2017年9月のマンスリーニュース

2017年11月1日更新


前田編曲作が5曲もあるか!

 相当に驚いた。大病を克服したばかりのアレンジャー前田俊明が、今月10曲のうち5曲も手がけている。たまたま発売時期が揃って...という例は、詞、曲、編の3者によくあるが、前田の場合は病後の一気!一気!だろう。それだけ制作陣の皆に待たれていたのだろうし、だからこそ本人も腕にヨリをかけたかも知れない。ムード派から勇壮もの、ドラマチック仕立てと、作品によって色あいも違う。作曲者たちとのコミュニケーションも、いつものペースに戻れて何よりだ。

波の花海岸

波の花海岸

作詞:麻こよみ
作曲:徳久広司
唄:服部浩子
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 女主人公は男を「譲れない」「失くせない」「離さない」と言う。それだけならよくある熱愛ものだが、麻こよみの詞はそこから一歩踏み込んだ。三番で「他の誰かをたとえ泣かせても」と来て、どうやらこの歌は略奪愛がテーマ。
怖いくらいの話の割に、徳久広司の曲は穏やかだ。歌い出しの歌詞3行分を、服部浩子に語らせておいて、お次は切迫のサビ?と思ったら、ここでまた1行分、歌を優しげにする。駆け落ちした二人を海岸に立たせて、情念の熱さよりは景色をすっきり見せることに比重をかけたということか。

アカシアの街で

アカシアの街で

作詞:仁井谷俊也
作曲:徳久広司
唄:北山たけし
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 北山たけしは、律儀で実直な好青年なのだ。どんな場面でも、分をわきまえた言動を示す。誰からも好感を持たれ、北島三郎家の婿どのとして、きっちり居場所を作っているのも、そんな人柄あってのことだろう。
 だから彼には、ムード歌謡が似合うと思っている。荒くれ男の勇ましい心意気ものは、得手ではなかろう。今作を聞いて僕は〝やっぱり...〟と合点した。一字一句、それも言葉の頭の発音をきっちり利かせて、歌の取り組み方が真剣、甘さに流れぬ節度と抑制が歌にある。結果、ムード派に青春ものの率直さを加えている。

望郷五木くずし

望郷五木くずし

作詞:喜多條忠
作曲:水森英夫
唄:花京院しのぶ
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 カラオケ熟女上級者用で、味つけは民謡調。花京院しのぶの歌づくりのコンセプトは、14年間変わらない。そんな曲を好む技巧派!?が絶えることはないせいで、実際彼女は『お父う』を定番曲に育てた。分に過ぎた高望みはせぬ苦節型。彼女流を貫くのが頼もしい。

雪散華~ゆきさんげ~

雪散華~ゆきさんげ~

作詞:冬弓ちひろ
作曲:徳久広司
唄:石原詢子
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 「一途な愛に翻弄される激しい女の情念」が売り文句、確かに冬弓ちひろの詞は、怖いようなフレーズを多用して激しい。しかし、徳久広司の曲はこれもきれいな情趣にまとめ、石原詢子の歌はこざっぱりした感触になった。メロ本位に仕立てたせいだろう。

佐原雨情

佐原雨情

作詞:麻こよみ
作曲:岡千秋
唄:原田悠里
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 歌い出しの「雨のしずくに...」の「雨」からもう、原田悠里の歌が艶っぽい。ふっと息づかいまで人肌の手触りで、中音のひびきが快いのだ。昔、クラシックを学んだ人が、サビまで張らずに情感本位。岡千秋の曲もほどが良いが、歌い手ってこんなに変われるんだねぇ。

流氷の宿

流氷の宿

作詞:岡田冨美子
作曲:弦哲也
唄:大月みやこ
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 岡田冨美子が演歌を書いた。歌い出しに「赤い」を3度も重ねたのは、彼女のこだわりか作曲弦哲也の都合か。いずれにしろ思いがけない趣向が生きる。大月みやこは流れに添い、5行めのいいメロディーをのうのうと歌う個所で地力を示し、最後の高音部で決めた。

知床岬

知床岬

作詞:悠木圭子
作曲:鈴木淳
唄:入山アキ子
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 夫唱婦随か婦唱夫随か、作詞悠木圭子・作曲鈴木淳夫妻は、このコンビ流の歌づくりを楽しんでいる気配だ。世相がどうの、歌の流れがどうのに惑わされることなし、揺れながらゆったり...のお二人ふう歌謡曲。懐かしい快さで、昭和を振り返る心地がした。

道ひとすじ

道ひとすじ

作詞:仁井谷俊也
作曲:四方章人
唄:
福田こうへい
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 「声」と「節」と「気合い」が身上の福田こうへいが、こういう作品も歌い放ってしまう。仁井谷俊也の詞が、男の生きざまをあの手この手なのを、四方章人の曲本位に歌って気分のいい風みたい。訛り不要の歌詞を訛って歌っちまうのも、この人ならではか。

京都二寧坂

京都二寧坂

作詞:松井由利夫
作曲:叶弦大
唄:中村美律子
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 増位山太志郎がカップリング曲にしたのを中村美律子の歌で仕立て直した。いい作品を生かしたいプロデューサーのこだわりか。松井由利夫の遺作に曲は叶弦大。3コーラスで京都の風物を3枚の絵にして、美律子の小節こきざみ、歌の差す手引く手も生きた。

東京こぼれ花

東京こぼれ花

作詞:かず翼
作曲:弦哲也
唄:ハン・ジナ
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 「◯◯こぼれ花」は、昔からよくあったネオン街哀歌。いじらしい女主人公と相場が決まっていたが、かず翼の詞と弦哲也の曲が、それを引っくり返した。主人公の嘆きが、なんともパワフルでおおらか、ハン・ジナがエキゾチック風味にまでした。時代は変わるのだな。

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