歌謡曲にもっと創意、工夫を!
今月もいくつか出て来たが、このところ、歌詞にして八行前後、ツーハーフ仕立ての歌謡曲が目立つ。演歌は行きつくところまで行ったかと、制作陣の歌づくりが転換したせいか。
実は作品一つ一つにも、この転換が大切になる。詞には鮮やかな切り替えが欲しく、抽象的フレーズの繰り返しには飽きがくる。メロディーも、さして意味のない〝つなぎ〟の部分がはさまりがちで、ヤレヤレ...。「おいしい歌謡曲」づくりには、慣れを排して、常識を破る創意と工夫が不可欠と思うが、いかがなものだろう?
雨の裏町
作詞:仁井谷俊也
作曲:弦哲也
唄:北山たけし
情緒てんめんのギターの前奏に、路地の屋台、白い襟足、かぼそい体...の詞、ひたひたと押して来るメロディーと、仁井谷俊也・弦哲也・前田俊明トリオの仕事は、あのころふうにたっぷりめだ。例えば作曲・吉田矢健治、歌・春日八郎を連想する世界...。
定石通りだがよく出来た作品を、北山が歌う。しっかりと大人の味で、ゆるみたるみなく、情が詰まっている。この人は『流星カシオペア』で、いま時の若者らしい〝地〟を聞かせて良かったが、案外それが、その後の自信に生きているかも知れない。
よりそい草
作詞:森坂とも
作曲:水森英夫
唄:石原詢子
声を張った方が似合う水森英夫の曲を、あえて張らぬ歌で味を作った。ブンチャブンチャの乗りで軽く、石原の例の鼻声が艶っぽく生きる。「ふしぎね ふしぎね 水が合う...」と、中盤たたみ込むあたりも気分なかなかで、歌づくりの細工はりゅうりゅうといいたげだ。
歌詞に比重をかけるメロディーは、とかくねっとり気味になりがちなもの。ところがこの作品みたいにスタスタ行く曲でも、詞はちゃんと生きている。男に寄り添う女の顔つきが、何だか晴れ晴れとしているように聞こえた。
雨の思案橋
作詞:下地亜記子
作曲:弦哲也
唄:真木柚布子
一言で言えばこの人は、歌のつかまえ方がとても上手い。歌の主人公がどんなタイプで、どんな状況にいるのか、その恋のありようは、どんな形や程度なのか。これは俳優の役づくりにも似ていそうで、だからこの人は、実にいろんなタイプの作品を歌えるのだろう。
伊万里の母
作詞:喜多條忠
作曲:水森英夫
唄:池田輝郎
母ものに〝かつぎ屋〟を持ち出したか...と、喜多條忠の詞にニヤリとした。腹を据えた民謡調発声に、語り歌を書いた水森英夫・池田輝郎コンビのヤマっ気にもニヤリ。歌の堂々の歌い回しと、妙に素人っぽく淡々としたセリフの組み合わせには、三つめのニヤリをした。
金沢わすれ雨
作詞:田久保真見
作曲:田尾将実
唄:山本あき
演歌の定番である情景と主人公の屈託を、八行詞の歌謡曲に仕立てた。もともとポップス系が得意の、田久保真見と田尾将実コンビの仕事。山本の突破口を見つけるための折衷案か。田尾のこのごろのメロディーは、独特の粘りを抑えて、すっきりして来た。
天川しぐれ
作詞:坂口照幸
作曲:市川昭介
唄:多岐川舞子
もともと歌には「ヨコ歌」と「タテ歌」があると思っている。前者は歌が聞く側の前を横切る感じで、詞、曲、声、節などの〝技〟が見える。後者は聞く側へまっすぐ突いて来て〝ココロ〟が伝わりやすい。多岐川のこれは「タテ歌」寄りで、彼女の進境を示すようだ。
最後と決めた女だから
作詞:水木れいじ
作曲:鶴岡雅義
唄:氷川きよし
言うなれば〝あんちゃん節〟の一つだろう。いい気分そうに弾んで、鼻歌の軽さが特色。女声コーラスがからむのも、そんな色あいを強調する仕掛けだ。「こんな感じかねえ」と言いたげな鶴岡雅義の作曲。これはこれで氷川には、思い切った挑戦だったろう。
男橋(おとこばし)
作詞:倉内康平
作曲: 陣内常代
唄:北島三郎
今年四枚めのシングル。三劇場の長期公演を含めて、この人は実に精力的だ。モノはと言えば、北島ファンお待ちかねの骨太男唄。男の生きざまを、例によってこれでもか!の節回しで聞かせる。歌にやや枯れた感触があるのは、彼の現況か、それとも演出か?
旅枕(たびまくら)
作詞:水木れいじ
作曲:叶弦大
唄:鳥羽一郎
独特の声と節が、叶弦大の曲に乗ってうねり、せり上がる。どんなタイプの曲が来ても、鳥羽は声と見てくれのキャラで、押し切ってしまう。前面に出ているのは、歌の主人公ではなく彼本人、詞はところどころに決めフレーズさえあれば、それで十分なのかな?
月夜華(つきよばな)
作詞:麻こよみ
作曲:幸耕平
唄:立樹みか
面白いもので、長く演歌を歌って来た人は、演歌的な声の出し方と節回しとが、身について離れない。立樹の場合、歌謡曲のなだらかさのこの作品にも、それがところどころに顔を出す。一味違う仕上がりになるのはそのためで、これがつまり立樹流なのかも知れない。
願・一条戻り橋
作詞:志磨ゆり子
作曲:大谷明裕
唄:小金沢昇司
前半二行ずつ四行のメロディーは静かで、聞く側の気分を待たせる。それがサビで一気に盛り上がり、おしまいの二行は一転、攻めの強さを生む。大谷明裕が書いたそんな仕掛けをちゃんと歌って、小金沢は器用な人だ。だから彼の作品は、多岐にわたるのだろう。