2016年2月のマンスリーニュース

2016年3月31日更新


たかたかし、未だ老境にあらず!?

 作詞家たかたかしが藤田まさと賞の功労賞を受賞した席(1月21日)、北島三郎の『人生に乾杯』を老境しみじみ...とほめたら「え、どれだったかな...」と目が泳いだ。そのくらい昨今は仕事が忙しいらしいのだが、今月の11曲中3曲が彼の作品で「なるほど」と合点した。80歳を大分過ぎたろうに、その繁盛ぶりはご同慶のいたり。奇をてらわず策を用いず...の彼流が重用される結果だろうが、何かと言えば「しぐれ」で片づけるのだけはいかがなものかと、苦言も一つ足したくなった。

女のあかり

女のあかり

作詞:水木れいじ
作曲:弦哲也
唄:天童よしみ
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 「おやっ?」と、大勢の人が思うはずだ。天童よしみの芸風までが変わって聴こえる一曲。それがこんなご時世や流行歌の流れの中で、とても好ましいものに思える。
この人の歌は沢山の聴き手に向かって、おおらかにのびのびと、歌い回す巧みさと活力が魅力だった。それが一転、相手が「沢山」から「あなた」になった。声を絞り情感をしならせての「個対個」心の奥底をのぞかせる手ざわりで歌う。弦哲也の泣き節メロディーを、「私なら今、こう歌う!」という天童の気概も聴こえる。"聴き歌"である。

かなしい女

かなしい女

作詞:田久保真見
作曲:徳久広司
唄:角川博
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 こちらは「ほほう」である。苦境を酒に頼ってなお、呑んでも呑んでも酔えない女の嘆き歌。角川が作品にうまく入って、語り口まで女口調で歌う。楽曲を一つ「歌う」というよりは、主人公の気持ちに「なってみせる」という境地。長く声に頼って、歌い回して来た人の、それなりのキャリアと進境が示された。
 曲は徳久広司の裏町流し歌タイプ。詞は田久保真見が、救いのない女心をつきつめる。サックスが前奏で鳴る編曲は前田俊明。揺れながら歌う角川が、歌い尻の かなしい女...をリットしながら、大芝居で収めた。

千曲川哀歌

千曲川哀歌

作詞:森田いづみ
作曲:水森英夫
唄:野村未奈
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 8行詞を2行ずつ、趣きを変えながら積み上げる森田いづみの詞、水森英夫の曲は、起承転結くっきりと、ドラマチックな大作の構成。それを力まずに野村未奈が「ふつう」に歌って暖かめな声味を生かした。三代目C・ローズという"くびき"を脱皮できそうに思える。

みれん心

みれん心

作詞:志賀大介
作曲:水森英夫
唄:氷川きよし
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 恋はひと夜で愛になる...と書いて、ニンマリしていそうな志賀大介の詞は女心ソング。それを股旅もの然とした曲に水森英夫が仕立て、氷川きよしは例によって突拍子もなく歌い回す。ファンが呼応する文句も用意されていて、これはやっぱり、他の追随を許すまい。

面白山の滝

面白山の滝

作詞:秋浩二
作曲:秋浩二
唄:岩本公水
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 フォーク・タッチに民謡調、おしまいはハスっぱな投げ節と、岩本公水の歌唱が頑張った。作詞、作曲が秋浩二。アンコの3行分も尺八こみのひなびた歌。一人で書かなきゃこんな歌は作れまい。玉石混交石だくさんの歌謡界だから、異色作づくりを多としよう。

命、燃えて

命、燃えて

作詞:たかたかし
作曲:弦哲也
唄:大石まどか
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 大石まどかの歌が、ゆっくりめ、情緒たっぷりめの作品を、かぼそげな色に仕上げた。歌うよりは語りが軸、歌手25周年記念の一作だ。伊豆を舞台にした湯の町もの。史上あまたある作品群に、たかたかし・弦哲也の挑戦。そのせいか、とてもオーソドックスである。

流れ雲

流れ雲

作詞:下地亜記子
作曲:原譲二
唄:北山たけし
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 長期劇場公演を卒業、時間が出来たらしい原譲二・北島三郎が婿どの北山たけしに歌のハードルを用意した。漂白の男心をきりっとそれらしい詩で呼応したのは下地亜記子。もっと大きく、空に向かって...の親心だろうが、北山の目線は平ら。この人の優しさだろう。

人生ごよみ

人生ごよみ

作詞:たかたかし
作曲:弦哲也
唄:川中美幸
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 6行詞の1行ずつで、川中の歌の表情が変わる。力まずにさりげなく、しかししっかりと、この人の歌う技術が動員されている。その「技」と「情」がいいバランスで、詞はたかたかし、曲は弦哲也。"しあわせ演歌"の元祖トリオが示した、その路線の発展形だろうか。

女・・みぞれ雨

女・・みぞれ雨

作詞:奥田龍司
作曲:原譲二
唄:原田悠里
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 自信のある"歌力"を一応おいといて、原田悠里が抑えめに仕立てた女心ソング。作曲は原譲二だが、この人の歌づくりはもう北島節ののれん分けの域を超えた。作詞は奥田龍司、不明にして聞き慣れぬ人だが、欲を言えば常套句揃いに1行、決めのフレーズが欲しい。

八尾しぐれ

八尾しぐれ

作詞:たかたかし
作曲:聖川湧
唄:瀬口侑希
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 おわら風の盆の、あの舞い姿が目に見えた。たかたかしの5行詞に、聖川湧が叙情的な曲をつけ、胡弓を使った若草恵の編曲が、そんな絵の額縁を作った。そう思わせる風情と詩情めいたものが、瀬口侑希の歌にあるのが何よりの収穫。タイトルだけが月並みだなぁ。

下北みれん

下北みれん

作詞:鈴木紀代
作曲:徳久広司
唄:長保有紀
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 あの独特の声味が、吐く息も含めてしぼり出す一味が歌の前半にある。いい気分になったところへ、おしまいの歌詞2行分で、長保有紀がもう一味、違う魅力をしぼり出した。歌が突いて来る。にじり寄る。演歌が万事抑えめばやりの中で、長保の踏ん張り方が小気味良い。

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