パルチザン徳久の技と本線を聞く!

2015年2月7日更新


殻を打ち破れ155 


 島津悦子の新曲『惚れたのさ』を聞いて、

 ≪ほほう!≫

 になった。やくざ唄みたいに骨太のメロディーを、ザックリ歌ってなかなかである。彼女にとって、これが初めての男唄と知って、また、

 ≪ほほう...≫

 になる。パーティーなどで出会うと「こぶさたしてます!」なんてあいさつが、笑顔も一緒にさっぱりめで、そんな気性が好ましかったから、男唄など何度も歌っていたろうと思っていた。

 作曲は誰?と歌詞カードを見たら、徳久広司である。これまた

 ≪ほほう≫

 で、彼が書くメロディーが、ジャンルを越えて幅広いことにまた思いいたる。以前、その秘密を尋ねたら、

 「詞を貰ったら、彼らが書くとどんな曲になるかな?と、考えるのがとっかかりかな」

 と答えたことを思い出した。プロだからコピーするはずなどない。おおづかみ誰か流...と狙い目を想定するということだろう。

 だとすれば『惚れたのさ』を書く時に、思い浮かべたライバルの顔は、誰あたりだろう?中村典正ほどの骨太さではない。では岡千秋か? ナタでバサッとやるような切り口は、案外近いかも知れない。

 徳久は作曲界のパルチザンだな...と思う。ここかと思えばまたあちら、演歌歌謡曲戦線をタイプ多彩に神出鬼没する遊撃隊。その成果はあちこちで、かなり手堅いのだ。

 ≪しかし、彼の本線はこれだろう!≫

 ハン・ジナの『ガラスの部屋』を聞いて、僕はハタ!と膝を叩いた。何しろ聞き応えが滅法快いのだ。メロディーの起伏そのものが甘美でゆるみたるみがない。テンポもまたこれ以外にない絶妙のノリだ。平易だがドキッとする個所のある田久保真見の詞が、サビあたり「やめて!やめて!」なんて連呼する。曲の徳久とキャッチボールした気配がある。川村栄二のアレンジもそれらしく、うまい隙間を作った。結果ハン・ジナのハスキーボイスも生き生きとしている。

 詞、曲、編曲、歌と、四拍子が揃っているから、聞くこちらはあっさり持っていかれる。一杯やりながら...だったらウイスキーかも知れない。カラオケだったら連れの異性と眼を合わせて歌いたい気分。かつて"3連の徳さん"と呼ばれた徳久の面目躍如で、歌好きの支持で長命の『ノラ』の路線と言えば言えるか!

 ドカンとは来ないかも知れないが、愛され続けてロングセラーになる可能性は高い。そう書きながら僕は、ニンマリする徳久の顔を思い浮かべる。韓国歌手のムード歌謡は、いつの時代もヒットの椅子がひとつ、用意されている。日本でしのぎをけずるあちら歌手群を抜け出して、ハン・ジナがこの曲で、その椅子をせしめることが出来るかどうか?桂銀淑のドスの利き方に比べれば、この人の歌は艶っぽく甘いのが特徴だが...。

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