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鳥羽・山川兄弟の「男気」

2016年12月25日更新


殻を打ち破れ180回

 ≪ほう、それを歌うかね...≫

 山川豊が挙げた曲目『希望(のぞみ)』に強い興味を持った。作曲家船村徹が刑務所慰問用に作詞、作曲、無性に沁みる歌唱で、女囚たちを泣かせる歌だ。大勢の弟子たちもあれは師匠の持ち歌...と、敬意を表してかあまり歌わない。それを山川が取り上げたのは、113日夕、よみうりホールでやったデビュー35周年記念コンサートでのこと。

 ♪ここから出たら 母に会いたい おんなじ部屋で眠ってみたい...

 歌い出しから女囚の本音が、平易率直の語り歌。それを低音を中心にズサリと歌ういつもの山川節を返上、彼は切々の思いを込めて歌ってみせた。だから≪ほほう!≫と感じ入って2コーラスめを待つ。

 ♪ここから出たら 旅に行きたい 坊やをつれて 汽車に乗りたい...

 時として吐息まじり、メロディーをはずし加減に語ると生きるタイプの曲だ。そうすれば一番の後半で母に「おもいきりすがってみたい」ことや、二番の後半で坊やを「おもいきり抱いてやりたい」ことが、痛切に聴き手の胸を打つ。聞きながら僕は、山川が根っからの演歌好きだと知った。時々こういう作品で、彫りの深い表現をしたい人なのだとも判った。

 『函館本線』でデビュー『ときめきワルツ』や『流氷子守唄』『アメリカ橋』『夜桜』など、いい作品に恵まれて、独自の世界を作った。『再愛』『螢子』と、ここのところの歌もなかなかにいい。後輩たちは高音部で勝負する歌手が多く、低音派が少ない。彼タイプの歌手がもっとふえれば、低音ブームの頭になれるのに...と、僕は客席で勝手に残念がったりする。

 兄・鳥羽一郎の『兄弟船』も歌ってみせた。アレンジを変え、テンポもスローにして、漁師唄の威勢のよさを、エレジー風味に仕立て直したのが面白い。

 「僕はもともと無器用だから...」

 と話すトークは訥訥としている。そのためにところどころ微妙な間(ま)が出来るのが、鳥羽との共通点。海の育ちの男たちは、もともと言葉少なで、体の方がスッと動く男気を持つのかも知れない。もっとも兄の方はその間(ま)を逆手に取り、彼流の話芸を作ってはいるのだが――。

 その鳥羽の歌と話芸をたっぷり聞いたのは1025日の九州・天草市民センター。鳥羽がここで「頑張れ熊本!チャリティ公演"魂の唄"」をやった。弟分の静太郎、天草二郎、走裕介、村木弾と一緒に船村徹内弟子5人の会を作っての自主公演。「この際、俺たちに出来ることを」と5人で話し合い、師匠から「行って来い!」と背中を押されたという。

 鳥羽の『晩秋歌』や『海の祈り』がお手本で、弟分たちもそれぞれ船村から貰ったオリジナルでノドを競う。『矢切の渡し』『別れの一本杉』『おんなの宿』など、船村の傑作も並んだから、お客は大喜びした。驚いたのはチャリティ金額で、460万余円。彼らは手弁当でノー・ギャラ、収入から会場費、制作費を除いた全額を寄付したから客席もどよめいた、なるほど鳥羽・山川兄弟に共通する魅力は「男気」なのだと合点がいった。


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