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大願成就へ・『デラシネ』の門戸竜二

2017年11月 5日更新


殻を打ち破れ190回

 門戸竜二という役者がいる。大衆演劇ファンにはよく知られた名で、この世界の「プリンス」と呼ばれる青年だ。おなじみさんが絶賛するのは見事な女舞い。妖艶な花魁(おいらん)や芸者姿から、少女と見まがう可憐な町娘まで、相当な美しさになる。坂東流の名取りで踊りも本格派、踊りも芝居も徹底的に突き詰めるこだわり派でもある。

 この春、歌手としてメジャーデビューした。田久保真見作詞、田尾将実作曲、矢野立美編曲の『デラシネ~根無し草~』で、ネットにあげたら大きな反響があり、その勢いに乗じて歌い歩いている。大衆演劇の人だから地方公演はお手のもの、前川清、中村美律子らの劇場公演にも出て、CDの実演販売にも精を出している。

 「門戸」は「モンド」と読む。バタ臭くも聞こえるが本名。それらしい芸名を名乗らない理由は「親捜し」の思いを秘めているせいだ。幼いころ両親が相次いで失跡した。その間の事情を本人はあまり語らないが、いずれにしろ捨て子。巷で暮らしていたのが、大阪・岸和田の施設に収容され、そこで育った。人前で芸をやるなど考えもしなかった少年が、テレビドラマ「北の国から」を見て一念発起する。自分が人前に出れば、ふた親が名乗ってくるかも知れない――。

 施設を出てしばらく、まず梅沢登美男の門を叩く。その後仲間とユニットを組んだ時期もあるが、お次に師事したのが松井誠。梅沢ともどもこの世界では名うての大物で、師匠運は強かったのかも知れない。役者からスタッフ、雑用係りまで何でもやる世界。ひと興行終われば道具も用具もすべて大型トラックに積み込んで、次の興行地を目指す。中堅どころになっても門戸は、陰日向なくよく働いた。松井劇団から独立、若い座長の一人になったのは、そんな姿勢に本田プロデュースの社長夫妻が惚れ込んでのこと。

 門戸の"人恋い"の念願は、これまで父親との再会で半分果たされた。彼の役者ぐらしに気付いて、父が訪ねて来たと言う。残るのは母親との縁である。まだ門戸の今日に気づいていないのか?それとも家を捨てた負い目を背負ったままなのか?母には母のその後の暮らし向きや生き方があろう...と、門戸はおとなのわきまえ方をしているが、男にとっては幾つになっても母は母。一目会いたい思いが途絶えることはない。

 ♪水に映る月は つかめない運命だと 知っているのに 同じあやまち 同じあやまち また繰り返す...

 門戸の『デラシネ~根無し草~』は、そんな彼の心情を、さりげなく歌い出しの詞にしている。

 ♪好きなくせに逃げる 欲しくなれば捨てる 哀しいと笑うクセ...

 と、複雑だった少年時代の"生きる術"を語るような個所もある。しかし今は「逃げない」し「捨てない」のが門戸自身の生き方なのだ。

 田久保真見の詞は、門戸の思いに寄り添いながら、こんな時代の隙間を生きる男と女のお話に組み立てた。それに田尾将実がつけた曲は甘美で愁いに満ちている。

 門戸はこの秋、竜小太郎、大川良太郎と三枚看板「大衆演劇祭り」で全国を回る。さて、彼の大願成就は、この歌の大ヒットなのか? 夢にまで見る母親との再会なのか?


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