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2018年8月のマンスリーニュース

2018年10月01日更新

亜熱帯の演歌なのか?

 「生命が危険」と連呼される夏、酷暑と言うか炎暑と言うか、各地多難でメチャクチャ暑い。9月だって油断がならない...という時期に、世に出る作品群である。
 8つの作品に共通しているのは、表現のさりげなさ。過剰な感情移入や、演歌にままある押しつけがましさを、皆が避けている。もっとも気候だけでなく、政情も世相も閉塞感や末恐ろしさが先に立つ昨今、うんざりした気分がそうさせると思えなくもない。日本はこのまま亜熱帯になるのだろうか?

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片時雨(かたしぐれ)

作詞:いとう彩
作曲:岡千秋
唄:
岩本公水

 《そうか、この人はこういう風に、作品の情感をまるで掌の中の珠のように、歌いころがせるようになったのだな》 と僕は合点した。長い歌手生活で、いろんな事があり、いろんなタイプの作品を歌って来たが、ひと言で言えば〝娘の歌〟だったと思う。ところが、今作は明らかに〝オンナの歌〟だ。
 ギターが中心の音づくりは、昔からある〝流しの歌〟調で、5行詞、去った男を思い返してひとり酒の主人公は、はかなげな息づかいで嘆きを語る。いとうの詞に恨みがましさはなく前を向いているのもいい。

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みれん船

作詞:久仁京介
作曲:山崎剛昭
唄:
鏡五郎

 こちらも5行詞のギター流し調。古い演歌好きの僕なんか、つい「いいなぁ」としみじみしてしまうタイプだ。昔なら春日八郎が 春が来たとて、行ったとて...などと、男の嘆きを歌ったものだが、岩本作品の岡千秋、鏡作品の山崎剛昭の曲づくりは、似たような落としどころ。
 こちらは作詞の久仁京介が、詞を船ものにしている。曲のサビのあとの〝ゆすりどころ〟を、各節「惚れたよ、泣いたよ、夢見たよ」で揃えて、鏡の芸に託した。去る女を見送る男の未練だが、やはり恨みがましさはない。

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天の川恋歌

作詞:仁井谷俊也
作曲:徳久広司
唄:
野中さおり

 歌手生活も30周年になったとか。それを機に芸名の「彩央里」を「さおり」に変えた。心機一転の気構えだろうが、なるほどこの方が素直でいいか。
 亡くなった仁井谷俊也の遺作。作曲の徳久広司が、彼女の歌も素直にした。歌詞の前半4行を素朴に語らせ、次の2行を高ぶらせる算段。歌唱にさりげなさと、いい味が生まれた。

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花ふたたび

作詞:菅麻貴子
作曲:水森英夫
唄:
キム・ヨンジャ

 ヨンジャはなかなかに曲者である。ガンガン行ける韓国パワーを、声をしぼって語るように、仕向けたのは水森英夫の曲。この人ももともとガンガン行かせたがるタイプなのに、なぜか今作は抑えめを選んだ。
 ヨンジャが曲者なのは、抑えた歌唱だが、決して抑えていない点。声をしならせてインパクトの強さをちゃんと維持している。

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弥太郎鴉

作詞:久仁京介
作曲:宮下健治
唄:
中村美律子

 ヒット曲づくりの一策は「隙間狙い」誰もやらないなら、それで行こうという手で、近ごろ珍しい時代劇道中ものが出て来た。巻き舌で芝居っけ十分のこの種の歌なら、確かに中村美律子お手のものだろう。久仁京介の詞が「意地の筋立て、器量の錦」なんてフレーズを持ち出し、宮下健治の曲も気分よさそう。体調崩し気味の中村が元気でよかった。

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霧雨川

作詞:麻こよみ
作曲:四方章人
唄:
千葉一夫

 こちらも"道行きソング"で、近ごろ珍しい狙い目。四方章人の穏やかめのメロディーに千葉一夫の穏やかめの歌唱で、歌詞ほどには切迫感を作らない。
 しかし...と、制作者も歌手本人も考えたのか、千葉の歌唱はいつもより感情移入が強めで、突くところは突く。声が太めに聞こえるのは、彼のキャリアがそうさせた結果か。

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女のゆりかご

作詞:里村龍一
作曲:岡千秋
唄:
瀬口侑希

 瀬口侑希はこのところ、一作ごとに歌唱が変わっている。今作など、息まじりに歌をゆすって、詞のはかなげで一途な色にも添った。おおらかな叙情派からスタート、キャリアを重ねる中で「器用じゃない人の器用さ」が生まれてなかなかの演歌。このところ消息が聞こえぬ里村龍一の詞が何だかわびしげなのへ、岡千秋の曲で、二人の友情がにじむ。

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哀愁北岬

作詞:麻こよみ
作曲:影山時則
唄:
服部浩子

 もともとが、作品に何も足さない風情の歌が特徴だったのが服部浩子。長い年月を経て、そうも言ってられないと本人が考えたのか、昨今の歌の流れに添おうとしたのか。1コーラスの歌い始めと歌い収めの高音部に、訴求力を強めた工夫が聞こえる。声の芯をしならせて色を濃いめにしていて、作曲の影山時則が誘導したかも知れない。

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