「そこそこ」で納まるなよ!
9月30日にやった「星野哲郎メモリアル・ゴルフコンペ」の前夜、酔った岡千秋が「バカをやらなきゃ、歌なんか書けやしねぇ」と力説、徳久広司が「当たり前でしょ」とでも言いたげにニコニコ。それはそうだと、僕はあいづちを打った。世間並みの常識に収まり切れない熱いものがあるから、人は歌を書き、歌で芸をやる。今月の歌10曲を聞いて、そんな夜を思い出した。不良がやる仕事なら不良らしく「そこそこ」の出来じゃない歌で、たまには世間を驚かしちゃどうだろう?
2016年10月のマンスリーニュース
2016年11月25日更新「そこそこ」で納まるなよ!
9月30日にやった「星野哲郎メモリアル・ゴルフコンペ」の前夜、酔った岡千秋が「バカをやらなきゃ、歌なんか書けやしねぇ」と力説、徳久広司が「当たり前でしょ」とでも言いたげにニコニコ。それはそうだと、僕はあいづちを打った。世間並みの常識に収まり切れない熱いものがあるから、人は歌を書き、歌で芸をやる。今月の歌10曲を聞いて、そんな夜を思い出した。不良がやる仕事なら不良らしく「そこそこ」の出来じゃない歌で、たまには世間を驚かしちゃどうだろう?
おんなの情歌
作詞:田久保真見 別れを予感する女主人公は、そんな夜に一番好きな紅を引く。抱いて欲しいと言えないから、男の肩を小さく噛んだりする。田久保真見の詞は、女性らしいこまやかな表現だ。
あらい玉英の、ゆるみたるみのない曲を、服部浩子が切なげに歌う。ビブラート大きめな歌い伸ばし、時おり歌でシナを作って、これが近ごろのこの人流か。
以前の彼女は、作品に何も足さず、何も引かずに、率直な歌唱が特徴だった。それがこういうふうに変わったことに、この人の歌って来た年月がしのばれる。
星の川
作詞:たきのえいじ 前作に続いての母恋いソング。たきのえいじの詞がそれにこだわるのは、エドアルドの生い立ちを素材にするせいだろう。ブラジル出身で、日本のカラオケ大会で認められたが、その後長くアルバイトで生活、デビューにこぎつけた経歴も、それに似合うか。
歌声は哀愁をたたえて、歌唱もしっかりしている。歌う目線がきちんと上を向き、感情におぼれていないから、妙にのびのびとした切なさが、作品を満たす。
こういう悲しみの表現は、もしかすると日本の歌い手たちには無いものかも知れない。
笑顔千両で春を待つ主人公が、その思いを人生論ふうに展開する詞は下地亜記子。岡千秋の曲と前田俊明の編曲が、それを景気よく弾ませて、浪曲テイストに仕立てた。各コーラス歌い収めの歌詞2行分にその妙があり、原田悠里の歌も、すっかり"その気"だ。
傘寿の80才、歌手生活55周年の北島三郎が、その感慨を重ねるように歌う。人との出会いと受けた恩義を思い返し、人生の"これまで"と"これから"がテーマ。10月5日、北島が開いた感謝の宴の閉会時にも流され、作詞した麻こよみは気分がよさそうだった。
信濃路をひとり旅する女性の傷心ソング。悠木圭子・鈴木淳コンビの、手慣れた歌づくりと言っていいか。入山アキ子の歌声は温かく、歌唱は律気。素人っぽい歌い出しの歌詞2行分がそうなのだが、元看護師さんと聞いて「そうか、そうか」と合点がいった。
十勝の春~ふるさとに春の雪~
作詞:円香乃高音から出る岡千秋の曲を、戸川よし乃がのうのうと歌う。『北国の春』を思わせるタイプの曲で、ほっこりとした聞き心地が残る。円香乃の詞と組んで、岡はこの人にあれこれ、手と品をかえの歌づくり。エンディングのセリフ「ただ今」「おかえり」には笑った。
北海おとこ船
作詞:たなかゆきを木原たけしは声味と節回しで聞かせる歌手。東北なまりが残るあたりが独特のスパイスになる。詞のたなかゆきを、曲の村沢良介のベテラン・コンビが、そんな木原に漁師歌を作った。のびのびと木原の声が立つあたり、ツボを心得た歌づくりと言えよう。
「泣いて笑って、笑って泣いて」を3コーラスのサビに使って、幸せ薄い女主人公が明日を夢みるおなじみソング。岡千秋の曲に、ここのところ量産気味の石原信一の詞だが、さて今後、人生の彫りの深さをどう描けるのか。北野まち子の歌は、高音部で艶を作った。
たそがれ本線
作詞:石原信一山本あきの可憐声が、各コーラス歌い収めでかすれ気味に情感を増す。これも石原信一の詞に、曲は聖川湧。夕陽に染まる紅い海と、わだちの音きしませる列車が道具立てだが、その割に「動き」が感じられない。歌書きにはもう少し、詞の芯に粘り腰が欲しい。