これも金田たつえの勇気か?
昔、金田たつえが『花街の母』を出した時、業界の反発は強かった。子連れの芸者の歌など「誰が好んで聞くか、歌うか!」がその理由。金田は地を這うキャンペーンでこの歌をヒットさせ、歌謡界のタブーを破った。その金田が昨今は、介護をテーマにした曲を連作する。表立った反対は聞かないが、「誰が喜ぶのか?」という感想はあちこちにありそうだ。社会的共感と娯楽としての酔い心地のギャップ。金田、二度めのタブーへの挑戦は、どういう結果を生むのだろう?
2012年7月のマンスリーニュース
2012年8月30日更新これも金田たつえの勇気か?
昔、金田たつえが『花街の母』を出した時、業界の反発は強かった。子連れの芸者の歌など「誰が好んで聞くか、歌うか!」がその理由。金田は地を這うキャンペーンでこの歌をヒットさせ、歌謡界のタブーを破った。その金田が昨今は、介護をテーマにした曲を連作する。表立った反対は聞かないが、「誰が喜ぶのか?」という感想はあちこちにありそうだ。社会的共感と娯楽としての酔い心地のギャップ。金田、二度めのタブーへの挑戦は、どういう結果を生むのだろう?
松山しぐれ
作詞:喜多條忠 演歌ではない演歌――と書くと妙だが、そんなタッチの歌に仕上がった。歌の姿そのものがほっそりときれいで、演歌特有のアクや泥くささがまるでない。
謎は発声にある気がする。腹式呼吸で声の芯を強くし、体に反響させて太めに、歌に説得力を作る演歌の作法がない。ごく自然に素直な声の出し方は、どちらかといえばポップス系。そのうえメリハリに頼らず、メロディーの起伏をやや控えめに辿る。
そのくせ小節はコロコロで、不思議な可憐さが生まれた。城之内の新しい個性ということになろうか。
みちのく風酒場
作詞:たかたかし 酒場を舞台に、一番で旅の男が登場する。ラジオからは『哀愁列車』が流れ、男の飲み方に昔の彼を思い出すのは、二番に出てくる女。そうなれば三番は、そんな男女が熱くなるのがお定まりだが、二人は地魚の肴などつつきながら、ポツリポツリの四方山話...。
たかたかしが書いた三幕もの、妙にしみじみとした詞に、宮下健治が曲をつけた。こちらは昭和三〇年代ふう演歌で、春日八郎にあったかなあ...の味わいだ。
千葉は相変わらず、感情移入薄めの歌処理。それがかえって作品の色を生かした。
北国フェリー
作詞:喜多條忠惹句に「この胸に顔を埋めて泣いた人、今はどの町、誰といる...」とある。そんな思いを抱いた男が、北国フェリーに乗っている。ドラマはそれだけのシンプルな詞を、各コーラスの大詰め、一気に盛り上げるのは蔦将包の曲。走の熱い高音の魅力を前面に出した。
花はこべ
作詞:仁井谷俊也花はこべに女を擬して、幸せにしてやれなかった男の悔恨が語られる。『くちなしの花』以来、よくある男唄の定番だが、それを川野が歌うところに面白みがある。こざっぱりとべたつかないフィーリング。狙いは男の歌好きだろう、一音半上げのカラオケつきだ。
止り木暮らし
作詞:南こすず酒場の二階に仔猫と暮らし、七つも歳をごまかして、客に酌をする女が主人公。あっけらかんと淋しい生き方を、山口ひろしが男唄仕立ての曲にした。長保の気っぷやキャラに似合いのこだわらなさ、スタスタと歌い進むあたりが、いっそ小気味いい。
ひとり大阪
作詞:坂口照幸歌い出しから高音、すっと出た細めの歌声に、そこはかとない哀愁、いじらしさがにじむ。永井は歌手二〇年、デビュー曲『大阪すずめ』以後の進境を示そうとする大阪ものだ。なぜか一人ぼっちが似合いの声味、ヘンに歌い慣れたりしていないのは、この人の性格か。
おんなの坂道
作詞:森田圭悟ひところ、人生まだ半ば...の団塊ソングがいくつか出た。いわばその女性版がこの作品で、育った娘に〝あのひと〟を重ねる熟女の心境が歌われる。中村典正の曲は、芸道ものにも通じて骨太。それを水沢がズサリと一気に歌った。女性が強い時代の歌かなあ。
ウヰスキー
作詞:高畠じゅん子例えば桂銀淑のハスキーボイスに似合いそうな浜圭介らしい曲。それを木下が彼女なりの声味で歌い切って、この人らしいドラマにした。久しぶりのメジャー展開。思いのたけがサビあたり、せっぱつまる色を強めたみたい。創唱した『ノラ』のオマケつきCDである。
よりみち酒
作詞:麻こよみやたら元気な『帰ってこいよ』から三〇余年、松村がその後の熟し方を聞かせる。麻こよみ・水森英夫コンビの盛り場流し歌タイプ。ギターを道連れに、全体を抑えめに歌って、歌詞の一言ずつをしっかり手渡してくる。粗い手触りと肌理の細かさが両立した。