新沼の胸中を思い、粛然とした
大川栄策の『男一途』は、文字通りの掘り出しもの。二八年前に登場した曲だ。たとえ古くても、いいものはいいと、制作者たちが思い定めたのだろう、まして昨今は、どこを向いても昭和回顧ばやりだから、なおさらのこと。
新沼謙治はふるさと讃歌を自作自演した。おっとりおとぼけキャラ、東北なまりの彼の胸中で、3・11以後の思いがこんなふうに昇華したものか。力まず理屈をこねず、率直な表現にすがすがしさが匂う。深夜、これを聞いて僕はしばし粛然とした。
2013年11月のマンスリーニュース
2014年5月12日更新新沼の胸中を思い、粛然とした
大川栄策の『男一途』は、文字通りの掘り出しもの。二八年前に登場した曲だ。たとえ古くても、いいものはいいと、制作者たちが思い定めたのだろう、まして昨今は、どこを向いても昭和回顧ばやりだから、なおさらのこと。
新沼謙治はふるさと讃歌を自作自演した。おっとりおとぼけキャラ、東北なまりの彼の胸中で、3・11以後の思いがこんなふうに昇華したものか。力まず理屈をこねず、率直な表現にすがすがしさが匂う。深夜、これを聞いて僕はしばし粛然とした。
男一途
作詞:松井由利夫 〝モロ昭和〟である。イントロのギターからもう、一気にあのころへタイムスリップする。作詞が松井由利夫、編曲が斉藤恒夫と、ともに故人だが名うての腕きき、作曲の弦哲也が二人にはさまって、負けず劣らずの仕事をした、昭和六〇年に生まれた曲と聞けば、そうだろうな!と合点する。
詞は男の心意気ものだが、曲は〝流し〟に似合いの哀愁型。それを大川が例によって切々の歌唱だ。三拍子揃えば、古さもまた良きもの。一番の歌い出しの詞の一言に、これこそ倍返しのはしりだわな...と、僕はニヤニヤした。
よりそい傘
作詞:仁井谷俊也 一転して〝モロ平成〟である。弦哲也の仕事ぶりがそうで、タイトルからして〝しあわせ演歌〟の一曲。力まずあせらずに着々と、ヒットメーカーの道を歩む彼の足跡が、目に見える気がする。
演歌は昔から、歌い出し二行が勝負と決まっているから、仁井谷俊也はそれを目指して腐心している気配。努力のほどを多としよう。
岡はそれを、大事にこまやかな気遣いの歌にした。心もち薄手の声が緊張感途切れることなく、歌の思いを伝える。そうだよな、何事によらず率直さ、素直さが一番だヨ。
漁師一代
作詞:柴田ちくどう歌に出てくる漁師もいろいろだが、ついに鰻を獲りに夜船を出すか! 瀬戸の入り江でその稚魚も見守る詞は柴田ちくどう。作曲の岡千秋と歌の鳥羽は、このての世界はお手のもので、五行詞をきっちり形にして、呼吸の合い方がなかなかだ。
保津川ふたり
作詞:万城たかし 声の繰り方やいなし方に、昔々の日本調の匂いがちらりとする。日舞を踊りながら歌う人だそうだが、それでそんな色が出るのか。近ごろめったに聞かぬタイプで、この人の個性になりそう。麻こよみ・影山時則が連作する道行きもの。やるせなげな風情がある。
柳葉魚 (ししゃも)
作詞:高田ひろおタイトルからシシャモが出て来た。釧路あたりじゃあれが群れて上がるそうな。いかにもいかにも...の高田ひろおの詞に、水森英夫がのびのびとした曲をつけたのは、佐々木の歌の独自性を生かす狙い。佐々木は嬉しそうに、高音を何度も張り上げている。
出雲雨情 (いずもうじょう)
作詞:かず翼 二五周年記念曲の第二弾だが、多岐川はそれでもなお挑戦の途上にいる。こぎれいに歌をまとめるよりは、攻めの姿勢で歌のインパクトを強める。高音部も声を整えるよりは、地金が出るくらいの張り方で、どうやらこれも、作曲水森英夫が用意したハードル...。
夢灯籠 (ゆめとうろう)
作詞:田久保真見 あれこれ彼女流の言葉を繰り出して、田久保真見の詞は女心一直線。その一節六行分をゆったりめのメロディーで手を替え品を替えたのは弦哲也。瀬口は掘れば掘るほど...の作品を貰ったから、歌に必死の色が出た。やわやわ温めの声味に、芯を作ろうとした。
博多時雨
作詞:仁井谷俊也 おなじみの声味、おなじみの節回しで、おなじみの世界の女心ソング。三門の歌はのうのうのったりと、独特の体臭を持つ。だから好き...というファンもいようから、CD売上げに一定の成果を挙げるのだろう。地味だがそれが、この人の立ち位置に見える。
ふるさとは今もかわらず
作詞:新沼謙治 新沼本人の作詞作曲。ふるさとの山河と四季を描き、人々の共生と祈りを歌った。東北出身の彼の、3・11体験が今、こういう歌を書かせたのだろう。とぼけた東北人キャラを返上、杉並児童合唱団と一緒に、すがすがしいふるさと讃歌は挽歌でもある。
涙の翼
作詞:下地亜記子 ミレイはとことん歌いたがりで、彼女なりの世界を持つ。だから作曲家はみんな歌わせたがりになる。今回の樋口義高もそうらしく、あちこちで思いがけない展開を示すメロディーを書いた。だからミレイの歌は、得たりや応!のノリで、風変わりな歌謡曲にした。
泉州恋しぐれ
作詞:鈴木紀代 なげやり、自堕落すれすれの声味と口調が、歌い出しにある。そこが彼女の粋や艶に生きるから面白い。それが歌の後半「ヒヤヒヤでワクワクドキドキや」の、囃子詞みたいなサビで、陽気に盛り上がる。主人公と本人のキャラが、おきゃんに納まるから妙だ。
石蕗の花
作詞:麻ことみ 男似の声味を一気に全開放した。しっかり声を前に出して、歌に小細工は一切なし。居直ったのか?と思える取り組み方が、歌を明るめに率直にした。どう考えたってこれは、作曲者水森英夫のやり方。地声を鍛えぬいてこそプロ...という持論の、実践編だろう。