2014年10月のマンスリーニュース

2014年10月1日更新


隙き間狙いは、挑戦のひとつだ

 西方裕之の『おやじのたそがれ』は、多芸の物書き高田文夫のクセ球、山本譲二の『北の孤愁』は昭和40年代ふう直球、島津悦子の男唄『惚れたのさ』は、威力そこそこのカーブ...。 いずれも流行歌の隙き間ねらいの企画である。昔、〝演歌の竜〟の馬渕玄三氏は、大晦日に温泉で「紅白」を見て、出て来なかったジャンルの歌づくりで新しい年を始めた。「これがてっとり早い勝負でね」と、隙き間ねらいの妙を教えてくれたことを、思い出した。

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惚れたのさ

作詞:仁井谷俊也
作曲:徳久広司
唄:島津悦子

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 言動がきっぱりめで、気性もすっきりに見えるのが、島津の日常。だから意外だったが、男唄はこれが初めてという。
徳久広司の曲は、やくざ唄ふうな決め方。それを生かすように島津は、ざっくりと歌って、それなりの味を作った。思い入れ濃いめになるのは、サビの「惚れたのさ 惚れたのさ」の1回めの「さ」の部分。ここに男心の本音めいた色が出る。
 多作の仁井谷俊也の詞も〝ほほう!〟である。決めのフレーズづくりに工夫があり、2番の歌詞も流さずに書いていて、頼もしい。

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おやじのたそがれ

作詞:高田文雄
作曲:佐瀬寿一
唄:西方裕之
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  「セピアの写真」「泣きぐせ踊り子」「ひろった仔猫」「夕闇」「釣り堀」「こわれたネオン」と、言葉をぶつ切れに並べて描くのは、おやじの世代のたそがれ。歌づくりに参入した高田文夫〝らしい〟アイデアだ。
 それを思いがけなく、ごく演歌的なメロディーにまとめたのが作曲の佐瀬寿一。一風かわった作品で、独自性を狙う二人の野心がありありだ。
 西方の歌はこれも意外だが、やわらかめにスタートして、歌い尻で決めにかかる。その狙いは、〝おやじ〟同志の共感に聞こえる。

下田慕情(竹川美子).jpg

下田慕情

作詞:我妻ゆき子
作曲:河合英郎
唄:竹川美子

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 下田、黒船、唐人お吉...と、おなじみの素材を使った人恋いソング。現地で長く歌われている作品、竹川がカバーした。歌い出しの歌詞が3行続きの破調、メロディーのところどころにある日本調の味もひなびていて、竹川の持ち味に似合っている。

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北の孤独

作詞:たかたかし
作曲:弦 哲也
唄:
山本譲二

 詠嘆の思いを大づかみに、朗々と山本が歌う。たかたかしの詞が「狭霧」「森かげ」「湖水」「わくら葉」などを小道具に、今では古風に思える筆致。弦哲也の曲が委細承知とそれに応じた。大昔でいえば逍遥歌、昭和40年代なら松島アキラの「湖愁」の味か。

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紀淡海峡

作詞:悠木圭子
作曲:鈴木淳
唄:
入山アキ子

 ゆったりめの曲を、律気に歌う。高音にちらりと艶があって、無名だがそこそこのキャリアを持つ人の歌だ。悠木圭子・鈴木淳コンビの作品は、ひところの八代亜紀を思わせる仕上がり。入山は「1カ月で2万枚も売った」とテイチクを驚かせる地力も持っている。

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佃の渡し

作詞:たきのえいじ
作曲:あらい玉英
唄:
千葉一夫

 たきのえいじの詞、あらい玉英の曲、南郷達也の編曲と、三者オーソドックスな演歌。それを千葉が、相変わらずの几帳面さで歌っている。息づかいであちこち、彼らしい工夫はしているが、どこか醒めている気配の歌唱。それがこの人の、個性なのかも知れない。

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越後雪歌

作詞:森坂とも
作曲:村沢良介
唄:
木原たけし

 やがて冬、父は出稼ぎ...の1番。夜なべに機を打つ母親が2番。もうすぐ春、父が帰る日を待つのが3番。森坂ともの郷土色たっぷりの詞に、村沢良介が曲をつけた。さすが老練、越後の冬の重さを綴り、歌のおしまいで木原の渋い歌声を、一気に解放した。

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飛騨川恋唄

作詞:高田ひろお
作曲:弦 哲也
唄:
清水博正

 清水の歌は基本的に泣き節。どんな曲想の作品を貰っても、必ずその色になる。今回は高山本線、飛騨川を舞台に会えない人をしのぶ青春演歌編。ブンチャブンチャのリズムに乗るが、明るめには仕上がらないのが清水の世界。特異にして独特というべきか。

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夢旅路

作詞:三正和実
作曲:大山高輝
唄:
三船和子

 1番で出雲、2番で京都、3番で三陸港と欲ばった旅唄。三正和実の詞、大山高輝の曲が、それを、夢で辿るしかない巷の女唄に仕立てた。歌手生活50周年の三船が、はずみながら芯は泣いている歌声で語る。ほろほろと頼りなげに、これもベテランの技か?

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冬かもめ

作詞:幸村リウ
作曲:弦 哲也
唄:
松川未樹

 冬間近か、北の港を舞台に、男にはぐれた女心ソング。よくある題材を一途に、幸村リウが言い募る詞を、弦哲也の曲が情の濃淡で演出する。松川の歌はていねいに、ひたひたとこちらも一途。含み声が吹っ切れて色づくのは、サビと歌い納めのフレーズだ。

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雪の宿

作詞:もず唱平
作曲:聖川 湧
唄:
成世昌平

 〝宿もの〟は大てい、主人公の男女がそこに居るのが相場。それを別れて3年目、駆け込んだ夜汽車で、女が思い起こしているのが、もず唱平の詞のミソ。聖川湧の曲が、それを彼流の演歌にした。成世は民謡の声と節を、女心ソングに生かそうと試みた。

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ガラスの部屋

作詞:田久保真見
作曲:徳久広司
唄:
ハン・ジナ

 ともかく快い。田久保真見の詞、徳久広司の曲、川村栄二の編曲とテンポ、ハン・ジナの声味...。韓国歌手によるハスキーボイスのムード歌謡は、いつもヒットの椅子が一つ用意されて来た。彼女がそれを占めるかどうか。ライバルに比して、甘さがあるのが利点だが。

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