あいつらの昭和・俺の昭和

2014年6月3日更新


殻を打ち破れ145回

≪その後どうしているか?≫

 時おり思い出す"気になる奴"がいた。もう一昨年の秋になるか、山形・天童のスナックで、ばかでかい声で歌っていた男。佐藤千夜子杯のカラオケ大会のゲストに呼ばれたスポーツマンふうのっぽで、韓国の歌を何曲か。

 「うん、CDのオリジナルより、こっちの方がいいな」

 確か僕は、酔余そんなことを言った覚えがある。スケール大きめの張り歌が、彼のための曲では手足ちぢこまって聞えたせいだ。

 『昭和男唄』山崎ていじ――。そいつの新しいシングルが届いた。さわだすずこの詞、弦哲也の曲、竜崎孝路の編曲。

 ♪口は重いし 愛想も無いし 思いどおりの 言葉さえ 見つけることも できない俺さ...

 どうやら歌の主人公は、武骨な世渡り下手だがそれはそれとして...。ボソボソ言ってる歌い出しのあと、サビ以降にガツンと高音で決める快感が来た。

 ≪そうか、やっとこういう作品にめぐり会えたのか!≫

 僕は彼の嬉しそうな笑顔を思い浮かべる。カラオケ族相手の覚えやすく歌いやすい作品では、山崎のパワーは全開できなかった。それが、ボクシングの西日本新人王決定戦に出たとかいう心身まで、のびのびと生きているではないか!芸名も「悌二」から「ていじ」に変わっている。心機一転、きっと期するものがあるのだろう。

 もう一人、ずっと気になる人がいて、それは作詞家の田久保真見。女性の感覚でスパッと言い切るシャープさが得難い。こちらからは『昭和の花』が届く。徳久広司の曲で歌は小金沢昇司だ。

 ♪おれの心の ほとりに咲いた 女 いちりん 昭和の花よ...

 というのが歌い出し。おやおや、去った女をしのぶ男の定番ソングか...と、早合点しかけたが、違った。二番の主人公が「酒」になり、三番で語られたのは「友」で、末ひろがりに全体が、昭和の青春生きざまソングになっていた。

 ≪そうか、何かそれらしい細工をしなければと、知恵をしぼった結果か...≫

 僕はニヤニヤして、彼女の胸中を推しはかる。作曲した徳久も、その気にさせられたかも知れないし、そんな気配とメロディーの乗りの良さに、小金沢もその気になったのだろう。すみずみまで、気合いの入った説得力のある作品に仕上がった。団塊の世代の男たちはきっと、心動かされるに違いない。

 ≪しかし、それにしてもなぁ...≫

 と、僕は妙にしみじみとしてしまう。『昭和男唄』と『昭和の女』が、立て続けである。一つの時代を生きた人間の、感慨や苦渋が二つの歌づくりのチームによって語られている。太平洋戦争をはさんで、それは実に激動の時代だった。戦後にしぼっても世相や文化は激変に次ぐ激変で、確かに歌も世に連れてはやった。それらをリアルタイムで体験したのが、僕らの世代。それが今では回想と感慨の対象に遠ざかっちまった――。

 と、まぁ、これは年寄りのくり言ならほどほどにして、山崎ていじの健闘を祈ろう。田久保真見の"これから"にも期待しようか!

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