ。それに水木れいじが男に言い寄る女心の詞を書く。
詞、曲の共通点は主人公の、あっけらかんと前向き、上向きで罪がない無邪気さ。水田は「こういう風かな?」と歌ったようだ。

途中下車

途中下車

作詞:市川森一
作曲:桧原さとし
唄:桜井くみ子

 話の前置きみたいに、歌詞4行分を歌う。次の3行がサビのクライマックス。桜井の歌は激しくたかぶって、おしまいの2行は、そんな感情の納めどころ。詞が市川森一、曲が桧原さとし。大きなハードルを与えられた桜井の歌は、背伸びして、主人公の背伸びを思わせた

恋慕海峡

恋慕海峡

作詞:阿久悠
作曲:弦哲也
唄:島津亜矢

 歌い出しの語りの部分は、誰でも声と気持を抑える。次の高揚を生かす準備だ。ところが、抑えても抑えきれないのが島津の歌。そのうえサビの盛り上がりが上乗せになるから、歌はより劇的にふくらむ。節や声のしっぽまで、気持がつまっているのも快い。

羽越本線

羽越本線

作詞:関口義明
作曲:影山時則
唄:岡ゆう子

 「闇に船の灯、日本海」と歯切れがいいかと思えば、雨がやんだ汽車の窓から「ぼんやり酒田の街が見えてくる」と来て、関口義明の詞はベテランらしい緩急。「ぼんやり」は書けそうで書けないフレーズだ。岡の歌はそんな詞を、独特の声味で実感的にした。

流星~いにしえの夜空へ~

流星~いにしえの夜空へ~

作詞:荒木とよひさ
作曲:弦哲也
唄:里見浩太朗

 幕末、滅びる徳川に殉じた男たちの心情をテーマにした。あて字たくさんの荒木よとひさの詞は、それなりに理が勝つが、弦哲也の曲、川村栄二の編曲が、ほど良くドラマに仕立てた。里見の歌は音吐朗々
年に似ぬ若さで覇気も少々、節度あるたかぶり方を示した。

心機一転

心機一転

作詞:仁井谷俊也
作曲:岡千秋
唄:秋岡秀治

 「意地の二文字を切り札に...」と作詞・仁井谷俊也が踏んばった男唄
村田かひばりか...の境地だが、秋岡の歌には、旅の一座の景色がほの見える。泥絵具の背景、お定まりの茶店やのぼり...。ひなびた声にあるキャラや歌の乗り方弾み方が、芝居がかるせいか。

紫のマンボ

紫のマンボ

作詞:田久保真見
作曲:花岡優平
唄:真木柚布子

 女の涙は赤、男の涙は青、交われば紫ね...なんて、田久保真見の詞に花岡優平の曲。なつかしい気分のマンボを、真木がスタスタと歌う。
この種のリズム歌謡は、ひところ大勢の歌手が歌ったが、最近はこの人くらい。こだわりが独壇場になれるのかどうか?

秋櫻の頃

秋櫻の頃

作詞:高田ひろお
作曲:杉本眞人
唄:あさみちゆき

 秋の陽だまり、縁側、湯呑みの茶
目元の笑い皺などが小道具。寡黙に生きた亡父を思い出すのがコスモスの季節らしい。高田ひろおのしみじみした詞に、杉本眞人が曲をつけた。あさみは彼女なりの思いで、それを歌に乗せる。曲に濃い〝杉本の口調〟が相変わらず。

枯れない花

枯れない花

作詞:秋元康
作曲:鈴木キサブロー
唄:秋元順子

 詞が変われば曲も変わる。当然アレンジも変わる作品が、歌手の世界そのものを変える事がある。この歌手でそんな一色を作ったのは、秋元康、鈴木キサブロー、服部隆之トリオ。歌い出し4行分でそう感じたが、サビでは彼女が歌をもとの色に戻した。しぶとい人だ。