2017年4月のマンスリーニュース

2017年5月31日更新


力作・聴かせ歌復活を喜ぶ

 陽春四月、わが意を得たり!の作品にやっと出会った。悲痛なくらいにドラマチックな「大作狙い」の4作。歌手生活30周年の香西かおりの『わすれ花』と、今や何でもアリの坂本冬美の『百夜行』それに島津悦子の『大菩薩峠』の3曲で、弦哲也が腕を振るう。もう1曲は木下結子の『マリーゴールドの恋』で、こちらは小田純平が〝その気〟になった。 覚え易く歌い易い歌づくりが長く続いて、類似作品多めの停滞ムードを、突破する意気込みが見える作品群。「聴かせ歌」の復活である。

わすれ花

わすれ花

作詞:喜多條忠
作曲:弦哲也
唄:香西かおり
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 〽ひとりになった淋しさは、たとえば冬の桜花...と、女主人公が孤独を見据え、やがて〽人は別れた時に、自分の本当の姿が見える...という境地にいたる詞は喜多條忠、9行詞2ハーフに呼応した弦哲也の曲、萩田光雄の編曲が、香西かおりのために三位一体だ。
 歌手には我慢が強いられるメロディー。穏やかに寂しげに、前半から中盤までをしっかり語って、結びの2行分を一気の昂揚で決める。情感の持続を試されてもいようか。
 節目の記念曲だから...の冒険。それに止めずこのタイプは、年に一発くらいこの人で聴きたい。

酒みれん

酒みれん

作詞:仁井谷俊也
作曲:叶弦大
唄:増位山太志郎
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 スポーツ選手の歌は、時にプロ歌手顔負けのいい響きを伝える。鍛えた体が〝ふいご〟状態になって、体中が共鳴する利点を持つようで、増位山太志郎もその代表的な一人だ。
 なかばなげやりなくらいに歌って、中、低音がそんな感じに響く。それにプラスして、鼻にかかる高音が艶を増すから、よくしたものだ。仁井谷俊也の5行詞と、叶弦大の歌わせ曲が作るのが、男の色気や甘さ。
 ムード歌謡仕立てで、間奏には女性コーラスがお供をする。こういう魅力はいつの時代にも、それ用の椅子が一つ用意されている。

夢千里

夢千里

作詞:仁井谷俊也
作曲:原譲二
唄:北島三郎
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 傘寿を過ぎればどんな歌手でも、歌声が枯れるのが自然。それでも一途に、我が道を行こうとするのが北島三郎だ。原譲二の筆名の曲も含めて、お手のものの男の生きざまソング。こういう曲を書き、こういうふうに歌いつのることが、彼の現役の証なのだろう。

百夜行

百夜行

作詞:荒木とよひさ
作曲:弦哲也
唄:坂本冬美
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 殺されたいくらいの女の煩悩を、荒木とよひさの詞がかき口説く。彼の心にも鬼がいるか!と思うくらいに、これでもか!これでもか!で、それに粘着力のある曲をつけたのが弦哲也。坂本冬美は得たりや応!と歌い切った。下品にならぬのがこの人の強みか。

みぞれ酒

みぞれ酒

作詞:田久保真見
作曲:岡千秋
唄:森昌子
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 こちらも女の煩悩ソングだが、田久保真見の詞は彼女らしくクール。岡千秋の曲ともども、森昌子に「どうしていいか、わからない」と歌わせている。いろいろあって現場復帰後、いろんな曲を歌って来た彼女も、こんな歌が似合う歳とキャリアになったということか。

大菩薩峠

大菩薩峠

作詞:志賀大介
作曲:弦哲也
唄:島津悦子
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 タイトルから時代劇を連想してはいけない。〽途(みち)ならぬ途もまた途、この途を選んだわたしです...、志賀大介の詞が冒頭から、重ね言葉の妙で言い切って、二人の恋は地獄...と、これまた煩悩切々の歌。島津悦子ももうベテランの域、こういう挑戦もいいね。

あなたと生きる

あなたと生きる

作詞:麻こよみ
作曲:水森英夫
唄:川中美幸
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 夫婦箸の相手は、去ったのか亡くなったのか。いずれにしろ一人になった女性の〝しあわせ演歌〟のその後が語られる。歌には入口と出口があるが、その間にはさまるのが技の手口。川中美幸は時に声を張り、時に声をいなす緻密さで、明るめに歌を仕立てた。

おんなの灯り

おんなの灯り

作詞:石原信一
作曲:岡千秋
唄:角川博
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 情事におんなの灯りをともすあれこれを、石原信一が書きつのる。岡千秋の曲とキャッチボールでもしながらの詞か...と思える頑張り方だ。その一途さを角川博の律儀な唱法がたどる。彼には珍しいタイプの作品が出来たが、果たしてこれが彼に似合いかどうか。

二十歳の祝い酒

二十歳の祝い酒

作詞:仁井谷俊也
作曲:徳久広司
唄:藤原浩
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 成人式を迎えた息子と、祝い酒を酌み交わす父親の歌。仁井谷俊也の詞は、這えば立て、立てば歩けの幼時までさかのぼり、彼女がいるなら連れて来いの昨今に辿りつく。ま、ひとひねりもふたひねりもした事になるが、少々父親の感傷に埋没しすぎの感がある。

マリーゴールドの恋

マリーゴールドの恋

作詞:高畠じゅん子
作曲:小田純平
唄:木下結子
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 古いシャンソンに、こういう絶唱型のいい作品がいくつかある。その線に狙い定めたのが詞の高畠じゅん子と曲の小田純平。編曲も矢田部正が担当した。いずれにしろ大作である。木下結子はいい作品と出会った。それに似合いの歌心も技術も、相当なものである。

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