麻こよみの踏ん張り方に好感!
星野哲郎も言っていたが、流行歌の勝負は歌い出しの歌詞二行分。メロディーもそれにつれてきちっとするから、聞く側の感想が「いい歌だ!」と、早めに決まる妙味がある。
演歌ならことさらで、今回聴いた五行詞、六行詞ものに、作詞家たちの工夫のあとが見えた。男女の色恋沙汰と、お話はほぼ決まっているから、定石のきわみを目指すか、切り口を変えるかが狙いどころ。そういう意味では麻こよみの『立待月』が、推敲を重ねて努力賞もの。滑ってない仕上がりが、きれいだった。
2012年12月のマンスリーニュース
2013年2月14日更新麻こよみの踏ん張り方に好感!
星野哲郎も言っていたが、流行歌の勝負は歌い出しの歌詞二行分。メロディーもそれにつれてきちっとするから、聞く側の感想が「いい歌だ!」と、早めに決まる妙味がある。
演歌ならことさらで、今回聴いた五行詞、六行詞ものに、作詞家たちの工夫のあとが見えた。男女の色恋沙汰と、お話はほぼ決まっているから、定石のきわみを目指すか、切り口を変えるかが狙いどころ。そういう意味では麻こよみの『立待月』が、推敲を重ねて努力賞もの。滑ってない仕上がりが、きれいだった。
めおと桜
作詞:建石一 ♪三十路苦労をなみだで越えて 五十路を迎えて知る情け...が三番の歌い出し。『ふたり酒』『二輪草』に次ぐ〝しあわせ演歌〟の代表作へ、さりげなく等身大のニュアンスが埋め込まれた。長く一緒に歩いて来たファンも含め、共感への落としどころに思える。
前二作に較べれば、歌の肌理(きめ)が細かくなっている。笑顔を感じさせる歌声、ゆったりめの包容力をそのままに、この人なりの熟し方のあらわれ。新年一、二月は名古屋・御園座公演だが、安定した女優としての表現力と魅力が、歌に加味されている。
男どうし
作詞:仁井谷俊也 ともに船村徹門下の、親愛と敬意が聞こえてくる心地がするデュエット。北島には枯れた大人の男気があり、鳥羽には、やんちゃな若さをやや控えめにした居ずまいがある。
♪男どうしの情けの熱さいつか飾ろう花道を...という三番の歌い納めあたり、大舞台の中央に並ぶ二人が、両手を広げてポーズも決めた雰囲気だ。
近ごろこんなふうに、大向こうを唸らせるタイプの歌謡曲は珍しい。ちまちま個人的な感慨を訴える歌ばかりの中では、スター二人の「どうだ顔」も、時に楽しいものだ。
立待月
作詞:麻こよみ例によっての女心未練ソングだが、麻こよみの詞が細部まで、根を詰めた筆致できれいだ。その〝練れ方〟を生かしたのは、徳久広司のきれいなワルツで、作家の足並みが揃った。北野の歌は諦めごころと尽きぬ思慕を、各節の前、後半でほど良く歌い分けた。
蜻蛉の恋
作詞:荒木とよひさこちらも女心未練ソングだが、荒木とよひさが彼らしい切り口で、独自の色を作ろうとした。レトリック勝負の人だから詞が観念的になりがちだが、一番などきれいに言い切れている。岡千秋の曲もいかにもの岡流、角川の歌は情感強め、その気で押し込んで来る。
心の道
作詞:建石一ワンコーラス一〇行詞のツーハーフ、ポップス寄りの歌謡曲を和田が歌って「ほほう!」である。一見さらりとした歌唱だが、すみずみまで〝思い〟が詰まって、この人のもう一つの魅力が生きる。それを支えたのは、モチーフのメロを積み重ねた徳久広司の手練か。
ふるさと津軽
作詞:仁井谷俊也昭和四〇年代の初めごろ、第二の三橋美智也と呼ばれた佐々木の、健在ぶりがうれしい。お手のものの民謡調、各コーラス最後の詞の頭にある「ハァー」が高音で、たっぷりめの歌い回し方に独特の味がある。カラオケ上級者が愛唱する曲になる予感がする。
つゆくさの宿
作詞:たきのえいじ五行詞演歌、詞も曲も起承転結きっぱり、展開や納めどころの着地もきちんとした。いわば定石通りの作柄で、こういう曲と出会うと、歌手も相応のハラを決める。秋岡の歌唱にもそんな気配が濃く、強めの感情移入が曲をはみ出しかける。彼流の血の熱さだろう。
遠きふるさと
作詞:もず唱平成世の歌声が、のうのうねっとりと、彼ならではの味を聞かせる。民謡調の歌のとらえ方で、委細承知のもず唱平の詞、水森英夫の曲。歌い出し高音で出れば、サビと歌い納めにまた高音が来る「W型」のメロディー、その分だけ訴求力が強い作品になった。