今月は弦哲也大会の感あり
先月の南郷達也に続いてまた、本人に「たまたまですよ」と言われそうだが、今月は弦哲也作品が五曲登場した。十三曲中五曲だからめでたい繁昌ぶりと言わねばなるまい。
石本美由起、なかにし礼、小椋佳、鈴木紀代、伊藤薫...と、相手役の作詞家が多彩である。個性的なベテランまじりだから、弦の曲も色とりどりで、そのうえみな、彼流だ。風が吹く、縁が広がる...の結果だろうが、それを呼び込むのは、彼の仕事の長年の成果と人柄だろう。
2012年3月のマンスリーニュース
2012年4月30日更新今月は弦哲也大会の感あり
先月の南郷達也に続いてまた、本人に「たまたまですよ」と言われそうだが、今月は弦哲也作品が五曲登場した。十三曲中五曲だからめでたい繁昌ぶりと言わねばなるまい。
石本美由起、なかにし礼、小椋佳、鈴木紀代、伊藤薫...と、相手役の作詞家が多彩である。個性的なベテランまじりだから、弦の曲も色とりどりで、そのうえみな、彼流だ。風が吹く、縁が広がる...の結果だろうが、それを呼び込むのは、彼の仕事の長年の成果と人柄だろう。
情け川
作詞:石本美由起 さすがに老練...と改めて感じ入る。石本美由起の遺作だが、あまたある〝幸せ演歌〟の歌詞の、これぞお手本!の筆致。「春は桜、秋は紅葉」を決め言葉に、それを写す川、そこを舟で行く二人、イメージくっきりときれいなものだ。
奇をてらわない。新機軸も狙わない。さりげなく、はやり歌のいつもの世界を、描き切ろうとする。そのうえで目立つのは細心の言葉選び、ゆるみたるみのない均質のスリーコーラス。垣間見えるのは厳しい推敲の跡だ。だから、弦哲也の曲も中村の歌も、暖かく情の濃いものになった。
流星カシオペア
作詞:田久保真見 「ほほう!」である。北山が歌う〝今どき〟の歌謡曲。とかく力みかげんの演歌を離れて、作品の世界に、すっと入った歌唱が素直だ。彼はそういうふうに、今どきの若者の感性の持ち主と合点がいった。
田久保真見の詞、杉本眞人の曲、矢野立美の編曲。親しいつき合いの三人にも「いいねえ」と声をかけたくなる。三者三様にシンプル、ヤマっ気がないところが、北山用か。そのかわりに「北へ」という言葉を五回もくり返す個所で、感興とスケールを作る。走る列車と主人公の思いが、すっきり目に見えた。
明日花~あしたばな~
作詞:たきのえいじ迷わずに、いつの日も、くじけずに生きていく男女を「ふたり一輪 明日花」に見立てた幸せソング。それをきちんと服部が歌った。もともとこの人の歌は、作品に何も足さず、何も引かず...の地味づくり。それが、薄味の料理一品になったろうか。
ひとり長良川
作詞:伊藤薫郡上八幡、柳ヶ瀬、飛騨の高山などの地名をちりばめた詞は伊藤薫。えっ、あの伊藤が演歌も書くのか!なんて感想がチラリとした。長良川の流れに浮かべる未練の女心。弦哲也の曲が高めの音を多用、彼女の声の艶を生かして、また一葉、きれいな絵葉書を作った。
我慢船
作詞:中谷純平うん、鳥羽にはやっぱり、この種の曲が似合うなと得心する。波を枕に子守歌...で育った海の男が、山背の風に向かって船を出す。歌の気合いの入り方、間合いの詰め方が、いかにもいかにも...の心地よさ。作曲・原譲二も一味違う鳥羽用を書いたように聴こえる。
倉敷川
作詞:仁井谷俊也「日暮れ、掘割、蛇の目のおんな」を倉敷川のほとりに立たせた失意の女心ソング。重ね言葉の語呂のよさを捜した仁井谷俊也の詞に、伊藤雪彦が「このテでどうよ!」の曲をつけた。原田の歌は息づかいそれなりに、泣きたい思いを泣かない歌にした。
浜唄
作詞:なかにし礼出漁する男と見送る女の、風景と心情を描く。いつもながらの眺めだが、それがもう「二千年、二万年」も続いて来た!と言い放つのがなかにし礼の詞。彼一流のとてつもなさを、得たりや応の歌にして、さゆりは四〇周年記念シングルとした。アンコに浜甚句が入っている。
夫婦恋唄
作詞:岡田富美子今年七回忌の、市川昭介の遺作がいくつか出て来るが、これもその一曲。岡田冨美子が詞をはめた。二番と三番の歌い出しに、彼女なりのフレーズが生きる。若山は夫婦歌を妻の側から、声味生かして小さめに、楚楚とかわいげのある歌に仕上げた。
なでしこの花のように
作詞:水木れいじ独特の声味で、この人は歌手生活二〇周年。当初、男か?と勘違いしかかった低めの声を、逆手に生かしての成果だろう。二五作目というこのシングルも、マイナーの曲をスローテンポで大きめに歌って...と、挑戦の方程式は変わっていない。
夕月海峡
作詞:下地亜記子来年が二五周年、この歌手のキモは何か?と再検討「ファルセットの魅力」と、制作陣が答えを出したらしい。「よし、判った」と徳久広司がそれ用の曲を書く。六行詞の後半三行で一気に決める気のメロディーを、野中が注文通りの泣き節にした。
カサブランカ
作詞:百音(MONE)別れた女を白い花影に見立てて、追想する男の人恋いソング。舞台は夕映えの東京...というムード歌謡だ。サビあたま、ラテン風味を加門がいい気分そうに歌う。作曲は藤竜之介。近ごろ歌手業も兼業する友人だが、作曲も手抜きせぬあたり、ご同慶のいたりである。
木曽の翌檜
作詞:鈴木紀代少女時代に鍛えた民謡のノドも聴かせる。そのせいか、長山の歌は背筋のばして気合を入れて...の気配。木曽節くずしの歌い出しから、すっかり〝その気〟だ。心なしか歌の向こうに、木や森やあかね空が見える。歌う長山の視線が、上を向いているせいかも知れぬ。