それはそれで、時代の反映なのか?
昨今の世情、そうそう明るく軽めでは決してない。だからと言って深刻に眉を寄せて、重めの表現もうっとおしいのか。例えば安保関連法に反対する若者たちのデモ。あれは60年や70年の安保闘争とは隔世の感がある手法だが、事態をしっかり捉えた危機感が芯にあるから長く続くのだろう。歌書きたちもそんな時代を、理屈ではなく皮膚感覚的に捉えていそうで、作る流行歌が軽めに歌い流すタイプが多い。みんな、強くなる時代のキナ臭さに、うんざりしているのかも知れない。
2015年11月のマンスリーニュース
2015年11月26日更新それはそれで、時代の反映なのか?
昨今の世情、そうそう明るく軽めでは決してない。だからと言って深刻に眉を寄せて、重めの表現もうっとおしいのか。例えば安保関連法に反対する若者たちのデモ。あれは60年や70年の安保闘争とは隔世の感がある手法だが、事態をしっかり捉えた危機感が芯にあるから長く続くのだろう。歌書きたちもそんな時代を、理屈ではなく皮膚感覚的に捉えていそうで、作る流行歌が軽めに歌い流すタイプが多い。みんな、強くなる時代のキナ臭さに、うんざりしているのかも知れない。
霧島の宿
作詞:坂口照幸 坂口照幸の詞は、絵葉書みたいに景色を見せる。ちりばめてあるのは日豊本線、薩摩路、霧島連山、天降川などのご当地名。置き手紙を読んだ男が、追って来るのか来ないのか、女主人公が気をもむ歌なのだが。
結局彼は来ずに、彼女はあきらめるのだが、その間の心情に深入りはしない。深刻な重さを避けて、軽めに納める趣向は、水森英夫の曲にも共通している。歌詞を変えれば氷川きよしにも似合いそうな股旅調。それを水田竜子がのびのび、のうのうと歌う。昔は情緒てんめんだった湯の町ものも、大分様変わりした。
越前つばき
作詞:仁井谷俊也 こちらも湯の町もので、仁井谷俊也の詞は芦原、越前、三国、九頭竜川などのご当地名詞が並ぶ。この種の詞はとかく即物的になりやすいから、名詞のあとさきのフレーズを、情緒的にこねて、多少の推敲のあとが見える。
得たりや応!とばかりに、徳久広司の曲は、往年の湯の町ものの感触を、さりげなく盛り込んだ。藤原浩の歌は、ニュアンスその辺に近づけて、泣き節タッチもちらりとさせる。
軽さの中のそんな味つけはおそらく、藤原の美声を解きほぐして、情緒的にする計算なのだろう。
おちょこ鶴
作詞:内田りま箸袋で折った鶴を、ちょこに並べて好いた男を待つ女の酒場ソング。内田りまの思いつきが主人公のいじらしさを前面に出す。6行詞の気持ち長めなのを4行めと5行めをうまくまとめたみちあゆむの曲が、5行詞の気分のよさに仕立てた。城之内早苗は歌にそれらしい"口調"を作り、主人公のイメージを具体的にする。ちょっとしたアイデアソングだ。
十勝望郷歌
作詞:円香乃戸川よし乃の歌はずっと、岡千秋が曲を書いている。あれこれ工夫しながら、彼流の冒険をしていることが目立つ。今回は8行詞の頭3行、静かだが味のある起伏がきれいで、戸川の歌味を聴かせる。歌声がしっくり練れて来ていて、次の3行分で心開いていくさまも、うまく生かした。2ハーフ、骨格は大作の曲だが、大きく構えない歌わせ方がいい。
愛は海
作詞:高畠じゅん子愛にもがき、おぼれていく女心の詞は高畠じゅん子の2ハーフ。それをヨーロッパ風味の歌謡曲にしたのは、作曲の小田純平と編曲の矢田部正で、快い哀愁を生んだ。木下結子の歌は多少の倦怠感をにじませながら、おとなの味つけ。「ノラ」の創唱者、ヒットの手柄は門倉有希にさらわれたが、その後の精進を加えて、この人は独自の歌世界を作っている。
港のリリー
作詞:下地亜記子セピア色の波止場町の夕暮れを背景に、鴎と泣き濡れる港のリリーの立ち姿が、目に見えるようだ。下地亜記子の詞、樋口義高の曲、馬飼野俊一の編曲という顔ぶれが、ミレイに似合いの歌を作った。地味だが息の長いヒットをいくつか続けて、ミレイの歌唱にはそれなりの自信が匂う。この人の魅力は物語を語る表現力だと、改めて合点した。
家族になろうよ
作詞:福山雅治率直で歯切れのよい独特の語り口を、福山雅治が聴かせる。相思相愛の若い二人が、父母みたいな、あるいは祖父母みたいな家庭を作っていこうと話し合っている内容だ。テレビのビールのCFなどで見るスケール大きな彼の世界とは対照的に極私的な目線の歌。2011年に作った曲とあるが、大騒ぎになった彼の結婚に合わせての再登場なのか!?