2017年5月のマンスリーニュース

2017年6月22日更新


吉幾三の芝居が見たくなった

 吉幾三を2曲聞いた。神野美伽に書いた『石狩哀歌』と自分で歌う『ららばい』だ。この人の世界の芯にあるのは、東北生まれの口の重さで、それを曲と歌で押し返すから、独特の味と説得力を持つ。詞にあるのは、雪に埋もれた暮らしの中で、チロチロ燃える情念だろうか。それが今回の2作には、やや薄めに聞こえた。それよりも...と、彼の芝居がまた見たくなった。自作の筋書きをわざと壊して笑わせたりするが、それをやらないまでも、彼は傑出したコメディアンなのだから。

石狩哀歌

石狩哀歌

作詞:吉幾三
作曲:吉幾三
唄:神野美伽
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 『酔歌』や『ソーラン節』を、ロック乗りでガンガン歌うことがある。そんな神野美伽と吉幾三作品の新しい出会い。いきがかりに合点して、さぞや...の期待も生まれる。
 しかし、生のステージとCDの歌では、やはりこう変わるのだろう。例のガンガンは少し抑えめで、遠洋に出た男を待つ漁港の女のひとり酒。いつもの歌謡曲寄りの表現が中心になる。吉の詞と曲をスタスタ歌い、あんこのソーラン節ふうを歌い放って、ひとやまそれらしい開放感が出た。歌い納めにからむ「ああ、どっこい」の掛け声は、もしかすると吉か?

高山本線

高山本線

作詞:鈴木紀代
作曲:水森英夫
唄:池田輝郎
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 歌い出しの歌詞1行分あたりを聞いて「ン?」になる。池田輝郎の歌声の響きが、作曲者水森英夫に似ている気がしてのこと。中、低音がことにそうで、鼻の裏あたりへの、声の〝当て方〟がそうさせるのか?
 男の未練がつのる汽車もので、高山本線を富山まで、飛騨川奥の飛水峡をめぐる詞は鈴木紀代。池田の歌は小細工をせぬ民謡調、すっきり気分よさそうにメロディーを辿った。
 総体に声がきっちり前に出るから、それなりの情感がストレートに伝わる。各節の歌い納めがめいっぱい高音なのも、快い。

早鞆ノ瀬戸

早鞆ノ瀬戸

作詞:たきのえいじ
作曲:弦哲也
唄:水森かおり
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 今度はそう来るか!と、作曲者弦哲也の工夫にニヤリとする。水森かおりに息まじり、優しげな語り口をさせて、ひと色新しさを作った。長く続くシリーズの、決めどころと手の変え方。結果、傷心のひとり旅唄連作に、叙情歌めいた味わいがプラスされている。

おんな三味線ながれ節

おんな三味線ながれ節

作詞:新條カオル
作曲:西つよし
唄:竹村こずえ
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 舞台は津軽、恋を弔う女の三味線ながれ節と来て、仕上げはリズミカル。竹村こずえの歌声は、ドスを抑えてかやや細めで、これはこれで彼女なりの味。新條カオルの詞のアクの強さを、西つよしの曲が、いい感じにスマートにしたせいかも知れない。

東京陽炎

東京陽炎

作詞:城岡れい
作曲:杉本眞人
唄:岩出和也
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 線が細めの歌声で、コツコツ頑張って来たのが岩出和也。それが杉本眞人の曲を得て、歌に〝攻める〟気配が濃くなった。作曲家との組み合わせが生んだ効果だが、インパクトが強く、ラフな手ざわりが新鮮。これなら頭ひとつ、馬群を抜け出せるかも知れない。

夫婦花

夫婦花

作詞:いではく
作曲:花笠薫
唄:秋岡秀治
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 いではくが書いたのは、かっちり無駄のない5行詞。タイトル通りの〝しあわせ演歌〟だが、これを作曲の花笠薫が、道中ものみたいな曲にした。その異種交配に刺激されてか、秋岡秀治の歌に芝居っ気が生まれる。やくざっぽい口調が、彼の器用さを示している。

別れの朝に...

別れの朝に...

作詞:円香乃
作曲:田尾将実
唄:チャン・ウンスク
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 円香乃の詞が10行1コーラス。田尾将実の曲がそれをたっぷりめにまとめた。男の留守中に、二人で住んだ部屋を片づけ、思いやりを残す女心ソング。チャン・ウンスクはいつものセクシー路線を離れて、これも冒険のひとつか。少しもって回った歌になったが。

ららばい

ららばい

作詞:吉幾三
作曲:吉幾三
唄:吉幾三
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 いろいろあった男女のあれこれを、双方の身勝手と捉えて、前置きめいた歌詞2行ずつが3束。その後にお待たせしました...とばかり、詠嘆の吉節が2行分でとどめとする構成。詞、曲、編曲、歌と、吉幾三が4役もやって、この人、のうのうとマイペースだ。

しあわせのサンバ

しあわせのサンバ

作詞:仁井谷俊也
作曲:岡千秋
唄:岡ゆう子
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 ところどころでピーッと、ホイッスルが鳴る陽気なサンバ。春夏秋冬の見ものを並べて、笑顔で楽しく暮らそうヨという詞は仁井谷俊也で、曲は岡千秋。岡ゆう子も屈託なげに歌う洋風囃子ものだが、惜しむらくは、今、どうして?の奥行きが、詞にチラリと欲しかった。

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