"11月・ドームのひばり"の意味するもの

2012年1月10日更新


殻を打ち破れ120回

 「美空ひばりは今も、現役です!」

 ひばりプロ社長の加藤和也氏は、しばしばそう言い切る。今年23回忌を迎えた母親の“ひとと歌”が、往時と変わらぬパワーを発揮することについての、偽らざる実感だろう。6月20日、帝国ホテルで開かれた法要では、映像のひばりと生のオーケストラが協演、300人の参会者の拍手を浴びた。11月11日、東京ドームで開かれたメモリアル・コンサートでは、新旧世代の人気者が勢揃いして、ひばりを語りひばりを歌った。

 ≪確かにこれはエライことだ。22年も前に亡くなった人が、全く新しいエネルギーを生んでいるじゃないか…≫

 僕は和也氏と有香夫人と顔を見合わせ、うなずき合ったものだ。

 ドームコンサートは「だいじょうぶ、日本! 空から見守る愛の歌」と名づけられ、東日本大震災のその後を支援する催しになった。五木ひろし、小林幸子、氷川きよしら演歌歌謡曲勢に、EXILE、倖田來未、平井堅、平原綾香らJポップ勢とAKB48が加わる。会場内外でみんなが口にした言葉は「リスペクト」で、舞台と客席の間で、ひばりへの「敬意」が交錯した。それがこのコンサートに、単なるスターパレードに止まらない意義を加えた。

 よく耳にする感想がある。「演歌って、みんな同じように聞える」と言うのが若い世代。「このごろの若い子たちの歌は、どれもこれも同じで、さっぱり判らない」というのが、熟年世代の言い分だ。そういうふうに音楽や歌の好みや支持は、世代別に長いこと完全に分断されていた。ところが――。

 Jポップのスターたちが、敬意をこめてひばりソングを歌うと、そのファンの間に、古い、いいものへの再確認の気配が生れた。歌謡曲のスターをお目当てに集まった熟年ファンは、若者たちがひばりを歌う姿に感じ入り、若者たちのレパートリーにも耳を傾けた。しょせん通じ合うことのない娯楽と、双方の流行歌を顧みることがなかった新旧世代が、お互いに好感を持ち、理解しようとした。

 加藤和也氏の言う「ひばり現役説」は、ひばりの世界が昭和をしのぶ“よすが”になるだけではなく、こういうムーブメントの軸として生きていることを指すのだろう。それは同時に、彼と有香夫人の仕事が、ひばりを継承し、維持するだけではないことを示している。2人はひばりの魅力を拡大再生産して、次の世代へ、生前のひばりを知らない若者たちにまで、伝えて行こうとしているのだ。

 ≪ひばりが空から、見守っているみんなの、中心にいるのは、間違いなくこの2人だ≫

 ひばりの母親喜美枝さん、ひばり本人、それに和也・有香夫妻と続いて、僕は加藤家三代にまたがる親交に恵まれている。それだけに夫妻の情熱と夢、それを実現するための奔走ぶりに、胸を熱くすることが多い。戦後70年の節目でもある今年、戦後が生んだスター美空ひばりが、新旧世代の歌とファンを融合へ導いた。このイベントは後々そんな意味で、歴史的意義を持つ予感が、しきりにしたものだ。

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