2018年7月のマンスリーニュース

2018年8月31日更新


俊ちゃんと丸さんにエールを!

 アメリカのメジャーリーグには「故障者リスト入り」という制度がある。一時戦線を離脱、選手たちは捲土重来を期すのだ。歌謡界にもそういう戦士が居て、例えばアレンジャーの前田俊明やベテランの丸山雅仁。
 彼らが編曲した歌が、流れない日などない売れっ子。大勢のスター歌手をサポートして来て、長い年月の疲れも出ていよう。前田は「俊ちゃん」丸山は「丸さん」と呼んで、僕には彼らと長いつきあいがある。一日も早い体調回復と歌社会復帰を祈っている。

みれん岬

みれん岬

作詞:原譲二
作曲:原譲二
唄:松原のぶえ
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 歌手生活も40周年になった。記念曲を師匠の北島三郎が書く。松原のぶえは高校時代に大分から上京して北島の門を叩いている。以来いろいろなことがあったが、双方に応分の感慨があろう。
 定石通りの女心ソング。プロデュースもした北島は、力ませず奇もてらわせずに、のぶえの力量を生かす算段。原譲二の筆名で作詞もしており、2番の「愚痴も言わずに こぼさずに 捨てて来たのに それなのに...」という重ね言葉の妙に、情が濃いめになる。のぶえの歌もしっかり、その情をにじませた。
久しぶりの師弟合作"作品同様"ちょっといい話になりそうだ。

哀愁子守唄

哀愁子守唄

作詞:星つかさ
作曲:星つかさ
唄:和田青児
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 こちらも北島ファミリーの出身。長く付き人をやり、北島の薫陶を受けてプロになった。来る者はこばまず、去る者は追わず...の、往年の北島が作った、広い人脈の一人だ。
 星つかさの筆名で、和田青児の自作自演である。彼はこういう曲が歌いたいのだ...と、すぐに判るタイプの作品。特段の新しさはないが、和田は根っからの演歌人間なのだろう。歌詞の1番が望郷、2番が別れた人への未練、3番がさすらいの現況と、テーマを据えた5行詞もの。和田の歌唱の押し引きには、どこかにやはり北島似のにおいがある。

夫婦かたぎ

夫婦かたぎ

作詞:浅沼肇
作曲:黒川たけし
唄:福田こうへい
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 ヒット中の『天竜流し』のカップリング作品。福田らしさがある夫婦ソングだから、こちらも教材に...ということになったのか。
 この人の歌唱については、毎度同じことを書いて恐縮だが、元来声と節を聞かせるタイプ。感情移入の小細工なしなのが、かえってすがすがしい。「イ音」の唇の形が時おり「エ音」に変わる。東北訛りの妙か。
(※2018年4月25日発売『天竜流し』のカップリング曲です)

鬼灯(ほおずき)

鬼灯(ほおずき)

作詞:城岡れい
作曲:徳久広司
唄:上杉香緒里
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 女声のコーラスがからむメジャーのワルツ曲。会えない飲んべえの彼への思いを「鬼灯」に託す女心ソングだ。上杉香緒里は歌手生活23年め。歌の奥行きや技のあれこれも体得したろうが、ひとまずそれは置いておいて、歌を素直に穏やかに仕立てた。そう言えば僕は、彼女のデビュー時の記念品「現代実用辞典」を23年間ずっと愛用している。

おはじき

おはじき

作詞:髙畠じゅん子
作曲:杉本眞人
唄:木下結子
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 いとしい男に「おはじき」みたいにはじき飛ばされた女というオハナシは、作詞家高畠じゅん子の味な思いつき。それに杉本眞人が、いかにも彼らしいメロディーをつけた。矢田部正のアレンジが、近ごろ珍しいタイプで派手め。それに木下結子の歌が気分よさそうに乗った。女の恨みごとソングなのだが、まるでじめつかないのが面白い。

能登はやさしや

能登はやさしや

作詞:椿れい
作曲:梶原茂人
唄:川中美幸
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 歴史と風土、自然と人間、父や母...縁の糸につむがれる日々の営みを、おおらかに歌った能登讃歌。作詞、作曲者は見慣れない名前だが、熟成の無名人か。そんな叙情歌を川中美幸がスケール大きめに歌う。"しあわせ演歌"の元祖だが、こんな時代のこんな歌の流れだから、今や何でもアリの境地。だから意気込みをあらわになどしていない。

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