2色のふるさとソングを聴く
流行歌に叙情的おおらかさを持ち込む材料の一つは〝ふるさともの〟だろう。四季を語れるし人生を語れるうえ、歌い手の出自と重ね合わせる手も使える。
今月、そんなスケールを聞かせたのは、大月みやこ、真木柚布子、石原詢子ら。逆にあっけらかんと楽しげに、ふるさとを歌ってみせたのは山川豊で、作曲家徳久広司の逆目を狙ったアイデアか。
初夏の周年企画、チマチマした恋愛沙汰ソングに、作り手が一段落したい気分も判る気がする。
2018年4月のマンスリーニュース
2018年5月29日更新2色のふるさとソングを聴く
流行歌に叙情的おおらかさを持ち込む材料の一つは〝ふるさともの〟だろう。四季を語れるし人生を語れるうえ、歌い手の出自と重ね合わせる手も使える。
今月、そんなスケールを聞かせたのは、大月みやこ、真木柚布子、石原詢子ら。逆にあっけらかんと楽しげに、ふるさとを歌ってみせたのは山川豊で、作曲家徳久広司の逆目を狙ったアイデアか。
初夏の周年企画、チマチマした恋愛沙汰ソングに、作り手が一段落したい気分も判る気がする。
母なる海よ
作詞:オオガタミヅオ/補作詞:星一空 そうか、大月みやこ55周年の〝やる気〟がこの作品になったのか...と合点した。タイトルから歴然の叙情歌、ポップス系の3コーラスで、スケールが大きい。
それを力まず優しい口調で、語りかけるように歌うあたりが年の功。コンサートではシャンソンもポップスも歌う人だから、驚きはしないが、ちゃんと大月節にしているあたりに自信のほどがうかがえる。
作詞作曲したオオガタミヅオは、海外活動も多いユニット〝HARU〟のボーカルとか。世界の中の日本を俯瞰する視線を感じた。
津軽おとこ節
作詞:原譲二 そうか、北島三郎は彼の身上の世界を、後輩に託したいのだなと合点がいった。北山用もメリハリきっちりの男唄で詞も曲も原譲二。
北島のレパートリーには、胸を張って生きる男の覇気と凄みがあった。北海道から上京、敗戦から復活、復興する日本の、あの時代の生きざまを負っていた。北山たけしの歌は、北島節に較べると語尾に優しさがにじむ。北島は大江裕にも『大樹のように』を書いているが、こちらも一途だが優しさがあった。
時代の流れの中で、男の気概も変わる。青春期の体験の差異かも知れない。
美唄の風
作詞:下地亜記子 おや、どこかで聞いたような...という気がした。好評により旧作の再録と判る。亡くなった下地亜記子が残していった詞、作曲は弦哲也。美唄を舞台にしたふるさと讃歌の2ハーフだ。
昨年、この人の歌芝居を見た。演技もなかなか、幅が広い芸達者。こういうスケール大きめの曲もフィナーレには似合うし、歌いたいのだろう。
春よ来い
作詞:石原信一 ジャケット写真が笑顔。歌う声にもほほえみが感じられる。メジャーの明るめの曲(幸耕平)に、惚れっぽい女がいい人との出会いを待つ詞(石原信一)と、ネタがそういう方向で揃って〝その気〟になったか?
デビュー27年、哀愁ソングばかりが得手ではないと言いたげな歌唱だが、やはりどこかにこの人らしい哀愁は残った。
遥かな道
石原詢子版の〝マイウェイ・ソング〟に聞こえる。ひたむきに生きて来た女性の感慨を描いた詞は冬弓ちひろ。これまでの石原にはなかったタイプを、作曲の岡千秋は彼によくあるメロディーを書いて、その取り合わせが面白い。デビュー30周年記念のシングル第2弾。前作では演技派ふう振りも見せたが、こういう作品も歌いたいのだろう。
今日という日に感謝して
作詞:麻こよみ イントロに女声コーラス、徳久広司の曲、前田俊明の編曲ともに、ブンチャブンチャ...とひどく軽快だ。
今どき珍しいタイプの作品、懐かしがるファンも居ようと、隙間ねらいの企画性が読みとれるが、山川豊も気分よさそうに、それに乗った。麻こよみの詞は三重・鳥羽あたりを舞台にした気配で、これもふるさとものだ。
天竜流し
作詞:万城たかし 万城たかしの5行詞に、四方章人の曲が典型的なW型。頭とまん中とおしまいに高音を使って、福田こうへいの活力を生かす。
低音部で対比を作るよりも、全体に高音を多用していて、民謡派の福田はのびのび、のどかな筏流しを表現した。余分な思い入れや感情移入のない人だから、聞いているこちらも、文句なしにスカッとした。