作曲家が重厚感を狙い始めた!
作曲家たちの意欲は、歌手にねっちり歌わせる方向へ傾いているようだ。弦哲也が中村美律子や島津悦子、岡千秋が岡ゆう子に、そんな高めのハードルを用意した。長い年月、覚え易く歌い易いカラオケ族用の発注を受けて、欲求不満が昂じてもいたろう。ポップス系の杉本眞人まで、桜井くみ子に演歌を書いて切ながらせている。
その対極のあそび心小粋ソングを、岡が神野美伽に書いたりして、彼らの流れを変えたい気持ちが、よく判る作品が並んだ。
2016年9月のマンスリーニュース
2016年11月3日更新作曲家が重厚感を狙い始めた!
作曲家たちの意欲は、歌手にねっちり歌わせる方向へ傾いているようだ。弦哲也が中村美律子や島津悦子、岡千秋が岡ゆう子に、そんな高めのハードルを用意した。長い年月、覚え易く歌い易いカラオケ族用の発注を受けて、欲求不満が昂じてもいたろう。ポップス系の杉本眞人まで、桜井くみ子に演歌を書いて切ながらせている。
その対極のあそび心小粋ソングを、岡が神野美伽に書いたりして、彼らの流れを変えたい気持ちが、よく判る作品が並んだ。
つづれ織り
作詞:久仁京介 歌1コーラスには何個所か、息継ぎの場所がある。フレーズ一つを歌い終え、息を吸って、次のフレーズに声をつなぐから、一瞬の空白が生まれる。肝要なのはここで声は途切れるが、歌のココロはしっかりと切れずにいること。歌巧者はその空白を逆に生かし、情感を次の歌詞の頭へ、昂りながら接続する。
中村美律子は、その間合いが上手だ。今作はテンポがゆっくりめだから、なお難しい。作曲の弦哲也は彼女の前作、歌謡浪曲『無法松の恋』を手掛け、彼女のツボを心得ていた。両者の呼吸の合い方、なかなかなものだ。
母を慕いて
作詞:荒木とよひさ 作詞家荒木とよひさは、ちょいとしたマザコンである。昔、彼の母親が亡くなった時にその実態をまざまざと目撃した。乞われて葬儀委員長を務めた僕も、人後に落ちぬマザコンだから、三木たかしともども弔問客の目もはばからず、大泣きしたものだ。
「本当は弱虫 本当は泣き虫...」と、荒木が告白まじりに母を慕う詞を書く。作曲が堀内孝雄、編曲が川村栄二と、ヒット曲多数の仲間が、その率直な詞を生かす。気心の知れたトリオの仕事を、情に流されぬ作品にしたのは、里見浩太朗の歌唱の節度か。
霧の川
作詞:仁井谷俊也W型のメロディーは、冒頭と中盤と締めくくりに高音を使って、訴求力が強い。弦哲也の今作は、それにプラスαの高音部を使って、破たんの気配がない。丘みどりの声の魅力がそこにあると熟考しての生かし方。デビュー11年と聞く彼女、妙にすがすがしい声味だ。
くれない紅葉
作詞:仁井谷俊也テンポ快適に、一気の・のり・で歌ったら、それなりに快い曲は岡千秋のお得意のタイプ。それをあえて一字一句、ていねいに岡ゆう子に歌わせた。はすっぱにも聞える彼女の声味を生かして、女ごころの一途さを前面に出す作戦、歌う方もベテランの技あれもこれもだ。
嫁入り舟
作詞:みやま清流母親が乗った嫁入り舟に、万感の思いで娘が乗る。舞台は紫あやめの水郷。花村菊江の『潮来花嫁さん』を思い出したら、相当にベテランの聴き手だろう。あれは昭和35年の作品。それを現代の・のり・で切なげに、桜井くみ子が歌った。杉本眞人は演歌も書くのか!
紅ひと夜
作詞:坂口照幸これもテンポゆっくりめで、作曲は弦哲也。もはやベテランの域の島津悦子に、これまたハードル高めの作品だ。歌手は力量を試されるし、カラオケ熟女には歌ってごらんよの挑発か? 島津は情感とペースの配分ほどよく、3番の歌い納めに達成感が聞える。
命の恋
作詞:石原信一歌い出しやサビの頭を、思いがけなく低音からしゃくるように出る。軽くはずみ加減の神野美伽の歌は、終盤の「風よ吹かずに」なんて歌詞を、ひょいひょいとまたしゃくった。昨今のロック乗り、真一文字の歌唱から一転、歌巧者のあそび心が小粋に聞える。
白雪草
作詞:下地亜記子やっぱりこの線が似合うよ...と考えてか、作曲徳久広司が増位山太志郎を、ムード歌謡に戻した。作詞の下地亜記子も、3番あたりそれらしく重ね言葉の2行を用意する。軽い"のり"でいいテンポで、増位山も気分よさそう。前作の小節演歌の体験が、少し加味されている。
哀愁酒場
作詞:藤原良「おやっ?」と思うくらいに、田川寿美の歌い出しは、弱々しくさえ聞こえた。張り歌が身上だった人が、25周年第2弾で選んだのは、万事抑えめな近ごろふう歌の語り方。内角へシュート、スピード落とした投球みたいだが、打者の手元にくい込めるかどうか。
みそか酒
作詞:さいとう大三水森英夫が地声から鍛え直した多岐川舞子に、今度は軽くいなして歌う曲を用意した。ひょいと吐息まじりの女のみそか酒。さいとう大三の歌詞は、1番がしあわせ演歌風味、2番で左利きの彼を思い出させ、3番で男は去ったままと絵解きする。味な作品である。