ファン会報にもいろんなものが見える!

2021年11月3日更新


殻を打ち破れ236回

 
 井上由美子はコロナ対応のワクチン「モデルナ」の2回目の接種を受けた。副反応が強いと聞いたので、OS-1や頭痛薬を用意したのが8月10日。12日にチクッとやったが、翌日ドカンと来た。体中が痛い、頭が割れそう、体温はみるみるうちに39.2度。しかし一夜あけた14日、眼をさましたら体温は36.7度に下がり、体も頭も前日とは大違いで軽い。業界屈指の小柄のせいか、頭痛薬は小児用

バファリンで間に合った。あとはもう「沢山の抗体が出来ること」を祈るばかり――。

 井上はそんな顚末をファンクラブ会報で報告している。それも接種に向かう車中の緊張の面持ちから、薬の錠剤、飲料水の容器、ごていねいに発熱した時や平熱に戻った時の体温計などの写真つき。高熱は赤く、平熱は緑と、体温計の色までクッキリだ。

 この人の会報は毎回、なかなかに面白い。仕事場のスケッチや共演歌手との記念写真を手始めに、たべた果物、スカイツリーにびっくりした1ショット、壊れて片方だけ耳にかけていた眼鏡、ここしばらく使っていなかったタブレットの解約金が5万円…と、身辺雑事のあれこれが写真つき。「うちのオバチャン」なる人物が、らくらくフォンからふつうのスマホに取り替えて難渋しているレポートもある。

 好評発売中!の『オロロン海道』をPRして「歌えるってしあわせ」なんて、表向き商売用アピールは、ちゃんと表紙の1面にある。脱線まがいがほほえましいエピソードは2、3面の見開きで、これが彼女“らしさ”満載だ。魅力は本音っぽさ。

かなり前に見たコンサートで、

「お金がほしい、お金が要るんです、でないと事務所がつぶれそう!」

 と、所属プロダクションの窮状まで、ネタにしたのに大笑いしたことがある。そのコンサートの幕開きが、近所の商店街から自転車で舞台へ飛び出す演出で、これも井上のアイデア。開演前にはファンのおじさんおばさんが、同じ舞台上でカラオケを楽しんでいた。何だかあの時出会ったおじさんやおばさんと、同じ気分で彼女の会報を眺めている。毎月送られて来るところを見ると、事務所も何とか持ち応えているのだろう。

 作詞家の荒木とよひさが「俺より上」と、文章のユニークさをほめていたのが、離婚した神野美伽。彼女のファンクラブ会報も毎月届くが

 ≪そう言われれば、確かにそうだ…≫

 と、別れたダンナの発言に僕は合点する。短めのエッセイが毎回、社会の動きに反応したり、人情の機微に触れたり、身辺の事柄への感慨を語ったりして、なかなかに「深い」筆致なのだ。もうベテランの域に達した神野の、芸事に対する熱いまなざしや、人としての熟し方が、平易な文章で率直に語られて、何とも得難いのだ。

 熱い!と言えば、山内惠介の会報も相当に熱い。といっても山内本人の発信ぶりではなく、彼の所属事務所の三井健生会長の熱弁。会報そのものを飾るのは、山内の舞台写真が表紙から7ページ分もカラフルなグラビアふう。彼の美男ぶりの強調に、胸を熱くしるファン用だ。その後ろの1ページ分が三井会長の出番となる。

 「演歌の王道」と名づけた連載で最新号が58回め。「コロナ禍で魅せた“名刀惠介”の斬れ味」のタイトルで、20周年記念曲第2弾『古傷』が上半期演歌歌謡曲部門で総合1位の報告から始めて、コロナ下でのそのプロモーションの実情、コンサートや大劇場公演との対応やその成果などをこまごまと語りながら、ついに山内の歌唱技術の「深究心と精神力」を力説する。

 何と字数にして6000字超、400字詰め原稿用紙15枚分の大作!?をぶち上げる情熱、精神力、持続力には、雑文屋稼業の僕も、ただただシャッポを脱ぐばかりだ。