2016年1月のマンスリーニュース

2016年2月26日更新


演歌が元気ないい年に!

 私ごとだが、大阪で越年した。新歌舞伎座の川中美幸新春公演に参加してのこと。元日は西成・ジャンジャン横丁の「春」で同業の友人と飲む。どら声張り上げてカラオケ狂いが絶えぬ店だった。別の夜に、宿舎で今回の15曲を聞いた。風変わりな新人の拾いものがあり、中堅どころの挑戦があり、ベテラン作詞家の実感しみじみソングがあり・どや顔・をした作詞家の歌もありで、演歌がみんな元気だった。時代は剣呑な方向へ加速するが、いい年にせねばとしみじみ思った。

倖せさがし

倖せさがし

作詞:さいとう大三
作曲:幸耕平
唄:田川寿美
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 「ほほう」と思ったのは幸耕平の曲。音楽的な生まれや育ちから、リズム強調型の作品が多かったのが、今作は本格的演歌である。歌書きの意欲の表われか。
 「ほほう」のもう一つは田川寿美の歌唱。歌うよりは語るように、息づかいもまぜて抑えめに仕立てた。「抑える」のは「抜く」のとは違って、声の芯に情感を保つ。世の中万事こういうふうだから「重さ」よりは「軽さ」が求められている...というのが、彼女の読み。
デビュー25周年、いろいろ思い惑うタイプの人が、近ごろ到達した境地のようだ。

男のコップ酒

男のコップ酒

作詞:松井由利夫
作曲:岡千秋
唄:増位山太志郎
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 増位山も「ほほう」である。ムード歌謡の甘さや優しさを得意として来たのが、小節ころころ、ビブラートもそれらしく、演歌に挑戦の体だ。
岡千秋の曲の節割りが細かくなるあたり、声の出し方も操り方も変わる。サビなどはどうだ!とばかりに声を張った。自然、ムード歌謡の増位山が、歌の口調まで変わるところが面白い。
 亡くなった作詞家松井由利夫の遺作。幼なじみの男同志が、昔なじみの店でコップ酒...。ふっと苦渋の響きが聞こえたあたりが、新・増位山節か。

音信川

音信川

作詞:仁井谷俊也
作曲:四方章人
唄:永井裕子
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 日暮れ、山の端、月の影...と、歌い出しの1行分を、永井の歌はこざっぱりと出た。練れた声味でさりげない表現。歌の後半は声を張るが、余分な感情移入が少ないから歌がすっきりとし、景色が見えた。音信川は山口県長門湯本温泉に流れる川だそうな。

母きずな

母きずな

作詞:たきのえいじ
作曲:あらい玉英
唄:エドアルド
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 サンパウロの生まれと育ちだが、歌は日本人そのもの。高めの声のしならせ方、曲が求める表現の緩急、決めるところはちゃんと決める情の濃さなど、なかなかだ。僕も審査をしたNAK全国大会優勝から15年めの33歳、日本でバイト暮らしをした精進の成果か。

悠々と...

悠々と...

作詞:池田充男
作曲:船村徹
唄:鳥羽一郎
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 旅で人生終われたら、悔いはない。散骨すれば原生花園の花と咲く。もう一度生まれたら、やはり歌を抱き、北海道をさすらうだろう...。これは"北の詩人"池田充男の感慨そのものの歌。「うむ」と曲をつけたのは船村徹、鳥羽一郎は歌の終わりで空を仰いでいる。

女人荒野

女人荒野

作詞:喜多條忠
作曲:杉本眞人
唄:石川さゆり
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 「どうしてる?」と聞いたら「いいの書いたから聞いて」と喜多條忠が答えた。あれは弦哲也50周年のパーティーの席か。さっそく聴いて「なるほど」と思った。演歌の枠にはめない自由な詞と、杉本眞人の曲の組み合わせが生きて、石川さゆりが一芝居している。

夢見坂

夢見坂

作詞:仁井谷俊也
作曲:徳久広司
唄:北野まち子
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 「ひとり坂」「ふたり坂」「なさけ坂」「のぞみ坂」に「夢見坂」をかけた詞は仁井谷俊也。そんな女心のまわり道を徳久広司がオーソドックスな演歌にした。北野の歌も昔ながらの節回し、感情移入。もうベテランのキャリアだろうに、声味も節も崩れていない。

帰らんちゃよか

帰らんちゃよか

作詞:関島秀樹
作曲:関島秀樹
唄:島津亜矢
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 九州の父親が都会で暮らす娘を案じる長めの歌。島津が「紅白歌合戦」で歌って、ちょいとした聞きものにした。父の言い分がこまごまと具体的だから、身につまされた向きも多かったろう。島津の芸の幅を見直し、得心した向きも少なくなかったはずだ。

四万十川

四万十川

作詞:千葉幸雄
作曲:中村典正
唄:三山ひろし
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 ビタミンボイスがしわがれ気味に、少し太めに聞こえた。それが中村典正の骨太の曲に似合った。四万十川をネタに、ご当地もの望郷ソングかと思わせて、人生訓に収める千葉幸雄の詞は、前作『お岩木山』を踏襲している。これが三山の色になるのかも知れない。

竜虎伝

竜虎伝

作詞:仁井谷俊也
作曲:水森英夫
唄:和田青児
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 「男なら、男なら」と男心を鼓舞する5行詞3節、仁井谷俊也の詞、水森英夫の曲は、村田英雄に似合ったろうタイプだ。それを和田が、声を励まし、節を工夫して、太めの歌にした。歌の"ため"声の"ねばり"節の"はじけ方"は、師匠北島三郎譲りだろうか。

人生に乾杯

人生に乾杯

作詞:たかたかし
作曲:原譲二
唄:北島三郎
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 「桜咲くこの国に、生かされて励まされ...」と、熟年の男の感慨を詞にしたのはたかたかし。本人の実感が背後にあるタイプを、受け取った北島も似たような世代だから、共感の曲や歌にしたろう。二人とももはや、色恋ばかりが歌じゃないとでもいいたげだ。

ひとり北国

ひとり北国

作詞:吉幾三
作曲:吉幾三
唄:吉幾三
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 歌い出しをさらっと歌う。「おや?」と思わせておいて、歌詞の2行目後半「北へ北へ北へ」と重ねれば、おなじみのだみ声、パワフルな吉節だ。「そう来なくっちゃ!」と、客を乗せる手口か。何でもアリの彼、3曲入りCDの3曲め『うちのかみさん』も面白い。

ちぎれ雲

ちぎれ雲

作詞:原文彦
作曲:叶弦大
唄:竹川美子
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 愛弟子竹川美子の曲を、一手引受けだから叶弦大もいろいろ手を変える。今度は地方在住の作詞家原文彦を踏ん張らせて、3連もの2ハーフが課題。弟子は例によって幼な声、一途な思い入れで期待に応えようとする。そのさまが"いじらしさ"の色に出て、よかったね。

夜汽車

夜汽車

作詞:さわだすずこ
作曲:弦哲也
唄:山崎ていじ
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 男のUターンソング、地方移住が話題のご時世向きかも知れない。そこをさわだすずこの詞が、出迎える親父の顔や見送った女の涙を小道具に、歌をいろっぽくした。作曲は弦哲也、編曲は南郷達也、前奏、歌なか、後奏で汽笛が鳴って、山崎の歌も"その気"だ。

男の海峡

男の海峡

作詞:荒木とよひさ
作曲:弦哲也
唄:神野美伽
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 海で生まれて海しか知らぬ荒くれ漁師が、そばで眠る坊主を「どんな夢を見てるやら」と見守る歌。外は吹雪らしく、弦哲也の曲、伊戸のりおの編曲に野趣がある。ニューヨークへ遠征、演歌の心を問うた神野のロックスピリットが垣間見えて、ご同慶のいたりだ。

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