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新歩道橋1091回

2020年11月 8日更新



 佐賀へ出かけた。8月に信州・蓼科でゴルフをやって以来、2度めの遠出である。往復が飛行機、これは今年初だから、いい年をして少々浮き浮きする。永井裕子の20周年記念故郷コンサート、同行したのは作曲家四方章人とキングの古川ディレクターで、この二人と組んで僕は、永井のデビューから10年間、全曲をプロデュースした縁がある。永井の両親ともずいぶん久しぶりに会う。コロナ禍の最中だが、そんな身内ムードの旅だ。
 10月18日、場所は東与賀文化ホール、午前の部と午後の部の、早め早めの2回公演。午前が佐賀県外の客、午後が県内の客に分けたのはコロナ対策で、検温、手指消毒、掛け声なしで応援はペンライトや拍手...の手はずは、今や全国共通だ。しかし僕は、感染者累計8300余の神奈川を出て、3万超の東京を経由、着いた先の佐賀はわずか250前後...という旅人である。うつる心配よりも持ち込む懸念の方が大だから、何だか後ろめたさが先に立つ。しかし公演前夜、唐人と言う町の〝むとう〟という洋風居酒屋でゴチになれば、そんな気苦労などどこかへ消し飛んだ。
 永井のステージはご当地九州ものの「玄海恋太鼓」からズバッ! と始まる。喜多條忠の詞、岡千秋の曲で威勢がいい。作曲が岡ということは、10年以後の作品。それまでは四方が全曲書いた。育ての親でも10年間独占というのは珍しいケース。その代りに作詞家は2曲ずつ全部変えた。「菜の花情歌」が出てくれば、ああ、あれは阿久悠だ「哀愁桟橋」なら坂口照幸「愛のさくら記念日」ならうえだもみじ...と歌書きの顔が次々に浮かぶ。吉岡治、たかたかし、池田充男、ちあき哲也...とみんな親交つながりで、いい詞を沢山貰ったものだ。
 四方がNHKのカラオケ指南番組でスカウト、連れて来たのは中学生時代。せめて高校くらい行かせようと提案したのは、哀しみ系声味が独特で、年に似ぬ節回しと、小柄だがパンチ十分の元気さを持ち、おまけに眼が滅法きれい...と、いいとこばかりが目についたせい。18才のデビュー曲に〝演歌のキャンディーズ〟を狙った「愛のさくら記念日」でお披露め、2作めに「みちのく雪列車」をはさみ、3作めの「哀愁桟橋」がヒットして軌道に乗ったが、いつどこで歌わせても、彼女の力量は何の心配もなかった。
 それが後半の10年で「郡上八幡おんな町」「そして...雪の中」「ねんごろ酒」「そして...女」と、年齢相応の味しみじみと、歌に奥行きが出来ている。僕は彼女のステージを、午前の部は舞台そでに椅子を持ち出し、午後の部は4列めくらいの客席でたっぷり聞いた。曲の間のおしゃべりに、まだ可憐さが売りの時期の口ぶりが少し残るくらいで、全体はもう、
 《いいぞ! いいぞ!》
 のステージである。
 ゲストは同郷の先輩西方裕之が「遠花火」「波止場」「赤とんぼ」に新曲「出世灘」を歌い、NHKのど自慢で歌詞を忘れて往生した自虐ネタで笑わせる。もう一人の先輩岩本公水は「片時雨」「能取岬」「対馬情歌」にヒット中の「しぐれ舟」を並べる。イントロからエンディングまで、1曲をドラマに見立てて、主人公を演じる歌唱と仕草の没入ぶりが、この人の歌のうまさを際立たせる。三人三様、やはり生歌はいいもんだ。
 面白かったのは、午前の部、午後の部ともに、まず地元の歌巧者が8名ほど、自慢のノドを聞かせた趣向だ。佐賀や福岡の指折りのカラオケの先生とかで「熱祷」「人生の挽歌」「恋の酒」「恋雨港」「娘・長持唄」「アイヤ子守唄」など、めったに聞けぬ難曲が揃う。村田英雄や西方の師匠の作曲家徳久広司がこの地出身で、親しいつきあいの大衆演劇、三代目大川竜之助もたしかここ。そう言えば九州で結成、全国を旅する大衆演劇の劇団は相当数にのぼる。そういうタイプの芸どころなのか、地元の先生には、しわがれ声をふりしぼり、歌をセリフ仕立ての大芝居フィーリングで聞かせる芸達者が目立った。
 「それにしてもなかなかの強者ぞろい。それが幕あけを飾るのがご当地の風習なの?」
 と聞いたら、興行主の西日本音楽企画吉岡満雄社長は、
 「ま、先生たちのお弟子さんも見に来てくれるということで、初の試みです。ハッハッハ...」
 と屈託なげ。歌巧者たちは舞台で〝どうだ!〟の1曲、お陰で多少のチケットもはけて...と、ご当地いい気分企画は相乗効果があったようだ。
 道中で立ち寄った店の〝とん骨ラーメン〟が、さっぱりしたいい味なのを褒めたら、
 「この辺のは久留米系だからギトギトしないの」
 と、打てば響いた古川ディレクターも佐賀の出身。車中の地元風物案内が、なかなかに嬉しそうだった。


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