2015年4月のマンスリーニュース

2015年4月1日更新


これがご時世なりの泣き方かなァ?

 MCの編集部から届いたリストは、10曲中9曲が女性歌手の新曲。たまたまのことだろうが、いずれ菖蒲かかきつばたの賑いだ。
 多いのは失恋の女心ソングだが、共通点は嘆き方や切ながり方に、かなり抑制が利いていること。ひと昔前までなら、身をもまんばかりの訴え方、迫り方になったろうが、どこか醒めた眼の、自立の気配がある。多事多難の平成、世情は混とん、みんなうそ寒く、浮かぬ気分でいる。歌で泣き叫ばれても、うっとうしさが先に立って嫌われるかも知れない。

命咲かせて

命咲かせて

作詞:石原信一
作曲:幸耕平
唄:市川由紀乃
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 八分めの歌か?と感じる。ガンガン張る歌を、行けば行けるはずの歌い手なのだ。それが全体に、声を抑え気味に、女心の切なさ辛さを表現する。作曲幸耕平の狙いなのか、制作者の計算なのか。
 そう言えば...と、幸についても思う。もともとリズムを強調した歌謡曲の書き手で、例えば大月みやこの『乱れ花』があるが、こちらもリズムを抑えて、本格的演歌寄り。
 結果、出来上がったのが「かよわさ」とか「一途さ」とかの情感。市川の魅力の、もう一つの側面が聞こえた気がした。

蒼い糸

蒼い糸

作詞:田久保真見
作曲:五木ひろし
唄:角川博
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 作曲家はそれぞれ、独自のメロディーを持っている。それが強く前面に出る時もあるし、ふっと歌い尻に出る時もある。歌手も大成する向きは、独特の語り口を持つ。こちらは歌の端々に、かっちりとそれが出るものだ。
 角川の今作は、五木ひろしの作曲。当然みたいに、メロディーがそれらしいから、角川の歌にも、五木に似た語り口の部分が生まれる。歌詞の3行めの歌い尻や、4行めの頭の言葉の発し方にそれが匂う。
 結果、角川の歌の情が、こまやかになった。曲と歌の、組み合わせの妙だろうか。

大和路の恋

大和路の恋

作詞:仁井谷俊也
作曲:弦哲也
唄:水森かおり
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 水森は"ご当地ソングの女王"と呼ばれて久しい。連作に次ぐ連作で、ずっと曲を書く弦哲也は苦心と工夫の連続だろう。毎回趣向を変えるが、変え過ぎてもいけない。結果、平成の抒情歌群が出来上がった。水森も初々しさを長く維持して、これも偉いものだ。

港ひとり

港ひとり

作詞:下地亜記子
作曲:四方章人
唄:石原詢子
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 下地亜記子の詞が、シンプルですっきり。四方章人の曲が、メリハリきっちりゆるみたるみがない。そんな作品に恵まれて、石原の歌も気合いが入った。といっても技を使わずシナを作らずのこの人。「逢いたくて、逢いたくて」のサビの「あ」の発し方が艶っぽい。

風岬

風岬

作詞:麻こよみ
作曲:弦哲也
唄:神野美伽
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 歌い出しの歌詞1行「海鳴り、黒髪、波しぶき」だけで《ほほう!》ともって行かれた。神野の歌の、情感の芯が太いのだ。全体に、こまやかな技が使われているが、それが浮き上がらないのは、作品の捉え方がしっかりしているせい。言葉が一つずつが粒立っている。

一路一生

一路一生

作詞:池田充男
作曲:弦哲也
唄:川中美幸
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 ひたひたと、一途な歌だが、芯が明るい。それが川中の独自の魅力だ。「人の和」と「酒」と「さだめ」をキイワードに、池田充男の詞はさりげなく人生を語る。そのほどの良さも川中に似合った。「母の愛」からスタートして、彼女の実感が重なった作品だろう。

雨の花

雨の花

作詞:里村龍一
作曲:徳久広司
唄:上杉香緒里
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 女主人公の彼は、いなくなったっきりだ。それでも彼女は、泣きもしないし恨みもしない。伊豆を舞台に、里村龍一が書いた「いない、いない、ばあ」ソング。上杉の歌は、そんな"女の状況"を、しっとりと歌う。気持ちの決め方がきっと、難しかったろう。

金毘羅一段

金毘羅一段

作詞:さわだすずこ
作曲:武市昌久
唄:長山洋子
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 まん中に人生訓めいた2行をはさんで、前に4行後ろに4行。さわだすずこの詞は1コーラス10行もあるが、長く感じないのがミソ。金毘羅さん周辺を絵に見せたり、曲が金毘羅船々...を匂わせたり。テンポ早めの曲が長山の声味に似合って、こざっぱりした味だ。

花かげろう

花かげろう

作詞:森坂とも
作曲:弦哲也
唄:永井みゆき
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 気持ちがすれ違う男女の仲を、女の側から歌にした。一人じゃ何も出来ない男と、その着物のほころびを繕う女...。近ごろ珍しいレトリックあれこれの森坂ともの詞に、弦哲也が曲をつけた情趣を聞かせる作品。永井の歌は彼女なりの理解で、初々しく一生懸命だ。

とまり木夢灯り

とまり木夢灯り

作詞:レーモンド松屋
作曲:レーモンド松屋
唄:香西かおり
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 レーモンド松屋の作詞、作曲で、彼お得意の昭和テイスト歌謡曲。気分本位にうねるメロディーと、気分のいいリズムに、昔なら歌い手が乗って歌い回したタイプだ。それを、そうはしないのが香西の味なところ。「歌う」曲を「語る」手口で、平成の歌に仕立てた。

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