新歩道橋1148回

2023年5月13日更新



 視界の中にボンヤリと猫が居る。眼をこらすと、愛猫の風(ふう)である。こちらは抗がん剤の苦痛と戦っているというのに、相変わらずの惰眠かと、もう一度眼をこらすと、前足を十文字に組み合わせている。これがコイツの粋なポーズなのだ。
 風の向こうに海が見える。相模湾である。その向こうに富士山―そんな光景を眺めながら、一体何本このコラムを書いたことだろう。1000本を越えた時は相当に驚いた。それを「通過点かな」とうそぶきながら今ではなんと1148回である。長い年月、お世話になったものだ。感謝にたえない。見当ちがいのWBCの感激を書いたこともある。杉良太郎のボランティア話でお茶をにごしたこともある。他誌には坂本龍一の死をとっかかりに大島渚や阿久悠、吉岡治、なかにし礼らとの交遊のきっかけにふれたこともある。いずれにしろ、古い話だが、ネタに窮してのことだ。ベッドからひとりで起きられない身としては、なんともお恥ずかしい話だ。雑文屋がネタに困るようでは商いとして成立する訳がない。
 まことに身勝手な話で申し訳ないが、このコラムを今回で終了とさせていただきたい。長い間、ご愛読いただいた向きには、心からお詫び申し上げます。