微妙な変化、それなりの進境
結局のところ、歌の魅力の源泉は"声"に尽きる。これに独自の色と艶、それなりの味があれば、作品はひとりでに生きる。
「秋だしなあ...」なんて一人言を言いながら、11人の歌に耳を澄ました。注意するポイントは声...。
微妙だがそれぞれに、変化が聞こえた。市川由紀乃や椎名佐千子の声味、大石まどかや石原詢子、多岐川舞子の歌唱と、自分の生かし方...。それなりの年季と努力を尊しとしよう。
2011年9月のマンスリーニュース
2011年10月27日更新微妙な変化、それなりの進境
結局のところ、歌の魅力の源泉は"声"に尽きる。これに独自の色と艶、それなりの味があれば、作品はひとりでに生きる。
「秋だしなあ...」なんて一人言を言いながら、11人の歌に耳を澄ました。注意するポイントは声...。
微妙だがそれぞれに、変化が聞こえた。市川由紀乃や椎名佐千子の声味、大石まどかや石原詢子、多岐川舞子の歌唱と、自分の生かし方...。それなりの年季と努力を尊しとしよう。
京都の雨
作詞:仁井谷俊也 声もいいし、節回しも「なるほど!」と思える歌でも、時おり物足りなさが残る。こういうケースは大てい、歌が僕の前を横切っていくイメージ。情感がまっすぐ縦に、こちらへ向かってこないもどかしさがあるのだ。
今回の大石の歌には、歌の芯をうまく縦に組立てた手応えがある。岡千秋の、ごく歌謡曲ふうなメロディーを、声も節も抑えめに、素直に歌ったせいか。声に息を少し乗せて、言葉の一つずつを、すうっと伝える。本人にそんな意識があったかどうかは判らないが、歌唱もやっぱり、シンプル・イズ・ベストだ。
父子の誓い
作詞:原譲二 もともと絵空事の歌に、時としてなかなかのリアリティが宿ることがある。「芸道50周年記念、北島三郎プロデュース作品」と銘打った曲を、娘婿の北山が歌う。タイトルまでもろ...の言い切り方がその一例。
父と子に通う血、母の慈愛、親が示す人生の道しるべ...と、よくあるネタが並ぶが、この歌からは北島の心情が聞こえる。たかが流行歌としても、筆名・原譲二の詞曲には、彼のいろんな思いがこめられている気配。
いきなり高音から出る曲を、北山はガツンと歌う。気合の入り方、「ほほう」である。
津軽の灯
作詞:志賀大介歌い回しにひなびた味があって独特。歌詞の語尾、歌い伸ばすあたりで声を抜くのが、彼なりの色か。民謡のベテランが歌う歌謡曲。どこで〝決める〟のか?と、待ちながら聴いたら、5行詞の最後の1行にそれが出て来た。歌づくりの〝手つき〟も枯れた味だ。
しぐれ橋
作詞:峰崎林二郎「連子窓から見送る背中 名残り切ないしぐれ橋...」なんて、峰崎林二郎が詞を結ぶ。狙いは情緒てんめんで、岡千秋はそれを、定石どおりの〝宿もの〟に仕立てた。歌う角川は得たりや応...といい気分そう。技よりは声の響きの良さに、歌の軸足を置いた。
桟橋時雨
作詞:木下龍太郎例えて言えばこの人の声は「中太で、細からず太からずのほどの良さそれがしっとりめの艶を持ち、おまけに気持の乗せ方が巧みだったりする。詞は木下龍太郎の遺作で、名文句ふうな凝り方が2番と3番にある。それを市川は淀みなく、一筆描きに歌いおわした。
寒椿
作詞:瀬戸内かおる作曲家岸本健介と夏木は、ずいぶん長いコンビ。あれかな、これかな...と、演歌の枠組みの中で、自分たちの居場所を探して来た。そんなキャリアか、歌い慣れのたまものか、夏木の歌に少しなげやりな気配が生まれて、それが生きた。芸事の神様の贈り物かも知れない。
浮草の町
作詞:石原新一 恐らく「あまりいろいろ考えずに軽く行こうよ」と
徳久広司が声をかけたのだろう。各コーラスにある決めのフレーズなど、コーラスを背負って弾み加減。多岐川の歌は7~8分めの力で、軽妙に仕上がった。味なコントロール・ショットと言うべきか。
霧降り岬
作詞:麻こよみ歌声に、ほどよく練れた粘着力が加わった。声と息との混ぜ方で、感情移入の濃淡を作る。その色のままサビの高音、艶が増すあたりを、師匠の鈴木淳の曲がうまく生かした。コツコツと地道に歌って来た年月で、椎名がつかんだ進境だろうか。
しあわせの花
作詞:水木れいじ作品に、何も足さない、何も引かない。生かすのは声味、歌唱は率直...というのが石原の特色。ヘンに技を用いて、歌でシナを作る向きより、ずっと好感度が高い。その石原の歌がそのまんま、全体に訴求力アップ、スケール大きめになった。地力がついたのだろう。
北へ...ひとり旅
作詞:三浦康照三浦康照・小野彩コンビの歌づくりは、これで何作めになるのだろう? 目指す路線に呼吸も合って、小野のメロディーはあれこれ意表を衝く手を使う。自作自演のそんな細工に、乗ってみせるのが藤の歌。この人、それやこれやを面白がってはいまいか?
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