影山時則が頑張っているなァ
作詞家の役割は、歌手にどういうドラマを提供できるかに尽きる。一方作曲家は、歌手の歌声のどういう魅力を生かすかを、役割の一つとする。作詞家は論理的で、作曲家は感性をその武器とすることになろうか。
若草恵は名うての編曲家から作曲家に転進、天道よしみの曲でその双方に通じる仕事をする。弦哲也と岡千秋は、歌手時代の感性を歌づくりに生かして妙。影山時則も歌手出身、三門忠司、岡ゆう子の曲で〝歌う側の快感〟のツボを生かしているところが頼もしい。
2013年2月のマンスリーニュース
2013年5月27日更新影山時則が頑張っているなァ
作詞家の役割は、歌手にどういうドラマを提供できるかに尽きる。一方作曲家は、歌手の歌声のどういう魅力を生かすかを、役割の一つとする。作詞家は論理的で、作曲家は感性をその武器とすることになろうか。
若草恵は名うての編曲家から作曲家に転進、天道よしみの曲でその双方に通じる仕事をする。弦哲也と岡千秋は、歌手時代の感性を歌づくりに生かして妙。影山時則も歌手出身、三門忠司、岡ゆう子の曲で〝歌う側の快感〟のツボを生かしているところが頼もしい。
ふるさと銀河
作詞:水木れいじ 歌い出しの歌詞二行分が勝負!という要諦は藤田まさと、星野哲郎らが実践して見事だった。この鉄則、実はメロディーにもあてはまって、例えば天童のこの作品 ――。
♪泣いた分だけ 幸せやると...の歌い出し一行の、前半だけで勝負があった。天童の声が一番生きる高音でオイシサを作って、《ほほう!》である。作曲家としての若草恵は、すっかり〝その気〟になっている。
そのうえ六行の詞に何カ所か、オイシイ旋律をはめ込み、歌手の攻め所を増やす。お陰で天童の歌は、のびのびとして快く、哀しい。
くれないの雨
作詞:志賀大介 「ワンコーラスに一カ所、ここが三門だと言える部分を作りたい」と、いつか本人から聞いたことがある。声の張りや艶、切迫感みたいなもので一点突破する自信だろう。
その三門の声味と攻め所を、作曲の影山時則が、何カ所かに増やした。のったりと味を聞かせるところ、独特の小節回し、それに艶っぽい高音の張り...。
惹句に「期待は決して裏切らない」とある。三門の歌の安定感を指すのだろう。地味だが確かに、歌と情感のしならせ方となかなかの粘着力は、彼一流のものを持っている。
しぐれの港
作詞:石川信一アイドルから歌手の主流派へ、氷川は作品で幅を広げつつある。水森英夫がそのための曲を積み重ねて来て、今度は波止場ソング。背伸びは抑えた内容の石原信一の詞に『涙の酒』ふうな哀切のメロディーをはめ込んだ。歌手の生かし方の一例だろう。
北港
作詞:荒木とよひさ キイをめいっぱいに上げれば、歌に自然、ひたむきな色が生まれる。
突然激した中盤のメロディーのあと、サビの一行、神野の歌は前半が裏声になり。後半を表に戻して決め込んだ。ベテランに、あえてそんな挑戦をさせたのは、荒木とよひさの詞、弦哲也の曲だ。
風の海峡
作詞:麻こよみ岡千秋が書いた海峡もの。メロディーの起伏、ゆすぶり方は定石どおりだが、岡流のねばりがある。市川由紀乃の力量を、どう生かし、どう聞かせるかを考えたのだろう。♪一日早く忘れたら 一日早く出直せる...という麻こよみの詞の、念じ方も生きたろうか。
北国街道・日本海
作詞:喜多條忠ふつう二行ずつになる演歌の歌詞の区切り方を、喜多條忠が歌い出しを三行にした。呼応するように蔦将包の曲は、意表を衝く展開で風変わりな色を作る。いわば破調、父君船村徹の作品に散見するパターンで、そのゆったりめ、スケール感を、走が歌いこなした。
夫婦三昧
作詞:吉岡治 その日その場で折り合いをつけて、人生半ばの折り返しへ来た夫婦もの。いかにもいかにも...の吉岡治の遺作で、これがさゆりの四〇周年締めくくりの曲という。歌のタッチを
「歌」よりは「お話」の穏やかさに抑えて、さゆりの歌づくりは吉岡の詞に添っている。
人生花ごよみ
作詞:美月宏文
歌詞が定型を離れる。当然メロディーも譜割りも変わる。それでも演歌、ひと味違うタイプが出来上がった。そんな四行分に二行、演歌的に収まるパートをつなげて、面白みを増す。原田の歌は軽くはずんで温かく、丸く、快い。声を張ると別の歌になっちまう曲か。
しぐれ酒
作詞:三浦康照雨の夜、短かった恋を回想する女心ソング。思い出酒場でひとり酒だ。そんなお話を突き詰めずに、軽くソフトに仕上げるのが近ごろふうか。影山時則が書いたワルツだが、やっぱりどこかで盛り上がりたいのが歌手の欲。歌い納め二行分で岡が頑張った。
海峡のおんな
作詞:池田充男演歌のワンフレーズごと、大ていの歌手は頭の部分に思いを込めるが、歌う語尾は流れに任せる。真木の歌がきっちりしているのは、各行の語尾をおろそかにしないことだろう。むしろ彼女はそこでそれぞれ、感情移入の色を変える。味わいが深くなる得がある。
女の空港
作詞:仁井谷俊也歌の前半四行分は息づかい微妙に語り、急転するサビあたまから、一気に感情を開放する。三連の歌謡曲、仁井谷俊也の詞、弦哲也の2ハーフを、川野は情感うまくうねらせてみせた。初期のテレサ・テンを思わせる勢いがあり、それがこの人の進境だろう。