弦哲也、歌づくりの腐心が見える!
山口ひろみ、井上由美子、西尾夕紀、島津悦子の曲を書いて、弦哲也が相変わらずのお忙し氏ぶりである。
それだけではない。四人の女性歌手それぞれの歌唱に手を加えて、率直さと鮮度を作り直した共通点がある。歌まねチャンピオンの西尾には「ドリカムの吉田みたいに歌ってみて!」の助言があったと聞いた。
テクニックの垢を落として、歌ゴコロを再構築する。情の錬金術師・弦の、近ごろの歌への思いが、透けて見えそうだ。
2012年10月のマンスリーニュース
2012年12月17日更新弦哲也、歌づくりの腐心が見える!
山口ひろみ、井上由美子、西尾夕紀、島津悦子の曲を書いて、弦哲也が相変わらずのお忙し氏ぶりである。
それだけではない。四人の女性歌手それぞれの歌唱に手を加えて、率直さと鮮度を作り直した共通点がある。歌まねチャンピオンの西尾には「ドリカムの吉田みたいに歌ってみて!」の助言があったと聞いた。
テクニックの垢を落として、歌ゴコロを再構築する。情の錬金術師・弦の、近ごろの歌への思いが、透けて見えそうだ。
望み星
作詞:麻こよみゴルフの話で恐縮だが、ドライバーショットは八〇パーセントくらいの力で振るのがいいという。フルショットは〝意あまって力足りず〟になる可能性があるせいか。もともと元気印の山口は、この曲を七〇パーセントぐらいの力の込め方で、歌ったように聞こえる。シンプルに素直に、技よりはココロ重点の歌処理だ。それが前半の四行で庶民の生活心情を歌い、納めの二行で視線を星空に上げる歌詞(麻こよみ)の細工を、暖かく生かした。クラブの芯に当てるというよりは、優しく包み込むのが、作曲・弦哲也の手法か。
南部蝉しぐれ
作詞:久仁京介〝技よりはココロ〟が軸足の歌は、聴く側へまっすぐに伝わるから、僕はこれを〝タテ歌〟と呼ぶ。それとは対照的に〝声と節〟で聞かせる歌は、さしずめ〝ヨコ歌〟で、聴く側の前を横切る形で魅了する。
全国民謡フェスティバル2012グランプリ受賞の、福田の歌は後者で、高音晴れ晴れと野原をわたる爽快感を持つ。しっとりした中、低音の声味も含めて、いい姿の民謡調歌謡曲。あえて声と節の〝誇示〟を避けたのは、四方章人の曲の穏やかさ、優しさか。カラオケ上級者がレパートリーにしそうだ。
余市の女
作詞:水木れいじ しっかりと、前に出した声に「ほほう!」である。
高音が艶を帯び、中・低音が人肌の暖かさを持った。
技の使い方を後回しに、率直に歌ごころを聴かせようとする。そんな意図がありありで、無造作になりやすい〝張り歌〟を、張らぬあたりで進境をみせた。
惚れて道づれ
作詞:仁井谷俊也鏡お得意のお芝居仕立て。しあわせ演歌スリーコーラスを、下町人情の三幕ものにして聴かせる。歌全体、声に息を多めにまぜるのは、情を濃くする算段。歌詞の二行めのおしまいなど、たっぷり吐息まじりで、うまいことソフト五郎を演出した妙がある。
男のうそ
作詞:仁井谷俊也〝タテ歌〟をコトバの一つ一つ、ていねいに歌えば、仕上がりは地味だが、情がにじむ。そこのところを一工夫、わざとぞんざいな口調で、歌に独特のキャラを作った。コトバにつかまらずメロディーを歌った鼻歌タイプ。平成の兄ちゃん節だろうが、図に乗らないように...。
恋の川
作詞:里村龍一〝泣き節〟である。昔なら、声や節でシナを作り、身を揉むポーズで歌ったタイプ。それを昨今は、歌ゴコロで泣いて聴かせないと、歌が嘘っぽく、浮くと、作曲・弦哲也は考えるのか。井上の挑戦は演歌歌手として、もう一つ上へ行きたい一心なのだろう。
恋酒~加賀の夜
作詞:土田有紀歌の情感せり上げて行くために必要なのは、語尾を流さないこと。歌詞の各行のおしまい、歌い伸ばす箇所の思いがしっかりしていれば、歌のココロが次の行の歌へちゃんとつながる。西尾のデビュー二〇周年ソングだが、その辺に巧まずしてキャリアが生きていそうだ。
めおと暦
作詞:水木れいじいうところの〝しあわせ演歌〟を、ブンチャブンチャと浮かれ節ふう。しかし、ものがものだから浮かれてばかりではなく、芯にひと刷毛、哀愁の色もにじませたい。そんな微妙なサジ加減への挑戦。弦哲也指南の息づかいで、この人も声味を少し変えたろうか?
風雪 御陣乗太鼓
作詞:紺野あずさ 岩手を拠点とするベテラン民謡歌手が、自慢のノドと節を聴かせて、これは〝ヨコ歌〟。
各コーラスの最後にある「叩け...響け...踊れ...」を野放図に歌って、野趣に富んでいる。作曲は村沢良介、作詞の紺野あずさは星野哲郎門下だが、こんな勇壮も書くのか!
白い冬
作詞:仁井谷俊也惹句に〝熱唱演歌〟〝ダイナミック演歌〟の字が躍る。仁井谷俊也の詞十行に、石山勝章が曲をつけた。大作ふうスケールだが、浅田の歌が〝その気〟にならないのがいいところ。細めの声をしならせてメロディーをたどり、彼女流の歌にした。歌手一八年の手堅さか。