女性像がしゃっきりして来たぞ
よく出来た大江裕の歌以外は、全部女性歌手のものの今月。その5曲だけをサンプルに感想を書くのも面映ゆいが、どうやら歌の主人公たちはみんな、泣いたり嘆いたりばかりではなくなっている。つらい境遇に居ることは、従来のものと変わらないが、主人公の目線が前向きで、顔をあげる気配がある。
殺伐としたことばかりの世相や、妙にばたつきながらキナ臭い政情にうんざりして、流行歌の中の女性たちは、そういうふうに自分を取り戻し、歩き出すのかもしれない。
2018年3月のマンスリーニュース
2018年4月27日更新女性像がしゃっきりして来たぞ
よく出来た大江裕の歌以外は、全部女性歌手のものの今月。その5曲だけをサンプルに感想を書くのも面映ゆいが、どうやら歌の主人公たちはみんな、泣いたり嘆いたりばかりではなくなっている。つらい境遇に居ることは、従来のものと変わらないが、主人公の目線が前向きで、顔をあげる気配がある。
殺伐としたことばかりの世相や、妙にばたつきながらキナ臭い政情にうんざりして、流行歌の中の女性たちは、そういうふうに自分を取り戻し、歩き出すのかもしれない。
水に咲く花・支笏湖へ
作詞:伊藤薫 芝居で言えば〝間(ま)〟に当たるかも知れない。歌い出しの歌詞2行分、水森の歌は途切れ途切れだ。例えば〽水の中にも花が咲く...を「水の」で切り「中にも」で切って「花が咲く」へつなぐ。歌の間を生かすのは、楽器の追いかけという、作曲弦哲也の新しい試み。
それが揺れる女心の序章になって、中盤以降は歌声も情感も一気に盛り上がる。伊藤薫の詞も絵はがき調名物揃えを避けていて、1コーラス6行詞が、悲痛なまでにドラマチックな作品に仕上がった。水森はこの作品で、ご当地ソングの女王の域を、またひとつ超えるだろう。
大樹のように
作詞:伊藤美和 師匠の北島三郎は、大江裕をこういう歌手に育てたいのだと、その愛情に合点が行った。伊藤美和の人生訓調に、原譲二の筆名で曲をつけて、歌の中身は北島お得意の世界。
それを大江が、北島節に染まりながら、いささか違う彼流の歌に歌いおわした。〽天に向かって真っ直ぐに...というフレーズが、北島の期待と、本人の心意気に聞こえる。
大江の歌の良さは、言葉がひとつひとつ明瞭で、表現がよどみなく素直で温かいこと。あのキャラだけが売りの歌手では決してないことを、立証できた気がする。
道
作詞:久仁京介「道に迷って、道を知る」と、久仁京介の詞は男の生きざまを語り、岡千秋がゆったりめの曲をつけた。島津の歌は、背筋がすっきりと伸び、厚みがあって柔らかい。そのくせ歌う目線はひたと、聞く側を捉えている。とかく気合が入り過ぎ、押しつけがましくなるタイプの作品を、そう歌い切れたのは、彼女のキャリアなりの熟し方だろう。
有明月夜
作詞:森田いづみ各コーラスの終盤にある「ああ有明月夜」というフレーズが、この歌のヘソかも知れない。そこまでは失意の恋をしっかり語り続けた水森英夫の曲が、ここでふっと明るめに気分を変えるのだ。その効果が、女主人公の視線を上向きにし、実らぬ恋の先行きをじめつかせない。嘆きながらも、心迷わせまいとする決意をにおわせる妙があった。
冬酒場
作詞:石原信一「そりゃあね、誰だって、幸せになりたいよ」と、石原信一の詞の歌い出し2行分が話し言葉。落ち込んでいる男を女が慰めるのだが、徳久広司の曲も、その2行分でちゃんと勝負をつけた。あとは、どこかのひなびた冬酒場、似た者同士が向き合う光景が眼に浮かぶ。北野の歌も明るくたっぷりめで、泣き節演歌とは一味違う風情が作れている。