歌詞に、着想の大胆さや細かい工夫を

2019年2月2日更新


殻を打ち破れ205

 今年のレコード大賞の作詩賞は、松井五郎が受賞した。対象は山内惠介の『さらせ冬の嵐』と竹島宏の『恋町カウンター』の2曲。演歌ファンには聞き慣れぬ名前かも知れないが、この人はポップスの世界ではベテラン、相当な有名人だ。

 ≪よかったな。本人は今さら...とテレたかも知れないが...≫

 と、余分な感想を後半につけ加えたのは、彼が仕事を歌謡曲分野に拡大、新鮮な魅力を作っているせい。僕は山内惠介に書き続けたシリーズで、それを面白がって来た。構築する世界がドラマチックで、インパクトが強い。70年代以降、阿久悠が圧倒的に作りあげた境地に近く、山内のキャラを生かして、その青春版の躍動感があった。

 コツコツ歌っては来たが、作品に恵まれなかった竹島に悪ノリしたのも、松井の『恋町カウンター』と出会ったため。もしこの路線を続ければ、竹島は昨今勢いを持つ男性若手グループの一員に食い込む予感がある。民謡調の福田こうへい、演歌の三山ひろし、歌謡曲の山内惠介の新々ご三家に追いつき、ポップスの味わいで伍していけそうなのだ。この4人に青春ムード歌謡ふう純烈を並べれば、それぞれ個性のはっきりした集団がパワフルになる。世代交代の気運がある歌謡界で、先行する氷川きよしを兄貴分に見立てると、なかなかの陣立てではないか!

 128日夜、テレビで日本作詩大賞の生中継に出っくわした。同じ時間に別のBSで、弦哲也、岡千秋、徳久広司、杉本眞人と出演、ワイワイ言ってるシリーズ「名歌復活」が放送されていたから、あっちもこっちも...の忙しさになった。作詩大賞の方に松井の顔が見えたから、レコ大と2冠になるといいななどと思ったが、結果は福田こうへいの『天竜流し』に決まった。万城たかしの詞で、作曲は四方章人である。

 万城は地道に頑張って来た人だから、おめでとうと言いたいし、これで作詞の注文が増えたりすれば、なおいいなとも思う。だからこの受賞に異議を唱える気はないが、新聞記者くずれの僕にはどうしても、新風を吹き込むエネルギーや知恵を期待し、歓迎する性癖が強い。松井の仕事を支持するのは、彼の作品には独特の着想が際立ち、それにふさわしい表現力を示すせいだ。恋物語とその成否は流行歌の永遠のテーマ。長い歴史でほとんど書き尽くされていそうだが、それでも見方を変え深彫りすれば、一色変わった作品が生まれる例もある。

 川中美幸が歌っている『半分のれん』がそのひとつ。作曲家協会と作詩家協会が共同企画するソングコンテストの2018グランプリ受賞作で、岸かいせいの作詞、左峰捨比古の作曲だ。舞台は居酒屋、登場人物は店の主らしい女と男客が一人。この設定には特段の新しさはない。それが、

 ♪のれんしまえば あなたは帰る 出したままでは 誰かくる...

 という女の思いから急展開する。きんぴらごぼうを出したり、問わず語りの身の上話をしたりして、女は客をひき止める。詞のとどめは、外の看板の灯をこっそり消し、商い札を裏返すあたり。こまかい細工を重ねて、女心のいじらしさを巧く表現した。深彫りさえすればこの手があったか...と感じ入ったものだ。

 真正面から松井流の大胆な発想が一方にあれば、ありふれた設定の中で、創意工夫を凝らす表現が他方にある。色恋沙汰は書き尽くされたかと思ったが、歌をありふれたものにしない粘り強さが、まだまだ活路を持っていて頼もしいではないか!

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