2014年12月のマンスリーニュース

2014年12月1日更新


さて、あなたはどの曲に挑戦するか?

 全く思いがけなく、松尾芭蕉に出っくわした。どう考えるべきか一瞬迷ったが、これはこれ、渥美二郎の企てを素直に受け取ればいいと合点した。五木ひろしの歌では、亡くなった山口洋子と遠藤実の顔を思い浮かべる。二人とも昭和を代表する意地っぱりだった。鳥羽一郎、秋岡秀治の男の意気地ものに並んで、中島みゆきが2曲、彼女は珍しく「紅白歌合戦」にも出る。教材のうち難曲は『レット・イット・ゴー』で、全部が新年の勉強用品揃え。言ってみれば今月は、正月のおせち料理みたいに色とりどりだ。

蒼い海峡

蒼い海峡

作詞:仁井谷俊也
作曲:円広志
唄:浅田あつこ
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 演歌系の仁井谷俊也の詞に、ポップス系の円広志が曲をつけ、矢野立美がアレンジ。三者の持ち味が寄り添った形で、ほどのいい歌謡曲が出来あがる。歌詞の前半4行分を、浅田は手渡しするようにそっと歌い、後半4行分のサビ以降を声も思いも尻上がりに強める。これもほどのいい仕上げ方で、彼女なりの情感を作った。メロディーにふと、三木たかしの色を思い出し、歌処理にテレサ・テンの感興をしのんだ。デビュー20年の浅田がこの歌で生んだのは、演歌寄りのテレサの線かも知れない。

奥の細道

奥の細道

作詞:千寿二郎
作曲:千寿二郎
唄:渥美二郎
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 渥美が千寿二郎のペンネームで作詞、作曲、何と芭蕉の世界に迫った。引用しているのは「行く春や鳥啼魚の目は泪」「夏草や兵どもが夢の跡」「閑さや岩にしみ入る蝉の声」の3句。プロの作詞家も思いつかないような冒険である。俳人の旅、奥州路で見たものを素材に、歴史ものふうな抒情歌が出来上がった。それを、情感抑えめに本人が歌う。歌い上げるよりもその方が、スケール感が出るという計算か。語り口は彼の身上の〝流し節〟で、この歌、いろんな要素が混在しているのが面白い。

風の子守唄

風の子守唄

作詞:山口洋子
作曲:遠藤実
唄:五木ひろし
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 亡くなった山口洋子の追悼盤。彼女の才能と情熱があって世に出た五木が、37年前の作品を歌い直した。各コーラスのまん中、3行めと4行めに、山口らしいフレーズがある。作曲は暮れに七回忌法要があった遠藤実。抑えめに歌う五木に、昭和への感慨も聞く。

飛騨の龍

飛騨の龍

作詞:柴田ちくどう
作曲:原譲二
唄:中村美津
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 男の生きざまを何に託すか? 作詞柴田ちくどうはそれに飛騨の細工師を選んだ。「真の値打ちは侘びと寂」なんてフレーズは、そんな特化から生まれる。作曲は原譲二、お得意の〝やくざ唄〟ふうメリハリ、鳥羽もお手のものの歌唱で、各コーラス末尾に情がある。

花板(はないた)

花板(はないた)

作詞:仁井谷俊也
作曲:影山時則
唄:秋岡秀治
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 こちらも技と修業の男唄。作詞仁井谷俊也は浪速の板前を主人公にしてみせる。その線ならこういうふう...とばかりに、影山時則の曲と伊戸のりおのアレンジもオーソドックス。秋岡は声と口調をそれらしく作った。一言で感想を書けば「役者やのう!」だ。

波止場酒

波止場酒

作詞:水木れいじ
作曲:叶弦大
唄:北川大介
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 歌詞のフレーズごとに、頭に情感、語尾は歌い流しの鼻唄ふう。そういう歌唱が、北川のキャラクターと合わせ技一本の効果を上げるのだろう。惹句が「哀愁と男らしさ」と狙いを語るが、無いものねだりの僕は、いつの日か、この人のハラワタを歌で聞きたい。

糸

作詞:中島みゆき
作曲:中島みゆき
唄:中島みゆき
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 「縦の糸はあなた 横の糸は私」と繰り返し、出来た布が誰かを暖め、傷をかばうかも知れないと、中島が淡々と歌う。そんな出会いを人は幸せと呼ぶが《さて、あなたは?》の問いかけが残る。聴く人それぞれが、長いエンディングの中で答えを探す仕掛けか?

麦の唄

麦の唄

作詞:中島みゆき
作曲:中島みゆき
唄:中島みゆき
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 朝のテレビ小説「マッサン」の主題歌だから、もうおなじみの作品。例によって中島の歌は乾いた感触で、余分な感傷を避ける。その分だけ聴く側は、それぞれの感慨を誘発されるだろう。聞きながら僕は、この人の『ファイト!』が好きだなと、妙な再確認をした。

レット・イット・ゴー〜ありのままで〜

レット・イット・ゴー〜ありのままで〜

作詞:クリスティン・アンダーソン=ロペス 日本語詞、高橋知伽江
作曲:ロバート・ロペス
唄:松たか子・May J.
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 記録的なヒットになった「アナと雪の女王」の劇中歌。松たか子とMay J.が、のびのびおおらかに歌を語り、歌う。「さて...」とこちらは考える。演歌、歌謡曲が多めの講座にまじった教材。こういう作品に挑戦するのも、また一興。頑張れ!と声をかけたい。

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