トップページ> > 月1マンスリーニュース> 2014年5月のマンスリーニュース

2014年5月のマンスリーニュース

2014年08月25日更新

「張り歌」と「抑え歌」の面白さ

 おおざっぱに言って歌は、大声で張れば声そのものの持ち味が前面に出る。抑え気味の息まじりにすれば、情感がにじみやすくなる。歌手たちは双方を使い分ける。曲によってどちらを軸にするか、あるいは巧みに、一曲の中で双方を応用、メリハリをつけるか。
 レコーディングは抑え気味、コンサートは張り歌...という分け方もある。CDは聞く側と1対1、コンサートは大勢の客相手のせい。そんな事を考えながら歌を聞くのも、一興だろう。

R715.jpg

浮草の川

作詞:荒木とよひさ
作曲:弦 哲也
唄:
神野美伽

 昨年の渋谷公会堂リサイタルが、圧巻だった。ほとんどの曲がめいっぱいの張り歌。作品ごとの情趣よりは、神野の・ひと・そのものを突きつける凄味があった。その後アメリカのライブハウスで歌う。同じ意図で日本人の心意気と魅力を全開放したのだろう。
 一転してこの作品は、情緒狙いの抑え歌である。荒木とよひさの詞、弦哲也の曲の2ハーフ。酒場女が、これが最後と思い定めた恋にすがる胸中を訴える。歌謡曲寄りの演歌だが、演歌は「演じる歌」とも合点した。7行詩をうまくまとめた弦のメロディがきれいだ。

R716.jpg

夜泣き鳥

作詞:田久保真見
作曲:岡 千秋
唄:
角川 博

 張り歌はときおり、作品を嘘っぽくする。詞が描く心情を上すべりして、声味とのバランスが悪くなるせい。角川にはこれまで、それも承知でガンガン行きたがる癖があった。ところが―。
 ちょいとしたモデルチェンジである。八分目くらいの声で軽めに、今回はこの曲を処理した。鼻歌みたいな気安さがかえって、心細げな女心をうまく表現する。抑え歌でも、声にしっかりと芯が作れていなければいけない好例だろう。歌い出しの歌詞2行分に、岡千秋が意表を衝くメロディーを書いて、角川をのびのびとさせた。

R717.jpg

一夜宿

作詞:吉 幾三
作曲:
吉 幾三
唄:
香西かおり

 粘着力も含めて、吉幾三のメロディには独特の・口調・がある。他人のための曲を書いても、それは変わらない。香西はそれをごく丁寧に歌って、彼女の口調の歌に仕立て直した。作品を小さく歌って大きく育てる。香西は抑え歌の妙を十分に心得ている。

R718.jpg

恋の津軽十三湖

作詞:宮内たけし
作曲:平川竜城
唄:
長山洋子

 五所川原にある長円寺の、鐘の伝説に材を取ったそうだが、作品にはさほどの物語性はない。津軽三味線のテンポとリズムに乗せた、会えぬ男女の恋唄。長山はその哀切をはずみ加減に歌う。細めの声だが、どうしならせて情趣を盛るかという、工夫が聞こえる。

R719.jpg

高尾山

作詞:いではく
作曲:原 譲二
唄:
北島三郎

 高尾山に擬して、ここまで人生訓を展開するか!と、作詞いではくにシャッポを脱ぐ。それに原譲二が曲をつけて、北島の歌はおなじみの世界だ。要所を突く唱法、息づかいと節回しが彼流の説法ソングだが、聞いてる僕と同い年、どうやら枯淡の境地か?

R720.jpg

淡墨桜

作詞:瀬戸内かおる
作曲:岸本健介
唄:
夏木綾子

 地道だが脇目もふらずに、瀬戸内かおるの詞、岸本健介の曲、夏木の歌のトリオが踏ん張っている。三者三様の・ほどのよさ・が三位一体なのはいつも通り。目先を変えず奇をてらわす、一点突破を目指す一生懸命さに、僕はう~んと唸った。

R721.jpg

くすり指

作詞:田久保真見
作曲:樋口義高
唄:
岩出和也

 ムード歌謡っぽく淡々と...が、いつもの岩出の歌い方。思い入れや感情移入が薄めで、いわば「口先歌の軽薄さ」が、この人の個性なのか。2番の歌詞に「ふと」が出て来る。僕も永井裕子の歌づくりで体験したが、この2文字、メロに乗せるのは難しいねぇ。

R722.jpg

居酒屋ほたる

作詞:里村龍一
作曲:徳久広司
唄:
上杉香緒里

 里村龍一の詞、徳久広司の曲で女の酒場ひとり歌。オーソドックスなやつを、上杉がこれまたオーソドックスに歌う。3番の歌詞に「空のボトルに花を挿し 飾ってあの日へ旅をする」とある。「旅をする」の含蓄を、里村君、なかなかやるねェとほめたくなった。

R723.jpg

泣きまね

作詞:田久保真見
作曲:田尾将実
唄:
チャン・ウンスク

 声が途切れがちでも、息が歌っているのがこの人のハスキーさ加減。だから口調がトツトツのまま、にじり寄る情感が生まれる。それに似合いなのは、田久保真見の詞と田尾将実の曲の、繰り言みたいな言い募り方。一カ所どこかで、吹っ切れたくもなるが...。

R724.jpg

みちづれの花

作詞:仁井谷俊也
作曲:徳久広司
唄:
藤原 浩

 男は結局みんな、弱虫なのかもしれない。そう思うのは、藤原の歌声があたたかく、ひどく優しげなせいだ。尽くしてくれる女性へ、感謝を語る男唄は、多少意気がるものだが、歌詞にはそれもない。前奏だけが芸道ソングみたいに、力んでみせてはいるのだが。

R725.jpg

忍野八海かくれ里

作詞:仁井谷俊也
作曲:岡 千秋
唄:
真咲よう子

 岡千秋の曲は歌い出しの歌詞の2行分、叙情歌的にのびのびして、次の2行分でたたみ込み、演歌にする。かくれ里の忍び恋を、泣き歌にはしたくないせいか。真咲の穏やかな声がそれを形にした。相当長いキャリアの人だが、相変わらずおっとりしている。