新歩道橋

2015年10月3日更新


新歩道橋925回

 有近真澄はなかなかに味なボーカリストである。ロックをシャウトするかと思えばシャンソンはドラマチックに情も濃いめ。ピアノとギター、ベースに打楽器あれこれのミュージシャン4人と、合わせる呼吸もいい感じで、バンド名はエロヒム。9月16日の夜、渋谷のGee―Geというライブハウスで、僕は彼のス・・・

新歩道橋924回

 「ねぇ、頼むから〝特別出演〟って肩書きははずしてよ。ただ単に、年寄りなだけじゃない。切ないよ、そんなの...」  顔合わせの日に僕は、主宰者の田村武也にそう頼んだ。集まった役者やミュージシャンたちが、こちらが気おくれするほどみんな若いのだ。田村は作曲家弦哲也の愛息。声がかかったのは彼が・・・

新歩道橋923回

 「困ったときは弦哲也」という業界フレーズがある。この作曲家を頼るのがヒット曲を生む近道と、制作者の多くが考えるせい。弦の大きな実績が物を言っている。それが僕の場合は、  「困った時は新田晃也」  になる。無名だが歌手歴50年で記念曲「母のサクラ」を出している男。どんな曲でも歌いこなす歌・・・

新歩道橋922回

 「備中高梁」と書いて「びっちゅうたかはし」と読む。新幹線の岡山から伯備線の特急〝やくも〟に乗り替えて、ほぼ40分で着く城下町の駅名だ。雲海に浮かぶ天空の城として知られる備中松山城は町の北方、標高430メートルの臥牛山に建つ国の重要文化財。それを含めてぐるり四方を山で囲まれてい・・・

新歩道橋921回

 逗子の行きつけのイタリアン・レストラン。女主人がこちらに向けて、そっと両手を合わせている。グループ客の若い娘の行儀の悪さを気にしているのだ。そう言えばさっきから、面白くもないジョークに「ガハハハ...」とバカ笑い。出て来る料理に「おいしい!」を連発、同席の誰かの冗談に、手を叩いて反応す・・・

新歩道橋920回

 「流行歌評判屋とやらと舞台役者と、近ごろのあんたは、どっちが本業なの?」  と聞かれることが多い。僕は迷うことなく「役者!」と答えて、相手を呆れさせる。そのうえ何と、最近もう一つの職種!? が増えた。  「驚くなよ、とうとう演歌歌手になった。CDを出すんだ!」  と打ち明けると、相手は・・・

新歩道橋919回

 《重い!》  一冊の本を手にして、失礼だがまず目方を感じた。長田暁二さんの新著「戦争が遺した歌」(全音楽譜出版社刊)で本文が781ページ、厚さ5センチもある大作である。明治維新から日清、日露戦争、第一次世界大戦、日支事変、太平洋戦争と戦後にいたる折り折りに歌われた軍歌、軍国歌謡が253・・・

新歩道橋918回

 歌謡ショーの一番の魅力は、結局主演者の「人間性」だと合点した。真情あふれる主人公が中心にいて、共演者がそれに共鳴する。それぞれが一流の芸の持ち主だったら、観客の反応も自然に情が濃くなる。そんな舞台を僕は6月27日昼、明治座の「音楽生活50周年記念・作曲家弦哲也の世界~我、未だ旅の途中」・・・

新歩道橋917回

 「東京大衆歌謡楽団」というグループ名にまず引っ掛かった。公式デビューが「昭和九〇年六月一七日」というのも曰くありげだ。同名のアルバムの副題が「街角の心」で、収められているのが「東京ラプソディ」「一杯のコーヒーから」「緑の地平線」「誰か故郷を想わざる」と来るから、  《何を考えてんだ、一・・・

新歩道橋916回

 ラトビア、バルト3国の一つ、ソ連から独立して「百万本のバラ」を生んだ国...と、その程度のことは思い浮かぶ。それに歌手加藤登紀子の笑顔がダブるが、世界地図の中でここ! と、明確に指させる自信はない。そんな国で生まれたこの歌を、加藤は彼女の50周年記念コンサートのテーマに据えた。6月14・・・