殻を打ち破れ142回
「いいか、平成初の大競作だぞ!」
「ココロは"おじさんたちの反撃"だ!」
「いい作品、みんなで歌えば怖くないってか!」
去年の夏ごろから、ずっとそんなことを口走って来た。池田充男作詞、岡千秋作曲の『孫が来る!』という歌を、まず岡千秋が歌い、中村光春、船橋浩二、仲町浩二なんて歌い手が、さみだれ式にリリースした。熟年ファンに「いい歌だね」と好評で、カラオケで歌われる頻度がそれこそウナギのぼり!?
十年ほど前に作った楽曲である。五木ひろしの『おんなの絵本』というアルバムの一曲。その年五木はレコード大賞のアルバム大賞を受賞したが、この曲はシングルカットしないままだった。それが「評判いいよ」「もったいないよ」「孫を持つおじおばが泣くんだから」の巷の声で、息を吹き返した。
♪花なら野道のタンポポか それとも真赤なチューリップ...
そんな例えがぴったりの幼い女児二人が、四国から飛行機でやって来る。羽田に迎えに出たおじいちゃんは、もともと駆け落ちみたいに所帯を持った人。それを真似るみたいに、一人娘が四国へ走り、生まれた女児が孫である。土くれだった春を連れて、やって来る姉妹に、おじいちゃんは目を細める。正月、彼女たちを一年待っていた心が躍る...。
これ、作詞家池田充男の実話である。五木のアルバム用の詞を頼んだ時、雑談でこの件が出て来た。あれは年の瀬。「正月はどうしてるの?」と聞いた僕に、話し始めた池田はめっぽういい笑顔だった。
「いい話だなぁ。池田さん、それをそっくりそのまま、歌にしようよ」
即座に事は決まった。こんなふうに生まれる歌もあるのだ。
それから十年余、孫たちはすっかり娘らしく成長したが、池田の慈愛は変わることがない。
「いいね、いいね」
作曲した岡が一も二もなくレコーディング、無名のおじさんたちがそれに続いた。船橋は昔、日本クラウン発足のころに将来を嘱望された歌手だが、今は名古屋、大阪界わいで歌っている。中村は三重のカラオケ上手。仲町はスポーツニッポン新聞社の僕の後輩だが、定年を迎えて永年の夢を果たした。それぞれに、語れば長い半生があり、それが滋味として歌に出る。素材が素材だからことさらだ。
流行歌はいつの時代も、若い人たちがリードする。カラオケは着飾った熟女たちがケンを競う。それはそれでいいとして、どっこいおじさんたちだって、日ごろ鍛えたノドで勝負してもいいではないか!『矢切の渡し』をはじめとして、昔は競作が盛んだったが、近ごろはとんとそんな噂は聞かない。それならこの辺で、ひと踏んばりしてみるか!
♪来てよし可愛いお宝を 帰ってよしとも言うけれど(中略)うるさいことはしあわせだ...
と、池田の実感そのままに、"外孫"を持つおじおば全員集合である。後続の吹き込み志願もまだ一つ二つ。われと思わん希望者は大いに歓迎!である。
