トップページ>新歩道橋> 新歩道橋1050回

新歩道橋1050回

2019年4月28日更新



 歌手井上由美子は近所のおじさんやおばさんから「パチプロ」だと思われている。理由はもうけの手堅さ。投資額は1000円代で、ジャラジャラ...と来ても深追いしない。台の選び方や球の打ち方などに、それなりの「手」はあるのだろうが、きちんと稼いで大損がない。
 大阪の藤井寺から上京、足立区や昨今の西小山付近などに住むが、なぜかそばにパチンコ屋がある。そこで打ったら最初からうまく行った。ビギナーズ・ラックである。
 「パチンコ台が私を見ている。少しサービスして〝その気〟にさせる気だな」
 と見た。うまく行かない時はさっさと家へ帰り、着替えをして入店する。自分を〝新顔〟に見せる細工で、これが図に当たったと言う。見ているのは台ではなく、その裏の店員の視線なのだろう。
 「沢山たまった球を、主として何に代えるの?」 と聞いたのは、明らかに愚問だった。答えが、
 「お金に決まってるじゃん」
 と来たからだ。獲得する金は全部生活の足しにした。プロ歌手になる前は、そんな暮らしが長かった。
 井上由美子は「演歌」の歌い手である。それに似合いの苦難の時期とエピソードもちゃんと持っている。しかし口調はやたら明るい。
 「中学3年の時、母と私は、藤井寺に居る必要がなくなった」
 両親の離婚が理由。そこで母子二人はすっぱりと大阪を捨てる。井上には歌手になる夢があったが、その方法について、知識もコネもない。とりあえず母もバイト、自分もバイトの日々である。ところが母が体調を崩したため、彼女は昼夜バイトのダブルで生計を支えた。文化放送の深夜番組「走れ歌謡曲」がやった新人歌手募集に応募、1年後にデビューする好機をつかむのは、一発勝負のいわば僥倖。それまでにカラオケ大会もオーディションも出たことはない。
 根拠のない自信家井上由美子は「チビ」である。この表現は人をおとしめるとして要注意だが、身長146センチ、足のサイズ21・5、童顔の彼女は「かわいい」と言われそれを売りにするのだから、使ってもいいだろう。もっとも彼女は子供のころから、コンプレックスを持ってはいた。しかし歌手になると、あちこちでかわいいと言われるために、自分の価値として再認識。昨年から年齢も非公開にした。容姿の説得力を保つ作戦である。
 恩人の名前が二人分出て来た。一人は元文化放送の玉井進一さん。応募した時に年齢制限越えを明記したら「正直でいい」とし、見た目を「かわいい」と評価して、歌手への道を開いてくれた。文化放送系の音楽出版社JCMの社長も務めた人だが、僕も親交がある人情家だ。もう一人は亡くなったアルデルジロー社長の我妻忠義さん。デビュー時井上を引き取ったプロダクションの主で、僕もこの人のお声がかりで役者の道へ入った。共通の恩人というのも縁の妙か。今は我妻氏の息子二人が事務所を引き継ぐが、何しろ井上が頼りの弱小プロ。そこで彼女は、
 「お金を下さい。事務所がつぶれちゃいます!」 と、舞台で叫ぶ会社こみの〝自虐ネタ〟をやり、爆笑を呼んだりするのだ。
 歌手井上由美子は「おもろい女」である。「パチンコ」に並ぶもう一人の趣味は「温泉」だが、長野の白骨温泉へ出かけた時など、2日間で12回もつかり、
 「お肌ツルツルを通り越して、パサパサになった」
 と笑い飛ばす。休みがあると飛んで行くのは伊香保の宿で素泊まり。コンビニでおにぎりなど買い込み、寸暇を惜しんでつかりまくると言う。
 それやこれやを僕はレギュラー出演中のUSEN「昭和チャンネル」月曜日の「小西良太郎の歌謡曲だよ人生は」6月放送分で、彼女と5時間近くしゃべり尽くした。相棒の歌手チェウニも笑い転げんばかりの長時間だった。
 井上が生来身につけていたのは、関西人特有の諧謔精神と、血液型Aの眼くばり心くばりのサービス。ボケよりツッコミの威勢の良さがある。目下彼女は新曲「想い出の路」キャンペーンに没頭しているが、僕はマネジャーに、
 「バラエティ番組に出せ、パチンコか温泉探訪のレポーター役を取って来い!」
 と注文した。まず顔を売る近道だが、さて我妻兄弟、どこまで頑張れるものかどうか...。


musicreport.gif