2017年12月のマンスリーニュース

2018年1月22日更新


大きいことは良いことだ!

 「初荷」の11曲、聴き応え十分だ
 1月発売、いわば〝初荷〟の作品群で、各曲聴き応え十分なことが、ことさらに嬉しい。どんな時代になろうが、歌の流れがどう変わろうが、大切なのは聴き応えだと確認したい。
 仁井谷俊也の詞が3作品。福田こうへい、小桜舞子、島津悦子が歌っているが、ことに島津の『海峡みなと』に彼なりの工夫と仕上がりが生きる。手当たり次第みたいに量産した彼はこれから先が円熟期だったろう。働き盛りの69歳で逝ったことが、今更ながら惜しまれてならない。

おんなの岬♡

おんなの岬♡

作詞:志賀大介
作曲:伊藤雪彦
唄:三代沙也可
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 作詞志賀大介、作曲伊藤雪彦のベテランコンビはこのところ、湘南を舞台にした歌づくりにこだわっている。江ノ島だの逗子だのがかわりばんこで、葉山居住の僕は次はどこ?の気分。それが今度は真鶴―。
 海、船、茜雲などをあしらった女の哀歌。三代沙也可はそれを、歌の頭から泣き節で始める。そこが勝負どころと、伊藤の指示もあったろう、古いタッチの感情表現が、いかにもいかにも...だが、3番になるとそれも程よく今風になるのが面白い。伊藤からはまた、愛弟子の新曲をよろしく...のチラシが届くか。

千島桜

千島桜

作詞:高橋直人
作曲:斎藤覚
唄:鳥羽一郎
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 千島桜に託して、爺々岳の国後への郷愁が歌われる。作詞は高橋直人、作曲は斎藤覚で、作曲家協会が募集したソングコンテストのグランプリ受賞曲だ。
 鳥羽一郎は昔、サハリン墓参の船に乗った師匠船村徹を、稚内で待った体験がある。旧日本領がロシア領に変わった悲劇を目の当たりにしているから、それなりの思い入れもあろう。スケール大きめな作品を、部分的に押しつぶし加減の声で男っぽく歌って説得力を持たせた。北方領土について日ロ間に動きがある時期、作品に祈りの気概を聞いた。

おとこ傘

おとこ傘

作詞:仁井谷俊也
作曲:四方章人
唄:福田こうへい
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 歌い出し高音で出て、サビと歌い納めにヤマ場が来る。四方章人の典型的なW型メロディーで、訴求力が強い。仁井谷俊也の詞も情感すっきり、福田こうへいがのびのび、いい味で歌った。三橋美智也を思わせてそれよりも若々しい。ア行の発声にハレがあるせいか。

松前半島

松前半島

作詞:円香乃
作曲:岡千秋
唄:戸川よし乃
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 2ハーフとメロディーの枠組みはポップス系だが、岡千秋の曲はちゃんと演歌になっている。戸川よし乃のために書く曲ごとに、少し高めのハードルを用意する算段。戸川は細めの声をしならせて、大きめのメロディーを乗り越えた。それなりの進境が聞こえる。

会津追分

会津追分

作詞:麻こよみ
作曲:水森英夫
唄:森山愛子
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 〽死ぬよりつらい...という歌い出しの歌詞と曲を、森山愛子はゆすぶって歌いはじめる。そのまま行くと泣き歌になるが、作品の情感を大づかみに、たっぷりめにこなして良い。張りつめた高音に一途さがにじみ、歌のところどころに本人の気合いも聞こえた。

よされ三味線

よされ三味線

作詞:仁井谷俊也
作曲:岡千秋
唄:小桜舞子
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 こちらも勝負は歌い出し...と、作曲岡千秋の算段に、小桜舞子がうまく応えた。いたいけなキャラや、薄めの声を委細かまわず曲があおるから、5行詞まん中あたり、めいっぱいの歌になる。結果生まれるのは歌の主人公のいじらしさ。これも仁井谷の詞だ。

千年の恋歌

千年の恋歌

作詞:田久保真見
作曲:徳久広司
唄:神野美伽

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 ギター一本の歌い出しから、後半、俄然盛り上がるオーケストラの編曲は蔦将包。荒木とよひさ・弦哲也のシンプルなワルツを劇的に仕立てた。4行詞の2行を片カナ表記、残る2行を平仮名という心の変化を、神野美伽がしっかり歌い分けて、絶妙である。

海峡みなと

海峡みなと

作詞:仁井谷俊也
作曲:徳久広司
唄:島津悦子
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 3コーラスともに、歌い出しの歌詞2行で、行き暮れた男と女のたたずまいを見せる。仁井谷俊也のいい詞に、序破急きっちりと徳久広司の曲。島津悦子がちょこっと日本調の粋も交えて、彼女なりの力唱。まるでいい絵を見せるような、風情を作った。

海猫挽歌

海猫挽歌

作詞:荒木とよひさ
作曲:浜圭介
唄:永井裕子
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 長く親身につき合った永井裕子が、別人か?と思わせる歌唱を聞かせる。作品に染まり、その情趣に入って、歌の口調まで変わった。そうさせたのは荒木とよひさの詞と浜圭介の曲。歌手は作品との出会いで進化するものだが、永井はひとつ大きなハードルを越えた。

おぼえていますか

おぼえていますか

作詞:麻こよみ
作曲:大谷明裕
唄:小金沢昇司
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 歌い出しの歌詞2行分が、ムード歌謡みたいに軽い。それが3、4行めで真芯に当たる昂り方を示したのは小金沢昇司の歌唱。そのあとの「泣かせて、泣かせて」が優しげにホロッとさせて、この人の歌巧者ぶりが際立つ。大谷明裕の曲のよさが、その背を押した。

雪の絶唱

雪の絶唱

作詞:いとう彩
作曲:岡千秋
唄:岩本公水
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 歌が哀訴から始まる。「助けて下さい、助けて下さい」と、岩本公水が語りかけ、訴えるのだ。よくやるよ!と、作曲した岡千秋に言いたくなる。このところの彼の、手を変え品を変えの一曲。そのうえサビは、岩本の歌を高音で叫ばせている。彼女もよくやった。

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