旧地元・深川で芝居をやったヨ

2011年11月30日更新


殻を打ち破れ119回

 「現! 元気か、しばらくだな!」
乱暴に呼びかけながら、深夜ふらりと店へ入った。門前仲町のカラオケ・スナック「GEN」
「や! どうも、どうも…」
びっくり顔で、客席から腰を浮かしたのは、この店のオーナー井上現である。銀座で弾き語りをやっていたころからの友人で、作詞家荒木とよひさの周辺に居る作曲家。弟子に歌手のすずき円香がいる。
「10年ぶりですよ、どうしたんです一体?」
まだ中腰のままの井上へ、
「近所で芝居をやっててな、観に来てくれた連中と一ぱいやって、その流れだ…」
事もなげに言う僕に、相手は腰を抜かしそうになった。
「芝居って、えっ? 役者やってんですかこのごろ? えぇ~っ!」

 10月7日から10日までの4日間6回公演。僕は東宝現代劇75人の会の「水の行方・深川物語」(作・演出:横澤祐一)に出して貰った。地下鉄大江戸線清澄白河駅近くの、深川江戸資料館小ホールで、門仲(門前仲町)とは1駅の近か間。そのために6日から4泊5日、僕は門仲のホテルに泊まっていた。かつての勤め先スポーツニッポン新聞社は越中島にある。芝居はその越中島も含めて、材木どころの木場が埋め立てられ、新木場へ移転した昭和30年代が舞台。伊勢屋や魚三、吉野屋なんておなじみの店名がひょこひょこ出て来る。公私ともに深川づくしで、僕は感慨深い日々。

「そうだ。お前昼間は暇だろ、俺の芝居を見に来い。お店の常連さん連れてな」
僕は少々強面(こわもて)の客引き!?に早替わりした。東宝現代劇はかつて劇作家で東宝の重役だった菊田一夫が作った劇団。作・演出の横澤もそうだが、芸歴50年超の猛者がいる腕きき集団だ。そこに寄せて貰って3年連続、「浅草瓢箪池」「喜劇隣人戦争」に今回と、望外のいい役に恵まれている。多少の集客くらいさせて貰わねば、義理が悪いから、おなじみ仲町会の面々にも声をかけた。深川界わいにゆかりを持つ音楽プロデューサーや作家集団。スポニチの仲間にも会社周辺の歴史!?を見に来いと力説、星野哲郎関係のご婦人連はもう常連で、小西会の連中になど来るのが当然…という態度――。

井上の弟子すすぎ円香は、ご他聞にもれずキャンペーンに精を出す毎日。荒木とよひさの詞、弦哲也の曲『春ふたつ』を唄い歩いていて「行けなくてご免なさい」の笑顔を作った。井上は律儀な男だから、早速カラオケ熟女4人を伴って劇場に現われる。それやこれやで観に来てくれたお仲間とは、連夜の“お疲れさん会”になる。
「やぁ、びっくりした!」から「大分腕をあげたなぁ」まで、酔余の感想はおおむね好意的だった。材木屋堀川商店の筏乗りあがりの番頭役。小腰かがめて出ずっぱりなのが、最後には土下座求婚の大騒ぎまでやる。俺も多少かっこがついて来たのかな…と、ひそかな自負で、連中のヨイショを僕は、鷹揚な笑顔で見回したりしたものである。

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