新歩道橋751回

2010年10月29日更新


 
 年上の僕がそう書くのも何だが、メタボおじさんが大集合、嬉しくてたまらない風情で舞台を務めるのが愉快だった。「歌って踊って芝居もあって」「高齢化時代にオヤジの新エンターテイメント!」が惹句のバラエティーライブである。10月17日の日曜日に、のこのこ出かけた先は駒込・六義園そばのオフィスストライプで、観客60人前後の容れもの。出演はイブニング・ダンディーズを名乗る面々だが、昼食、フリードリンクつき4000円、堂々のランチ・ショーだ。
 いきなり懐メロで、それも「君恋し」「国境の町」「青春ラプソディー」「別れのブルース」「旅の夜風」と、相当に古いところから戦後まで。それを入れ替わり立ち替わりで歌う。さっきまであった食事のテーブルを撤去した空間がステージ。赤、青、黄色にピンク、紫、緑…と、ド派手なスーツで登場するのが、イブニング・ダンディーズである。屈強のひげ面、かなり広くなった額、名残りの髪を思い思いにカットして、風変わりな芸名を名乗るあたりに、それぞれの自己主張が垣間見える。
 歌はカラオケ上手級である。それが曲によって扮装をかえる。「旅の夜風」は医師と看護師「東京のバスガール」は女装に旗「蘇州夜曲」はチャイナドレス…。お客はそれを笑いながら見て、曲によっては一緒に口ずさみ、思いのほかの歌巧者には拍手を送る。コスプレつきカラオケ大会の趣きだが、休憩をはさんだ二部は、バラエティー色が俄然強くなった。
 祭り装束のラインダンス、脚立の上の曲技ふうがあり、プッチーニの「トスカーナ」を3分に縮めて男女2色の声で歌い分ける芸達者がいるかと思えば、自称イケメン3が「仮面舞踏会」を歌い踊る。「燃えるのか、燃えないのか」と主婦2人が自問自答する「ナマゴミの女」や「外に7人の敵なんて嘘、敵はウチに居る…」とさとす「息子よ」なんて怪作が歌われる。つぎはぎだらけのフロックコートに山高帽で、都はるみの「ムカシ」…なんてあたりは、まともな方だ。
 リーダーは大石誠。日劇ダンシングチーム出身だと言う。あの劇場がサヨナラ公演で48年の歴史を閉じたのは1981年2月15日、もう29年も前のことだから相当な熟年だ。この日の会場は、彼が自宅に作ったけいこ場で、客に出す食事は夫人が陣頭指揮した手づくり。メンバーは大石が、カラオケスナック他でスカウトした。目下17人で平均年齢は52・5才、AKB48を超えて50名が目標だと言う。何しろ全員仕事を持っているから、スケジュールのやりくりが大変。結成2年だが口こみが効いて、月1回のこのショーは来年3月分まで完売。追加公演としてナイト・ショーも考えているとか。
 《それにしても…》
 と再確認したのは、全員がよく動くこと。懐メロもバラエティーも、曲ごとに全部振りつけがされていて、けいこもちゃんとしている気配。そこで登場するのが著名な演出家日高仁氏だ。僕が記者時代、日劇でお世話になった人だが、彼が今年から週1のけいこを見ているという。
 《道理であちこちに、日劇の匂いがした…》
 と合点が行ったが、日高氏80才、メンバーを上回る意欲を示す元気さには脱帽!である。
 「みんな素人ですからねえ」
 と言われたが、何ごとによらず最初は誰だって素人。それが50才を過ぎて〝最初〟というのが稀なだけだ。そう言う僕も川中美幸一座、沢竜二公演、東宝現代劇75人の会などに出して貰って5年。たまに聞く褒め言葉は決まって「自然でいい」で、つまりは素養も技術もないが「一生懸命」だけは伝わるという意味だろう。
 いわば〝同病の志士〟イブニング・ダンディーズの面々に僕から贈る言葉は、
 「面白くもおかしくもない玄人よりは、ヘンな素人で上等だよな!」
 なんて居直り方だろうか?

週刊ミュージック・リポート