2015年9月のマンスリーニュース

2015年10月7日更新


「定石だらけ」はあんまりだろう!

 演歌の女主人公はおおむね孤独で、捨てられぬ未練を抱えている。そんなキャラを船に乗せるのか、坂をのぼらせるのか、酒を飲ませるのか、歌書きたちは長いことあの手この手の設定を考えて来たが、それもどうやら行き詰まり。主人公が傷心のままでは救いがないから、歌詞に必ず出て来るのが「明日」で、一縷の希みを託す。三番をこれで収めるケースが多く、今月も8曲の半分に出て来た。演歌に斬新さばかりを求める気はないが「定石だらけ」はいかがなものだろう?

長良川鵜情

長良川鵜情

作詞:久仁京介
作曲:徳久広司
唄:中村美律子
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 「鵜情」ねぇ...と、僕はニヤつく。「有情」や「雨情」はよくあるが、ものが長良川の鵜飼いがらみだと、こうなるのか。作詞の久仁京介が描く「一途な女」のありようは、ほぼ定石通りだ。
 作曲の徳久広司は、歌詞の3行めに出てくるこのフレーズの「女」の「お」でアクセントを作る。思いがけない飛び方で、そこに高い音を使っている。
 中村美律子はゆるゆるゆる...と、川の流れを思わせる歌い回しで、彼女の色を出そうとした。詞、曲、歌ともに、器用さの産物と書いても、別に失礼には当たるまい。

落ち葉舟

落ち葉舟

作詞:志賀大介
作曲:水森英夫
唄:黒川真一朗
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 山に山霧、川知らず、川に川霧、山知らず...の2行が、一番の歌い出しの詞、作詞志賀大介の今では古風な重ね言葉だ。それが人の心のすれ違いや、憂き世のあてどなさを暗喩するココロか?
 さすらい男の心情を、落ち葉に託した5行詞に、曲をつけたのは水森英夫。昭和30年代の三橋・春日全盛時代を思わせるタイプで、節回しのあれこれに、そんな趣向も聴こえる。
 声を張ればそれらしくなる曲を、黒川真一朗の歌はソフトに仕上げた。デビュー12年のこの人の、持ち味でそうなったのか。

しのぶ坂

しのぶ坂

作詞:坂口照幸
作曲:徳久広司
唄:小桜舞子
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 小桜舞子の歌は、高音部の迫り方に「切なさ」や「いじらしさ」の色が濃くなるのが特徴。坂口照幸の6行詞の真ん中2行に、徳久広司がサビのメロディーを高音でつけて、これでもか!これでもか!だ。難癖をつける気はないが「人の心は見えないけれど、心遣いはよく見える」というフレーズ、結局は人の心も見えてるんじゃないかい?坂口君。

浮草ふたり

浮草ふたり

作詞:久仁京介
作曲:市川昭介
唄:菊地まどか
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 市川昭介の曲。没後の掘り出しものに久仁京介が詞をつけた作品か。いかにも市川らしいメロディーだが、さて、生前に歌手の誰をイメージしたものだろう?
 歌づくりはたいてい、相手があって曲を書く作業。サビの昂り方に僕は、都はるみを連想した。歌う菊地まどかは、そんな勘ぐり方など無縁で、彼女らしい精いっぱいの歌を聴かせた。

祖谷のかずら橋

祖谷のかずら橋

作詞:仁井谷俊也
作曲:宮下健治
唄:佐々木新一
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 南郷達也編曲のイントロから、僕は春日八郎の『山の吊り橋』を思い出した。あれは確か横井弘の作詞、吉田矢健治の作曲。そう言えば亡くなった横井を送る会が、9月18日にある。山あいの田園風景に、父親を立たせた今作は仁井谷俊也の詞、宮下健治の曲。昔、三橋美智也二世と騒がれた佐々木新一が、のびのびと難なく歌っている。

威風堂々

威風堂々

作詞:新本創子
作曲:聖川湧
唄:秋岡秀治
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 聖川湧の一風かわったメロディー、丸山雅仁の編曲がトランペットを使って威勢がいい。タイトルからみんなが"その気"になったのだろうが、秋岡秀治の歌も精いっぱいの頑張り方。各コーラス最後の歌い伸ばしなどシャープ気味になるくらいだ。それにしても新本創子の詞、主人公の日常を語るエピソードが、さほど元気でもない気がした。

越前恋おんな

越前恋おんな

作詞:久仁京介
作曲:西つよし
唄:竹村こずえ
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 竹村こずえは生来、そんな気性の持ち主なのか、歌声の芯の強さが、この人の歌を男唄に似た味わいにする。それをガッツリいこうと考えたのか、久仁京介の詞は長めで2ハーフ。西つよしの曲も、勢いを持って粘り、それなりの成果を挙げている。気になったのは二番の「恋のありよでしょ」で、歌詞カードでは「ありよう」にしたいね。

夜鳴く...かもめ

夜鳴く...かもめ

作詞:瀬戸内かおる
作曲:岸本健介
唄:夏木綾子
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 作詞瀬戸内かおる、作曲岸本健介、歌夏木綾子のトリオが、作品で色を変える試み。前田俊明のアレンジが、いかにもそれらしい連絡船ものだ。北航路の最終便に乗るのは、傷心のひとり旅の女。夏木の中、低音を主にしたせいか、切迫感は後退した。「夜鳴く」の「な」に思いがこめられず、歌い流れているのも、残念な一因になっている。

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