新歩道橋787回

2011年10月14日更新


 
 谷建芬という人と食事をした。中国の音楽著作権協会副主席で、全国人民代表大会常務委員会委員の肩書きを持つ。ひらたく言えば〝中国の古賀政男〟だそうだが、女性である。大阪の有名お好み焼き店で一夜を楽しんだ彼女は、日本生まれの大阪育ちで、昭和16年に中国へ渡った。幼いころの味をもう一度…の希望を満たそうとしたのだが、
 「もっとキャベツが多かったけど…」
 と首をかしげる。当時とは比較にならない豊かさの日本。お好み焼きの味も、今日ふう美味に様変わりしたということか。
 接待したのは作詞家のもず唱平である。僕は金田たつえの「花街の母」(昭和48年)あたりからのつき合いだが、彼はちょいとした活動家。日中友好に熱心で、アジアの著作権問題にも取り組む。谷氏をゲストに9月30日、そのシンポジウムを開いた。3・11の東日本支援では、作詞の荒木とよひさ、作曲の岡千秋、三山敏と語らい「がんばれ援歌」を作る。印税を全額寄付する企てで、まず高橋樺子でCD化、他の歌手たちにも是非…と呼びかけている。
 その夜僕が同席したのは、シンポジウムの流れではなく、翌10月1日、同じ会場の大阪国際交流センター大ホールで開かれた「ミュージシャングランプリOSAKA2011」の審査を取り仕切ったせい。これも主唱者がもずといういきがかりである。もずとの関係は一応僕が兄貴分ふうだが、逆に僕をこき使うのはもずの方で、このイベントは今年でもう10回目、演歌世代なのに年甲斐もなく、Jポップ系の審査を、
 「音楽はつまるところココロだろ」
 なんてノリで、踏ん張らされて来た。
 ところで大阪だが、昨今とみに剣呑な空気が漂う。橋下徹知事が来月行われる大阪市長選に出馬するのが発端。首長政党の大阪維新の会がバックで、後任知事には意中の人を推すという。つまり府と市の長と政策を一本化、大阪市と堺市を合併、大阪〝都〟を実現するのが狙いらしい。一部に「まるでロシアの権力独占コンビみたい」と冷やかす声も動きだが、再選を目指す現職の平松邦夫市長は当然猛反発、
 「橋下独裁を許してはならない!」
 と、ヒートアップしている。
 《ひところはキャスターの辛坊治郎が知事選出馬と噂されたが、立ち消えになったらしい…》
 などと、僕が情報通になるには訳がある。1日にやったミュージシャングランプリOSAKA2011は、その大阪府や大阪市が主催。関係者のヒソヒソ話のあれこれがどうしても小耳に入るのだ。
 《これがもず唱平の腕力かねえ…》
 とも考える。このイベントは府と市の他に商工会議所、経済同友会、商店会総連盟、国際交流センター、観光コンベンション協会など、大阪の行政や関係団体、経済界などが主催グループに名を連ねている。
 38年も昔「花街の母」がヒットした直後、もずは業界実力者から上京をうながされた。相談に来た彼に僕は、東京の作詞家群に混ざるよりは、大阪に蟠踞、それなりの位置を占めて〝地の利〟を得るべきだとすすめた。今や彼は大阪のボスで大変な世話焼きだが、行政まで動かせるようになるとは想像もできなかった。この種イベントにこの種主催者群は稀有のケースで、もずの長きにわたる地元への貢献がしのばれようか。
 10年開催の成果は、第1回グランプリの植村花菜がスターになり、ちめいどや久ぼたなお子らがコツコツと第一線で働いている。
 「芸能・文化の東京一極化に反旗を! 浪花の才能とコンテンツを全国へ!」
 のコンセプト実現のために、僕は微力を尽くして来たのだが、さて、風雲急な大阪政界〝秋の陣〟である。このあとこのイベントと行政の関係は一体どうなるのか? 僕は東京でドキドキしていることになる。

週刊ミュージック・リポート