2014年11月のマンスリーニュース

2014年11月1日更新


仁井谷3曲に趣きを変える工夫

 相変わらず多作の仁井谷俊也の詞が、今回は9作品中3編。岡千秋が2曲、弦哲也が1曲と相方が変わり、編曲は南郷達也、若草恵、伊戸のりおの3色。
 『この世は女で廻るのよ』はアイデアもの。『城崎夢情』は湯の宿未練の定番もの。『雲母坂~きららざか~』はフォーク調っぽいのが内訳だ。物語と舞台の設定に新味こそないが、それなりの小道具探しと慎重な筆致で、目先と趣きを変えた。『雲母坂』はトゥーハーフの構成、歌謡曲狙いがはっきりしている。

早春慕情

早春慕情

作詞:悠木圭子
作曲:鈴木淳
唄:椎名佐千子
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 流行歌の流れはここ数年で、明らかに演歌から歌謡曲に移行している。そうなれば鈴木淳はきっと、我が意を得たり!の心持ちだろう。『早春慕情』は彼一流の甘美さをにじませて、淀みのないメロディー。悠木圭子の詞が10行もあるが、緩急よろしく訴求力強めの仕上がりだ。夫妻で一曲を仕上げるやりとり、呼吸の合わせ方が、目に見えるようでほほえましい。歌うのが弟子の椎名佐千子、1コーラスに2度出てくる高音部に、切なげな色が濃い。鈴木一家それぞれの、自負が匂う作品だ。

雨がつれ去った恋

雨がつれ去った恋

作詞:高畠じゅん子
作曲:中川博之
唄:美川憲一
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 中川博之は、さりげなく平易で情に満ちた楽曲で、昭和の流行歌を支えた人。歌謡コーラスのヒットが多く、ムード派と称されていたが、曲の芯がしなる強さが独自だった。
 その遺作を美川が歌う。なげやりな歌唱で独特の世界を作って来たが、この作品はがらりと変わる熱唱ぶりがいい。楽曲による変化の陰で、師への思いが揺れていそうだ。
 作詞は高畠じゅん子で、こちらも夫妻の合作。メロディーとの押し引きに、長くコンビを組んで来た、呼吸と手際が透けて見える。中川と僕は同い年だった◯。

二月堂(にがつどう)

二月堂(にがつどう)

作詞:麻こよみ
作曲:影山時則
唄:葵かを里
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 珍しく日本調の匂いがする歌唱が、この人の声味に似合う。それが奈良を舞台にする詞と曲、編曲の素材で生きた。基本が泣き歌の人だろうが、歌い回さずに語ろうとする気配が好ましく、ことに三番の語り口に情がにじんだ。歌手10周年の進境だろう。

この世は女で廻るのよ

この世は女で廻るのよ

作詞:仁井谷俊也
作曲:岡千秋
唄:中村美津子
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 この種の楽曲を歌わせたら、この人の右に出る歌手はいない。語り口のメリハリ、啖呵ふうな詰め方、歌を揺する遊び心などは、美律子が長いキャリアで身につけたものだろう。委細承知の岡千秋が、浪曲調少々のメロディーで、彼女に〝はまり〟の作品にした。

城崎夢情

城崎夢情

作詞:仁井谷俊也
作曲:岡千秋
唄:井上由美子
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 温泉宿、許されぬ恋、尽きぬ未練...と、オーソドックスの見本みたいな演歌。仁井谷俊也の詞、岡千秋の曲、南郷達也の編曲と、三拍子も揃った。それを井上が、これまたオーソドックスに歌う。たっぷりめの曲にひたひた...の情感、この人の曲者らしさが出た。

吾亦紅~移りゆく日々~

吾亦紅~移りゆく日々~

作詞:仁井谷俊也
作曲:弦哲也
唄:川中美幸
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 声をすぼめ、思いをしならせて、女心を語る。川中の新境地は、詞が水木かおる、曲が弦哲也の冒険作でもある。「いま、花ひとときのいのち」の移りゆく日々を、3コーラス三幕ものの抒情歌にした。これは間違いなく〝女優〟川中ならではの、精緻に演じる歌だ。

夜叉(やしゃ)

夜叉(やしゃ)

作詞:下地亜紀子
作曲:弦哲也
唄:真木柚布子
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 「嫉妬」という〝女偏〟の二文字の、狂おしい思いを抱えて、女は華にもなり夜叉にもなれると言う。下地亜記子の詞に弦哲也が曲をつけ、桜庭伸幸の編曲がスリリングにあおる。真木はその、おどろおどろの情感を歌い、歌い納めはめいっぱいに感情を露出した。

雲母坂~きららざか~

雲母坂~きららざか~

作詞:仁井谷俊也
作曲:弦哲也
唄:川野夏美
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 同棲時代を思い返し、その町をそぞろ歩いて、還らぬ恋をしのぶ女心ソング。映画の帰り、北向きのアパートなどが、貧しいけど夢があふれたころの小道具に出て来る。フォーク寄りの詞、ポップス寄りの曲を、演歌寄りに歌って、川野はいい歌い手になった。

雨港

雨港

作詞:坂口照幸
作曲:徳久広司
唄:小桜舞子
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 港の別れ歌を、坂口照幸の詞と徳久広司の曲が、それらしい仕立て。小桜の歌は相変わらず切々の嘆き節。ていねいに細やかに歌うが、サビの高音部、一番では風景にかけた歌声の開き方と、歌い納めの「私です」で、自分に戻る歌の閉じ方が、対称の妙を作った。

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