発想の「枠」を壊した歌づくりを!
山内惠介の『恋の手本』と北原ミレイの『北の母子船』が、意表を衝いて新鮮だ。前者が芝居の劇中歌、後者がアルバムからのシングルカットなのがミソ。北島・北山父子の『路遥か』は私生活の延長の歌づくり。多岐川舞子は声を鍛え直した成果を『霧の城』で聞かせる。発端は何であれ、シングル企画の枠組みを突破できてこその刺激性だろう。歌づくりに肝要なのは・いつも通り・の発想を自ら、どう壊せるかの冒険心。はやり歌の賑いのもとはそこにあると思うが、どうだろう?
2014年8月のマンスリーニュース
2014年10月29日更新発想の「枠」を壊した歌づくりを!
山内惠介の『恋の手本』と北原ミレイの『北の母子船』が、意表を衝いて新鮮だ。前者が芝居の劇中歌、後者がアルバムからのシングルカットなのがミソ。北島・北山父子の『路遥か』は私生活の延長の歌づくり。多岐川舞子は声を鍛え直した成果を『霧の城』で聞かせる。発端は何であれ、シングル企画の枠組みを突破できてこその刺激性だろう。歌づくりに肝要なのは・いつも通り・の発想を自ら、どう壊せるかの冒険心。はやり歌の賑いのもとはそこにあると思うが、どうだろう?
郡上八幡おんな町
作詞:彩 ちかこ 「作曲するツボは、歌い手の力量次第」と、四方章人がボソッと言ったことがある。永井はその四方が育てて、デビューから10年余、曲を書き続けた歌手。それが歌手15年めで師弟再会の仕事になった。ツボは知り過ぎるくらい知っていよう。
永井の歌が泣き歌になった。母との暮らしが役割で、恋を諦めるのが歌の主人公。サビあたりでそんな思いを揺らし、歌が切迫感を増す。この歌手、はなから声味に哀愁の色を持っているのを生かそうとする作戦、元気なばかりが裕子じゃない!ことと、その成長ぶりを強調したいのだろう。
あばれ舟唄
作詞:吉岡 治 作詞吉岡治、作曲市川昭介、編曲池多孝春...と、親交のあった歌書き3人の顔が順ぐりに浮かぶ。いずれも故人だから、思い出すのは懐しいエピソードばかりだ。その3人が大川の『さざんかの宿』の次の年に書いた作品。31年前のものがアルバムに3度収められて、今度のシングル化は4度めのおつとめ。
いかにも吉岡、いかにも市川、いかにも池多の作柄で、若い大川の歌声も、いかにもいかにもの味。メジャー調の軽めの曲を、のうのうとのどかに歌って、はやり歌のお気楽な楽しさを聞かせる。はな唄の妙がある。
路遥か
作詞:大地土子 北島と北山の義父子共演。クラウンとテイチクから同時発売と聞く。こんなの史上初でしょう! 1番が父、2番が婿どの中心の歌処理。ユニゾンで声を合わせ、追っかけで歌い、交互に歌う個所もある。芸事と父子の絆がテーマ、さすがに呼吸が合っている。
海峡岬
作詞:石原信一 ミュージシャンの感覚で、幸耕平は歌手の歌声の・いいとこ探し・をする。市川の高音の魅力を発掘したのも彼で、今回はそれに中、低音の声味の双方を生かそうとした気配。ラテン好きのリズム強調派が、市川の歌唱力を重点に、本格演歌に挑戦した一作か?
うきよ川
作詞:麻 こよみ 長保と原譲二の初の顔合わせ。原が書いたメロディーには、北島三郎節ののれん分けみたいな味がある。そのメリハリを、長保は自分のペースに引き込んだ。もこもこ肉厚な声味で、ゆったりめにのびのび歌って、彼女の世界。あわてず騒がず...の感がある。
望郷よされ節
作詞:高田ひろお 1コーラスで2度おいしい。長めの曲で相当な起伏があるが、そう感じさせないのは水森英夫の曲づくりの巧みさ。花京院の作品はずっとそうだが、カラオケ上級者が好んで挑戦する・たっぷり感・を持つ。1コーラスの歌い応えが倍近いのがミソか。
冬の海峡
作詞:さいとう大三 声を張る。声をいなす。息をまぜて揺らす。歌の思いを抱く。逆に突く。歌の語尾をびちっと切る。はかなげに抜く...。要するに都の声の操り方が随所に出て来て、歌う技術のお手品みたいだ。「あなた」だけでも1コーラスに3回、合計9回9色に聞こえるから面白い。
霧の城
作詞:かず 翼 歌い納めの歌詞2行分で、高音が生き、ファルセット部分も、訴求力が増した。サビがそうなれば歌が前に出て、スケール感まで生まれる。地声を徹底的に鍛える水森英夫魔術の成果か。多岐川の歌唱が、トンネルを抜ける手応えをつかんだように感じる。
月花香
作詞:伊藤美和 歌は語るように、セリフは歌うように表現するといいそうな。花咲の歌にはそれに似た感触があって、歌い出しの歌詞4行分は2行分ずつ中音を軸に語る。それが後半4行分は2行分ずつ、ガッと高音が来て、それぞれに情趣がある。それを仕組んだのは聖川湧の曲だ。
恋の手本
作詞:岡本さとる 昨年と今年の二度、山内が主演した芝居「曽根崎心中」の劇中歌。脚本・演出の岡本さとるが詞を書いて、長尺もの歌謡曲が出来上がる。山内の歌を・聴かせる・タイプの異色作。緩急よろしきを得て、彼がひと皮むける転機の作品になりそうな仕上がりだ。