2017年3月のマンスリーニュース

2017年5月1日更新


春だ! 歌謡界にもそれなりの風

 4月、歌謡界も春を迎える。CD不況の市況だの、内容の旧態依然に溜息をつくよりは、思いがけない発見に目を向け、喜ぶことにしよう。そこまでハラをくくったか!と感じ入ったのは椎名佐千子の歌のはじけ方と、彼女を追いつめた岡千秋の曲の力技。氷川きよしのおとな路線は、彼の味わいを残したまま着々...だし、大川栄策の曲と歌の踏ん張り方もなかなかのもの。中村美律子の歌が、聞く側に寄り添ってくるのは、関西弁特有のやわらかさが生きて独特...と腑に落ちた。

はぐれ花

はぐれ花

作詞:麻こよみ
作曲:徳久広司
唄:市川由紀乃
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 波に乗っている歌手で、力量にも応分の自負を持つ。ここで一発!と、決め打ちの力作を行く野心が、あらわになってもいい時期だが、市川チームはそれを避けた。たっぷりめの語り歌志向で、歌唱は抑えめ。
 人の幸せ、ふしあわせは「ままにならないことばかり」とする麻こよみの詞に、演歌王道ふう徳久広司の曲。はぐれ花の女の哀しさを、泣かないで、嘆く気配にとどめた。
 そこそこ歌巧者の評価はあるが、声に頼り節を誇示することはない。語り口に独自の色を作るのが肝要...と先行きの可能性も残した。

忍ぶの乱れ

忍ぶの乱れ

作詞:高田ひろお
作曲:筑紫竜平
唄:大川栄策
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 歌い出し1行めの詞に「さくら紙」が出て来てドキッとする。高田ひろおの詞はそれを「口紅を拭った」ときれいに納めた。しかし...と古い世代の僕は、まだ気にする。なにしろ「喘ぎ泣く 喘ぎ泣く あゝあの世まで」と三番で結ぶ歌なのだから。
 筑紫竜平の筆名で、作曲して歌う大川栄策は、委細かまわぬメロディーと歌で、これを彼流の艶歌にした。得意の高音部を多用して張り歌にし、中、低音部を彼なりの語りで生かす。このベテラン歌手は、自分の売れ線のツボを十分に心得ていて、マイペースである。

男の絶唱

男の絶唱

作詞:原文彦
作曲:宮下健治
唄:氷川きよし
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 この間会ったら「40歳になりました」とニッコリした。演歌系アイドルをやりながら、おとな路線へ、作品で幅を広げつつあるのが頼もしい。今作もその一作で、原文彦の詞、宮下健治の曲がスケールを作った。声がしっかり前へ出るのが財産、小細工は無用だ。
※写真はAタイプのジャケットです。

かぼちゃの花

かぼちゃの花

作詞:喜多條忠
作曲:叶弦大
唄:中村美律子
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 素材の選び方、タイトルのつけ方が作詞喜多條忠のアイデア。いいところに目をつけ、ところどころの語尾に関西弁がチラリ。中村美律子の語り口は、関西弁のあたたかさと説得力と合点も行く。一番を聞き終わった間奏に、セリフが欲しくなるのはそのせいか。

ソーラン鴎唄

ソーラン鴎唄

作詞:仁井谷俊也
作曲:岡千秋
唄:椎名佐千子
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 歌詞4行めのおしまいを2小節分歌い伸ばしたのが、クライマックスへの間合い。次のヤーレンソーランで始まる4小節を、椎名佐千子の歌がめいっぱいの高音ではじけた。歌全体のインパクトが強く攻撃的。この人は岡千秋のこの曲でひとかわむける気がする。

飛鳥川

飛鳥川

作詞:仁井谷俊也
作曲:四方章人
唄:永井裕子
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 四方章人の曲が、典型的なW型。歌い出しを高音で出て、サビと歌い納めにまた高音が来る。1コーラスに3個所、聞かせどころが生まれるから作品のインパクトが強い。永井裕子は独特の声味に、キャリアなりの情も加えている。本人も達成感を持つ作品だろう。

母情歌

母情歌

作詞:志賀大介
作曲:岡千秋
唄:井上由美子
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 母への讃歌は流行歌のジャンルの一つ。大勢の作家と歌手が手がけて来た。今回はそれを志賀大介の詞と岡千秋の曲が狙った5行詞もの。それがたっぷりめに聞えるのは、きっちりした構成を井上由美子が歌い切ったせいだろう。地味だが力のある歌手だ。

女の錦秋

女の錦秋

作詞:峰崎林次郎
作曲:桧原さとし
唄:大石まどか
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 例によって峰崎林二郎の詞は硬質である。今作も東山の錦秋に女心を託して、一途に書き募る。歌謡曲に必須のゆるみたるみが乏しいのだ。眼で読むとそう感じる詞に、人肌の体温と高揚を加えたのは、桧原さとしの曲と大石まどかの歌唱。これも組合わせの妙か。

女の雪国

女の雪国

作詞:星野哲郎
作曲:桜田誠一
唄:小桜舞子
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 CD化にどういう行きがかりがあったのかは知らない。作詞の星野哲郎、作曲の桜田誠一は、とうに亡くなっている。しかしこの二人ならではの作品が、少しも古くなく小桜舞子の歌を生かす。裾をからげて帯にはさんで、叶わぬ恋を背負って歩くってか。

雪舞い桜

雪舞い桜

作詞:瀬戸内かおる
作曲:岸本健介
唄:夏木綾子
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 歌い出しの2行分が、演歌詞の要だが、歌唱にもそれがあると再確認した。鼻にかかり気味の夏木綾子の歌が、中、低音よく響いて情をにじませている。瀬戸内かおる作詞、岸本健介の曲とトリオで、ずいぶん長く挑戦を続けて来たが、それが実った進境だろう。

星の河

星の河

作詞:賀条たかし
作曲:長浜千寿
唄:大前あつみ&サザンクロス・田才靖子
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 亡くなった作曲家中川博之を思い出す、サザンクロスの名とムード歌謡の魅力。かつてネオン街の女心を歌うヒット曲が多かったが、今作は先立った妻を慕う男心を歌っている。ムード歌謡コーラスも、歌は世につれ...の変化を示す例なのだろうか?

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