視界広めて、歌におおらかさを!
「恋人」から「夫婦」まで「二人の関係」に、演歌は長くこだわり過ぎた。別れた過去にしろ、順調な現在にしろ、歌の中の人間関係がひどく限定されている。
その結果作詞家たちは、ディテールごっこに憂き身をやつす。背景や道具立てで、相違点を生む手口。「川」や「宿」ばやりを、固有名詞でしのぐのがその例だが、もはや限界、類型化がきわまった感がある。
もうそろそろ視線を広く展開して、おおらかな歌を作ってもいいころだろう。。
2014年1月のマンスリーニュース
2014年6月5日更新視界広めて、歌におおらかさを!
「恋人」から「夫婦」まで「二人の関係」に、演歌は長くこだわり過ぎた。別れた過去にしろ、順調な現在にしろ、歌の中の人間関係がひどく限定されている。
その結果作詞家たちは、ディテールごっこに憂き身をやつす。背景や道具立てで、相違点を生む手口。「川」や「宿」ばやりを、固有名詞でしのぐのがその例だが、もはや限界、類型化がきわまった感がある。
もうそろそろ視線を広く展開して、おおらかな歌を作ってもいいころだろう。。
一期一会
作詞:いではく 歌声が暖かい。それも人肌のぬくもりで、作品を手渡して来る。もともと歌巧者なのだが、声を張らず、歌い回すこともなく、だから差す手引く手の技巧も使わない。歌を聞く側の目の前へ、ごく自然に「置く」風情だ。
作品への、田川なりの理解と共感、対応である。いではくの詞は「感謝のこころ」と「わかちあいの精神」を語る。理屈張らずにきれいな一般論仕立て。幸耕平の曲は彼流のメロディーだが、いつもみたいにリズムに乗せて歌手をあおらない。編曲竜崎孝路は、その辺りのツボをちゃんと心得ている。
路傍の花
作詞:坂口照幸 一転してこちらは、歌い回しの歌。大泉が作曲もしているから、「孫」以来ずっと変わらぬ大泉流だ。加齢の気配が声に少し出て来て、張り歌だが、歌い伸ばす語尾に、吐く息がまじる。ビブラートの細かさ、揺すり方も手伝って、田端義夫ふうがちらりとする。
「何より地道が一番と...」という2番の歌詞の頭に、作詞坂口照幸の顔が見えた。「人生晩年 今わかる めおと以上の 縁はない」という3番の頭には、大泉の顔もダブった。演歌も芯の芯に息づくのは、私小説部分だと思っているから「ほほう!」と合点した。
道の駅
作詞:さわだすずこ「見慣れた景色」を歌い込んだ詞さわだすずこを、聞き慣れないメロディーで聴く心地がする。作曲は船村徹。この人は別に奇をてらっている訳ではなく、これが自然な彼流なのだろう。使い古されたメロディーを使わないことがきっと、この人の意地と矜持なのだ。
一声一代
作詞:水木れいじ本人の一代記めいた芸道一筋ソング。それらしい単語が山ほど並んでいるタイプを、岡千秋の曲が浪曲ふう展開でまとめた。6行の詞を2行ずつ3ブロックに分けて、序破急の組み立て方。詞のごつごつを曲がなめらかにして、天童の歌がのびやかになった。
あやめ雨情
作詞:仁井谷俊也あっさり、こざっぱりと歌い流す。詞の言葉一つ一つにべたつかず、メロディー中心の歌唱。前面に出るのは声味と節回しだが、それを誇示するヤマっ気はない。「みなさん、ご一緒に!」の気分の、カラオケ勢のリーダーみたいで、人徳もこの人の個性に生きた。
放浪酒
作詞:田久保真見「おや!」と少し、意表を衝かれた。歌い出しから低音で出て、後半それなりのヤマは張るが、高音で決め込む個所はない。弦哲也の曲が、山本の・その気・を抑え込むのか、山本がもう一つの彼らしさを狙うのか。詞は田久保真見。2番頭にらしさが少々。
夢航路
作詞:たきのえいじたきのえいじが踏ん張った5行詞3節。放浪の男心をすっきりと、小道具に頼らぬ表現にした。作曲船村徹への、彼なりの敬意、アプローチか。その分だけ雑念がまじらず、みはるかす北の海が目に浮かぶ。走と一緒に見た網走の海が、また見えた心地になった。
花影の女
作詞:丹 まさと流行歌の主流は、長いこと哀愁路線だった。そのせいか作品を、いつも詠嘆の色で歌う歌手が多い。千葉もその一人だが、このタイプの歌は、ともすれば暗めになる。昨今はそれにぽっちり、明るさの加味が求められる。千葉の努力は、その辺を目指している。
浅野川春秋
作詞:仁井谷俊也「あれっ?」と気づいた。歌声に暖かさと奥行きが加わっている。歌い出しの2行分など、この人とは思えなかった。息づかいと声味の変化。新境地はいつから?と、前作を探したが手持ちの資料がない。新年早々に、えらくいい女になったこの人と出会った気分だ。
海峡吹雪
作詞:青山幸司青山幸司という人の詞に、さしたる細工はないが、作曲の四方章人が委細かまわず、本格派の船ものに仕立てた。その揺れ方と昴まり方に、井上の歌が自然に添っていく。各コーラス歌い納めの「海峡...」のあたり、この人なりの哀切感が、生き生きときれいだ。
男の酒場
作詞:松原のぶえ松原が歌手生活35周年記念曲の一つとして、自作自演した。詞だけではなく、作曲も本人。いろいろあった半生を、演歌のエッセンスみたいな単語でこれでもか!とつなぎ、歌い込んだ仕上がり。この言葉、このメロディー、このココロが、この人のキャリアの蓄積なのだろう。