歌を「聴く」「味わう」季節です!
カラオケで我先に歌うのも楽しかろうが、時にはじっくりと、歌を「聴く」楽しみもあわせ持ちたい。ことに秋から冬、そんなしみじみした時間も、似合いではないか。
北島三郎、細川たかし、木原たけしらは、いかにもいかにもの、彼らならではの味わいが深いし、松原のぶえのこまやかな表現力を再確認もできる。森若里子の攻め歌に一日の長を発見するのもいいし、新井利昌・花咲ゆき美師弟は、あうんの呼吸の仕事ぶりがほほえましく思えるよ。
2015年10月のマンスリーニュース
2015年10月22日更新歌を「聴く」「味わう」季節です!
カラオケで我先に歌うのも楽しかろうが、時にはじっくりと、歌を「聴く」楽しみもあわせ持ちたい。ことに秋から冬、そんなしみじみした時間も、似合いではないか。
北島三郎、細川たかし、木原たけしらは、いかにもいかにもの、彼らならではの味わいが深いし、松原のぶえのこまやかな表現力を再確認もできる。森若里子の攻め歌に一日の長を発見するのもいいし、新井利昌・花咲ゆき美師弟は、あうんの呼吸の仕事ぶりがほほえましく思えるよ。
能登みれん
作詞:ないとうやすお 面白いなと思うのは、言葉の置き方というか、念の押し方というか。歌詞の「初めて知った」の「た」のあとに「ァ」を言い直し「今日で涙と」の「と」のあとに「ォ」をつけ足している。作曲した渡辺勝彦のアイデアなのか、珍しい手口。歌い伸ばしとは一味違う効果がある。
曲自体が演歌のメリハリ、定石を避ける気配で、ゆったり、なだらかに揺れる魅力を持つ。ないとうやすおの詞を、松原のぶえが語るようにていねいに歌い、そんな流れを淀みなくした。情感が昂るのは8行の詞の最後の1行。穏やかなスケール感がなかなかだ。
今日より明日へ...おれの道
作詞:下地亜記子 こちらは演歌の起承転結をきっちりと聞かせる。北島"らしい"と言うか"ならでは"と言うかの世界。いなせな男伊達が、己れの人生を振り返り、他者に言いきかせるような口調になる。
「この命、赤々と、歩いて行こう、俺の道」...と、北島自身の感慨に寄り添うような5行詞は下地亜記子。それに原譲二の北島が曲をつけ、彼流に仕上げた。おだやかに、しみじみとした感触は、北島の声と節の枯れた滋味が生むもので、彼の歌世界の到達点を示していようか。高齢社会の共感ソングになりそうだ。
北岳
作詞:志賀大介南アルプスの絵葉書を三枚、1コーラスごとにめくっていく心地になる。細川たかしの歌声が、さえざえとそれを伝えるせいか。志賀大介の詞が、山と向き合う視線で人生を語り、望月吾郎の曲が、ツボを心得た仕事ぶりなら、編曲丸山雅仁もお得意の盛り上げ方だ。南アルプス世界自然遺産登録応援歌だそうだが、ちゃんと流行歌になっているのがいい。
鵜の岬
作詞:東逸平鵜の岬は茨城の景勝地、鵜飼漁に使う海鵜はここで捕獲されるそうな。主人公の女心を、その鵜に託した詞は東逸平。こだわり過ぎの感がなくもないが、作曲の伊藤雪彦は老練の筆致でそれらしい演歌に仕立てた。ふっくらおっとり...の森若里子も、もう歌手歴34年。いきなり高音から出る曲に背を押されてか、いつになく歌に"迫る"気配が濃い。
海鳥哀歌
作詞:かず翼男には、女の愛が届かない、涙の価値が分からない...と絶望的になりながら、それでも「あなただけしか愛せない」と訴える詞はかず翼。曲のつけ方ではどうなることかと心配になるタイプを、新井利昌の曲がうまいこと甘美に仕立てた。8行詞の歌の決めどころは、5行目から6行目にかけての高音部。花咲ゆき美はそこを、艶のある声味で生かして、力量を示した。
北国挽歌
作詞:市川武志重めに粘っこい口調、ネアカで活力のある声、歌い伸ばしは心地よさそうなビブラートと、木原たけしは生来、独特の魅力を持つ。岩手に住み、活動範囲を東北に限定することも、存在感を際立たせる。どんなタイプも歌いこなす巧者をデパート型とすれば、こちらは野趣たっぷりの専門店。それを生かすのは手練者・村沢良介の曲づくりか!