2013年10月のマンスリーニュース

2014年5月11日更新


骨太の歌謡曲が聞きたいころだ

  演歌の歌詞のネタづまりのせいか、飽きが来た作曲家の気分転換か、近ごろ歌謡曲寄りの歌が目立つ。演歌そのものにも、スケールを求める気配があり、歌い手の力量が試されたりして、それなりに楽しい。 
 〝黄金の七〇年代〟は、歌謡曲が全盛だった。あれからもう四〇年もの年月が経つが、その豊かさへ回帰する傾向なら、大いに歓迎しよう。問題は詞である。個人的心情にめり込んで類型のままで久しいが、そろそろ時代を見据える視線と気概が、生きてきてもいいころだろう。

流氷波止場

流氷波止場

作詞:北多篠 忠
作曲:幸 耕平
唄:市川由紀乃

 歌が変わった。どちらかといえば〝静〟のこれまでに〝動〟のインパクトが加わっている。喜多條忠の詞、竜崎孝路の編曲もプラスに働いているが、幸耕平の曲の快い起伏と粘着力が、寄与するところ大と思う。
 前半の語る部分は、市川らしさを維持した。一番の歌詞一行めの最後「捨て〈た〉」の置き方とか、二行めの最後「オホーツ〈ク〉」の揺れ方に、情がにじむ。息づかい、それがサビ一行分で昂揚し、歌い納めの「流氷波止場」のめいっぱいの歌い放ち方に、悲痛の余韻が濃い。ラフな魅力で歌がうねった。楽曲に恵まれて二〇周年の進境である。

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あぁ竜飛崎

作詞:八嶋龍仙
作曲:村沢良介
唄:木原たけし

 歌がのびのびと、深い山々をわたる風のように響く。木原の民謡調の声味が、巧みに生かされている結果か。ことに「アカサタナ...」の母音に、ひなびた開放感があり「イキシチニ...」にあたる部分に、思いのたけが乗る。声と節で聞かせるタイプの歌手だろうが、歌詞の言葉ひとつひとつがしっかりと地に足ついていて、歌い流れないところがいい。律儀さが説得力につながっていようか。
 作曲・村沢良介が、いい仕事をしている。ワンコーラス七行の詞の六行分でメリハリを終え、最後の一行分のオマケが小気味いい。

龍飛埼灯台

龍飛埼灯台

作詞:西篠みゆき
作曲:吉幾三
唄:西尾夕紀

 吉幾三の曲には、彼〝らしさ〟の口調がある。それが歌い出しと歌い納めに顕著なメロディーを、西尾が彼女流に乗り切る。ことにサビあたり、細めの声をめいっぱいに使って、悲痛な女心を伝えた。この味、亡くなった新栄プロの西川幸男会長に聞かせたかった。

 
悲別~かなしべつ~

悲別~かなしべつ~

作詞:仁井谷俊也
作曲:弦哲也
唄:川野夏美

 汽車と線路を小道具にした仁井谷俊也の詞に、弦哲也がいい展開の曲をつけた歌謡曲。川野の中・低音の声の響きが生きて、歌に物語性が生まれた。〝うまい歌〟というよりは〝いい歌〟寄りの仕上がり。川野も十五年生、元気ばかりが売りではない歌手に育った。

桜橋

桜橋

作詞:瀬戸内かおる
作曲:岸本健介
唄:西方裕之

 瀬戸内かおるの詞、岸本健介の曲、夏木綾子の歌と来れば、おなじみ家内工業ふうな歌づくり。♪決めた人です この人と生きる...を決め言葉に、ゆったりほのぼの演歌が出来上がった。夏木の声味にそれなりのキャリアが生きて、生活感が増している。

男の酒場

男の酒場

作詞:円香乃
作曲:新井利昌
唄:瀬川瑛子

 瀬川本人の母への思いを歌にした実話ソングとか。意を体した詞を円香乃が書き、恩師の新井利昌が曲をつけた。元気なころの母親と、似た年かっこうになってこそ...の思い当たりに、女性の心は揺れるのだろう。瀬川のもごもご歌唱が、とても暖かくて優しい。

 
 
あなたのせいよ

あなたのせいよ

作詞:麻こよみ
作曲:鈴木淳
唄:椎名佐千子

 ほほう、その手で来ますか!と作曲者鈴木淳の笑顔を思い浮かべた。一時代を作った歌謡曲作曲家が、往時を思い起こしたろう曲を、愛弟子の椎名に歌わせている。歌声の艶の作り方と、語尾の揺らせ方が、伊東ゆかり系で、このタイプ、案外穴馬券かも知れない。

風泣き岬

風泣き岬

作詞:伊藤美和
作曲:徳久広司
唄:花咲ゆき美

 ワンコーラス九行の伊藤美和の詞を、長いと感じさせないメリハリで、徳久広司が3連の曲にした。大きめになるタイプの作品だが、川村栄二の編曲がスマートで、花咲の歌も歌い回すよりは詰め寄る形に抑え気味。久々に〝3連の徳さん〟の面目躍如である。

もう一度恋をしながら

もう一度恋をしながら

作詞:荒木としひさ
作曲:杉本眞人
唄:神野美伽

 荒木とよひさの詞に杉本眞人の曲で、神野が歌謡曲を離れた。心得顔の矢野立美のアレンジも手伝って、フォークふうな語り口の歌である。熟年夫婦の夢よふたたびソングだが、神野が演歌的虚飾を排して歌った分だけ、妙に本音っぽく聞こえるのがおもしろい。

愛染桜

愛染桜

作詞:さくらちさと
作曲:鈴木キサブロー
唄:あさみちゆき

 嫁ぐ日を前にした娘が、亡くなった(らしい)兄の教えを思い返している。もの静かなさくらちさとの詞の、桜の花が舞うさまを、ひところの歌謡曲書き鈴木キサブローが曲に乗せた。そのうねり気味の曲を、あさみが彼女流に歌って、一風変わった歌が出来上がった。

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